018:二人目の少女(1)
◇2038年9月@福島県二本松市《安斎真凛》
関口仁志が向かいのアパートの一室から出入りする「謎の光」に気付いた頃、実は、福島県二本松市の山沿いにある温泉街、岳温泉にて、とある少女が初めて光を纏い、新たな「ムシ」へと進化を遂げていた。
ちなみに、二本松市というのは、東の海沿いから浜通り、中通り、会津地方の三つに分かれる福島県において、中通りにある二つの中心都市、福島市と郡山市に挟まれた地方都市である。
さて、その「ムシ」になった少女の名前は、安斎真凛、六月生まれの小学六年生だ。
その真凛は、強めの弱視というハンディキャップを抱えている。当然、近視とは違うので、眼鏡を掛けても矯正はされない。
だけど、そんな事より真凛の本当のハンディキャップは、彼女が育った家庭環境にあったのだ。
一人っ子である真凛の両親は、同じ温泉街の別々のクラブで働いている。
父親の芳賀力哉は、某有名旅館の地下に入っているクラブのバーテンダー。今はオーナーの信頼も厚く、事実上は店を任されている存在だ。歳はアラサーで、ダンディなイケメンといった所。仕事柄、女性には非常にモテる。
ところが、この父親には、時折り妻に暴力を振るう悪癖があったのである。つまり、外面を気にする彼は、ストレスを家庭で発散している訳だ。そして、その悪癖は次第にエスカレートして行って、時には自分の娘にさえ平気で殴り掛かったりもする始末。
要するに力哉は割と気が小さい男であり、身内の妻と娘にしか大きく出られない、というか、その二人に甘えているのだが、暴力を振るわれる方はたまったもんじゃない。実際、妻の安斎希美は、彼と別れる事を真剣に考え始めていたりもする。
一方、母親の安斎希美が働くのは、力哉が働く旅館から二分の距離にあるキャバクラである。そこは温泉街の目抜き通りに面した繁盛店で、希美は自称二十三歳の現役キャバ嬢として働いている。
彼女の実年齢は二十八歳だが、幾分、童顔で若々しく見える為、とても歳を偽っているとは思えない。まして、十二歳の子供がいると言って信じる者は、彼女の客には絶対にいないだろう。
そんな訳で、今の所、「まだまだ、やれる」と思っている希美だが、店のスタッフや若いキャスト達の目は厳しい。さすがに正面切って言われた事はないが、『あんた、いつまでやるの?』と思われているのは明らかで、その上、最近は夫の力哉にすら呆れられていたりする。
「お前も良い歳なんだから、そろそろスナックとかに移ったらどうだ? アラサーでキャバ嬢だなんて、みっともねえだるおが」
でも、駄目なのだ。うちにはお金が無いし、借金だってある。少なくとも、あと数年は頑張らないと……。
希美は、そんな風に思って、毎日、一生懸命に働いている。だけど、夫の力哉はお金にルーズで、そのくせ、家計のやり繰りは妻の役目だと思い込んでいる。
そもそも借金を作ったのは力哉の方だというのに、「お前が何とかしろ!」は、おかしいじゃない! あんたの借金さえ無ければ、こんなボロいアパートになんか住んじゃいないっちゅーに!
本当は、そう言ってやりたいけど、口にしてしまうと殴られるので、希美が面と向かって言う事はめったにない。それでも、時々は口から漏れてしまう事はあって、そんな時は容赦なくボコられる。さすがに商売道具の顔は殴ってこないけど、身体の方だって、ダメージに依っては仕事に差し支える。
一度なんか、肋骨を折られたことがあった。お店には「階段から落ちた」事にして一ヶ月近く休んだけど、だいたい誰が階段から落ちて肋骨なんて折るかよ!
とはいえ、借金が返せないのには希美の方にも問題がある。それは、希美の金遣いが力哉以上に荒い事だ。気に入ったものがあれば、即座に買ってしまう質なのだ。それはもう、病気としか言いようがないレベルである。
それに、希美の場合、素行にも問題がある。さすがに若い頃のようにホストクラブに足を向けたりはしないけど、店が終わった後に客と一緒に飲みに行ったバーで飲み過ぎたフリをして、そのままお持ち帰りされる事が度々あるのだ。そんな時は、たいてい陽が高く昇るまで帰って来ない。そして、客にお小遣いをねだったり、店への同伴をせびったりしている。
希美は、家計の足しにする為の枕営業だと主張しているけれど、さすがにやり過ぎだし、本人だって楽しんでいるに決ってる。何故なら、相手はイケメンの若手実業家やイケオジの金持ちばかりで、太ったオヤジとかには見向きもしないのだから……。
そんなこんなで真凛の両親には、それぞれに問題がある。だけど、その二人の最大の問題は、いつだって娘の真凛の養育を二の次にしてしまう事だ。彼らに言わせれば、「娘の自主性に任せた子育て」なのだそうだが、実際は「ほったらかし」に過ぎない。
それでも真凛は、自分の事を可哀そうだなんて思ったりしない。彼女は、どんなに理不尽な目に遭ったとしても、いつも明るく元気に」をモットーに頑張っている健気な女の子なのである。
★★★
真凛の外見には、矢吹天音との共通点が幾つもある。
まずは華奢で痩せた体型である事。小顔で手足が長い所とかも、天音と似ている。ただし、百五十センチに少し足りない身長は、小学六年生としては平均ぐらいでも、小柄な天音よりも発育が良いと言える。
髪は淡い茶色で、天音ほどではないにせよ日本人離れした髪色だ。そして、その髪は天音よりも強くクルックルに丸まっていて、肩の下辺りまで伸びている。
瞳の色は、薄茶。もちろん二重な上に、大きくてチャーミング。イケメンと美女の両親の影響があってか、顔面偏差値は相当に高い。それに色白の肌と、天音よりも明るい性格とが相まって、「さすが、売れっ子キャバ嬢の娘」と言われる程には、綺麗で可愛い美少女だ。
そんな美少女の真凛でも、それでも天音と同様に、幼少時から様々なイジメに遭ってきた。しかも真凛の場合、その主犯が教師というパターンが目立つのだ。
一人目は、小学校に上がって最初の担任の杉内先生だった。女性教師の彼女は、いきなりキャバ嬢の娘である真凛の事を、酷く偏った色眼鏡で見てきた。髪が淡い茶色であるのも、杉内という教師の偏見を助長したのは言うまでもない。
それから、その三十代と思われる小太りの女性教師は、あからさまな態度で真凛を居ないものとして扱った。すると、先生の言う事を鵜呑みにした他の子達もまた、真凛を除け者にし始める。そうなれば、それがイジメに発展するのは時間の問題だった。
教室に居場所を無くした真凛は、自然と学校から足が遠のいてしまう。そして、真凛は学校が大っ嫌いになった。
三年生と四年生の時の担任教師は、同じ女性だったけど、可もなく不可もなくといった感じだった。
それでも、一度は教室から遠のいた真凛を再び教室に引き戻してくれたのだから、決して悪くはなかったと言える。
問題は、五年生と六年生の担任教師である。
その問題教師の名前は、桑原拓斗という。三十六歳、独身。体型は小柄で痩せ型。見るからに冴えない風貌なのだが、その彼は以前、母の希美の客だった事があり、その時にしつこく言い寄ってきたらしい。更には指輪まで用意して、「結婚してくれ」と迫られたそうなのだが、もちろん希美は断った。つまり桑原は、その時に振られたのを未だに根に持っているという訳だ。
それが三年くらい前の事で、その時点でも希美は人妻だったのだから、プロポーズなんかされたら断るのが当然だ。しかも桑原は、最初から希美が人妻なのを知ってたというのだ。もう、いったい何を考えてんだか、訳が分かんない。
とまあ、この事を聞かされた時、真凛は大いに混乱した訳だが、桑原という男は、知れば知るほど、倫理観がぶっ壊れたヤバい男だったのである。
END018
ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。
次話も安斎真凛の身の上話になります。
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★★★
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(ジャンル:パニック)
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