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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第三章 愛の英雄の誓い 編

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第7話 バイバイね…… 17 ―英雄よ、冷静になれ―

 17


「クソッ!! 何しに来やがった!!」


 セイギは飛ばされたが、すぐに立ち上がる。芸術家に向かって剣を構えた。


「何しに来やがったですってぇ♪ なんて失礼なお言葉♪ 私はずっと居ましたよ♪ ホムラギツネが現在の姿になる前からずっとぉ♪ まぁ、さっきまで瓦礫の下に埋もれてしまっていましたがねぇ♪ そうですよね? 桃色の英雄さん?」


 芸術家は校庭の隅に座るアイシンを見た。

 アイシンは、セイギとユウシャの戦いを手に汗を握って見ていたが、芸術家が現れた瞬間に握られた拳は別の意味を持った。

 怒りを孕んだ眼差しで芸術家を睨んだアイシンは、声の限りに怒鳴る。


「また出てきたの!! せっちゃん達が来たなら、アンタなんかギタギタのボコボコ――」


「ホホホォ~~♪♪ いい加減、煩い小娘ですねぇ♪ 赤と青の石に関しては貴女の口からお話しした方が良いと思ったのですかぁ~~~♪♪」


「赤と青の石? 赤があるのは聞いたけど、青もあるのか?!」


「ホホォ♪ 赤い英雄さんは石が二種類あるのをまだ知らなかったのですかぁ~~♪♪ それは意外、爽快♪ それよりも赤い英雄さん♪ その恐ろしい剣を向けるのはやめてもらって良いですかぁ~~♪」


 ホムラギツネの前に立つ芸術家は筆を振った。

 毛先が向いていたのは自分の体。歌いながら自分の体を撫でると、芸術家は姿を消した。


「えっ?!」


 ……とセイギが目を見開くと、セイギの背後に影が落ちる。


「ホホホホホォ♪ こっちですよ、英雄さん♪」


 何をどうしたのか、芸術家はセイギの背後に現れた。それから、「さらさらさらぁ~~♪♪」と歌いながら筆を振る。

 今度、筆を向けられたのはセイギ。

 芸術家はセイギの背中を撫でた。すると、今度はセイギが消える。


「あっ!!」


「嘘だろボズ!!」


「せっちゃん……!!」


 この光景を見たユウシャ、ボッズー、アイシンは驚くが、次の瞬間には彼らの視線はホムラギツネの隣に向く。

 何故なら、セイギがそこに現れたからだ。


「な、何なんだ!! 突然目の前が真っ暗になったと思ったら、何で俺はここに……」


「ホホホォ~~♪ 驚きましたかぁ♪ 貴方達に分かりやすく言えば、瞬間移動、テレポーテーションでございますぅ♪ 私の筆は只のお絵かき道具ではございません♪ 色々な事が出来るぅ~~♪」


 芸術家は自慢気に口元を歪めると、ホムラギツネを指差した。


「さぁさぁ、ホムラギツネさん♪ チャンスですよ、やっちゃいなぁ♪♪」


「ギィェ!!」


 ホムラギツネは立ち上がった。隣に立つセイギに向かって、鋭い爪を立てた手で殴り掛かる。


「うッ……ちくしょう!」


「ホホホォ♪ 悔しいですかぁ、赤い英雄さん♪ 折角、ホムラギツネさんを倒すチャンスだったのにぃ♪ でも、それは本当にチャンスかなぁ?」


 セイギは咄嗟に大剣を盾にしてホムラギツネの攻撃を防いだ。だが、ホムラギツネは右に左にと連打してくる。ただ攻撃を防ぐしか出来ないセイギに向かって芸術家は首を傾げる。


「英雄さん達は一度間違いを犯しましたぁ♪ ピエロさんに騙されて♪ 輝ヶ丘を離れてしまった♪ そして、ここに来るのが遅れた……そうですよね?」


「あぁ……そうだぜ! だから、お前に邪魔される時間は無ぇんだ!!」


 セイギは足を上げた。ホムラギツネの身長は二メートルはある。両手を使っての攻撃のみなら腹がガラ空きだった。


「ギィッ!!!」


「悪いな、芸術家ッ! 俺の武器は剣だけじゃねぇ! 俺の体全体が俺の武器だ!!」


 腹を蹴られて後退したホムラギツネに向かってセイギは走った。大剣を振るう――


「ギィ……!!」


「ホホホォ♪」


 今度はホムラギツネが防いだ。

 両手を突き出して刃を受け止め、胴体までは行かせなかった。


「このぉ!!」


「ギィェ!!」


 どちらの攻撃も芯を捉えず、セイギとホムラギツネは距離を取る。

 距離を取って睨み合い、どちらも相手の隙を探す。


「ホホホホホォ♪ 一進一退、そして睨み合い♪ お二人の息は合っていますねぇ♪ しかし、英雄さん♪ 邪魔をされる時間は無いと仰いますが、それは何故? 貴方達は何をするおつもりぃ~~♪♪」


「決まってるだろ!! バケモノを人間に戻して輝ヶ丘を救うんだ!!」


「ホォ~~、輝ヶ丘を救うとは、"赤と青の石が生み出す炎から"という意味ですかぁ~~♪」


「当たり前だろ!! 輝ヶ丘を火の海にはさせねぇ!!」


「そうだ……邪魔をするならば容赦はしない!!」


 轟音が鳴る。芸術家に向かって蒼い光弾が飛んでくる。

 ユウシャがビッグバンブレイブを発射したのだ。


「やれやれ、青い英雄さんはその技がお好きですねぇ♪ でも、私には届きません♪」


 芸術家は筆を振った。毛先が光弾を撫でる。直後、校舎の瓦礫の一部が爆ぜた。


「なにっ……ビッグバンブレイブさえも――」


「出来ますよぉ♪ テレポーテーション♪ 青い英雄さん、邪魔をしているのは貴方ですよ♪ だって私はアドバイスをしようとしているだけ♪ 貴方達の見当違いな行動を正そうとしているだけぇ~~♪ 貴方達はまた間違いを犯したいのですかぁ♪ ピエロさんの嘘に騙された時の様に♪」


「何だとッ!! どういう意味だッ!!」


 セイギが言った。しかし、芸術家の視線はセイギには向かない。再び、アイシンへと向かう。


「どういう意味ですか……やっぱり、それを話すのは桃色の英雄さんが適しているかもですねぇ♪ だって、貴方達はさっきから私の話に耳を貸そうとしないから♪ お仲間が話す方が良いかも♪」


 芸術家はまた筆を振った。自分の体を撫でた。


「はっ!!」


 と、アイシンが息を呑むと背後で気配がする。


「どうです? 貴女が話すべきだとは思いませんか♪」


「このぉ……」


 やはり芸術家はアイシンに接近してきた。

 振り向くと、そこに居た芸術家は後ろ手を組み、逆三角形の目を見開いて聞いてくる。


「そうですよねぇ♪ 桃色の英雄さん♪」


「クソ野郎!! 黙れ!!」


 しかし、アイシンは答えなかった。芸術家が姿を見せた時点で覚えていた怒りが爆発し、アイシンは殴りかかった。


「アンタなんか、アンタなんか、絶対に許さないッ!!!」


「オッホホホ♪ 危ない、危ない♪ もうぅ♪ 女の子なのに貴女は随分と野蛮ですねぇ♪」


「煩い!! 誰がそうさせるんだよ!!」


 芸術家は簡単な相手ではない。アイシンの拳は、芸術家が軽く上げた左手に受け流されてしまう。

 けれどもアイシンも引かない。芸術家に向かって怒鳴り続ける。

 真田萌音をバケモノにした張本人である芸術家は、萌音を愛するアイシンにとってはゼロからでも激怒を呼ぶ相手になってしまっている。何も知らずにいるセイギ達よりも更に冷静ではいられなかった。


「また現れやがって!! お前のその長い顎を今すぐにへし折ってやろうか!! お前のせいで、お前のせいで先輩はッ!!」


「OH♪ ノンノン♪ 女の子なんだから野蛮な言葉は控えましょうよ♪ それに、私が何か貴女の不利益になる事をしましたか? 貴女に真相を教え、そしてまた貴女のお仲間にも教えようとしている♪ 怒られる筋合いはございません♪」


「煩い!! お前が全ての元凶だろ!! お前さえいなければ、先輩はバケモノになってない!! 輝ヶ丘だって平和でいられた!!」


「おっと、それは間違いです♪ 輝ヶ丘の危機は私のせいだけではない、《王に選ばれし民》のみんなのせいぃ〜〜♪」


「煩いって言ってんだよッ!!!」


 アイシンの揚げ足を取り、芸術家は「ホホホォ♪」と笑った。

 冷静ではいられないアイシンは、その笑顔に向かって拳を振り上げる。


「待てアイシン!! 冷静になるんだボズ!!」


 だが、ボッズーの制止が入った。


 ボッズーは芸術家を睨みながらも、「俺はそいつが何を言いたいのか知りたいボズ……」と言った。


「OH♪ 英雄さんのお仲間にも冷静な方がいらっしゃったみたいですねぇ~~♪」


「煩いぞ、芸術家……俺もお前に怒ってはいるボズ、誰がこの事件の裏にいるのかって、聞かなくても想像くらいはついていたボッズー! やっぱりお前だったんだなボッズー!!」


「ホホゥ♪」


「でもなアイシン、コイツが黒幕だったとしても、いまは冷静になるんだボッズー。真相ってのは何なんだボズ? それを俺達にも教えてくれ。目の前の敵を殴るよりも、世界を救うのが英雄の使命だぞボッズー!!」


「目の前の敵を殴るよりも……」


 アイシンは振り上げた拳を止めた。

 芸術家への怒りは止められないくらいに大きいが、『世界を救うのが英雄の使命』というボッズーの言葉にアイシンはハッとする。自分が何者なのか、何をするべき人間なのかを思い出す。


「アイシン、キミが芸術家に怒る理由も大体は想像がついてるだボズ……あのバケモノの正体は、尊敬していた先輩なんだろ? 真相ってのが何かは想像出来ないけど、彼女を人間に戻す為にも俺達も知らないといけないと思うボズ!」


 ボッズーはホムラギツネと睨み合うセイギにも、芸術家に向かって銃を構えるユウシャにも呼び掛ける。


「二人も冷静になるんだボズ、俺達は今度こそ間違えちゃいけない、そうだろボズ? 真相があるというなら先ず聞くだボズ、それが嘘かどうかはその後に判断するんだボッズー!」


 ボッズーの判断が間違いだとはセイギもユウシャも思わなかった。

 二人共が知りたくなっていたからだ。『真相とは何だ?』と。だから二人は頷いた。セイギはホムラギツネと睨み合いながらも、ユウシャは一時的に銃を下ろして。


「どうやら、最初から小鳥さんが説得した方が良かったみたいですねぇ♪ 英雄さん達はやっと聞く姿勢になってくれた♪ でも、もう私は喋り疲れました、お話しするのはやはり桃色の英雄さんにしてくださいぃ〜〜♪」


 芸術家はそう言うと、近くにあったベンチに向かって歩き、腰を下ろした。


「間違いがあったら正しますからぁ♪ どうぞ、お喋りください♪」


「間違える筈ない、アンタが言ったこと、忘れてないから……」


 アイシンはほくそ笑む芸術家を睨んだ。それからボッズーを、セイギを、ユウシャをと、順繰りに見て、芸術家が『真相』と云う赤と青の石に関する全てを話し始めた――



 この時、英雄達は誰も気にしていなかった。『ホムラギツネは何故、セイギと睨み合うだけなのか』と。

 セイギは『ホムラギツネもこっちの隙を窺っている』と思っていた。自分がそうであるし、この考えに間違えもない。

 しかし、ホムラギツネには火柱の尾もあれば火の玉もある。ジャスティススラッシャーを放たなければ接近戦しか出来ないセイギとは違うのだ。

 しかし、ホムラギツネはまるで接近戦しか出来ない存在の様にセイギを睨んでいる。

 時に「ギィッ!!」と鳴き、セイギを威嚇するが火の玉は吐かない。セイギをビクリとさせるだけだ。ビクリとした瞬間に跳び掛かろうと構えはするが、セイギもまた構えを直すとやめてしまう。ビクリとした瞬間に火柱の尾を振ってしまえば攻撃が出来るだろうに、それをしない。

 火柱の尾自体も地面に倒れてしまっている。アイシンと戦っていた時は、先端を天に向けて、地面からは浮いていた筈なのに。現在はそうではない。


 芸術家が現れずにホムラギツネとの戦闘にだけ集中出来ていれば、セイギかまたはユウシャが、それともボッズーが、ホムラギツネと戦い続けていたアイシンが、英雄の内の誰かが、必ずホムラギツネの変化に気が付いていた筈であるが、四人の集中はホムラギツネだけでなく芸術家にも向けられてしまった。その為に気が付かなかった。気が付かずにいてしまった……。

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