第7話 バイバイね…… 14 ―火柱の尾―
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アイシンは太く長く伸びたホムラギツネの尾を見上げて再び腕時計を叩いた。
尾はまるで火柱だ。黒くて太い火柱になった。
これで攻撃されては三回分の鎧では防ぎ切れないだろう。
叩いた数は計五回。これで合計八回分の鎧を纏った事になる。
「どんなに凄い武器を出してきても、私は負けませんからね!!」
アイシンは走り出した。攻撃は最大の防御だ。
勇猛果敢にホムラギツネに向かっていく。
「ギィーーーーーーェーーーーーーー!!!!」
ホムラギツネはアイシンが走り出すと四つ足のままで体を振り、火柱の尾を振り回し始めた。
尾が振られるとブォンと鳴る。重量感のある音が、凶暴な音がアイシンの耳を突く。
そして、
「あっ!!」
アイシンの前方に尾が落とされた。
輝ヶ丘高校の校庭はコンクリート作りではなく、砂利が敷かれている。掘れば穴が空く。
尾を落とされてもそれは同じ。大きいな穴が空いた。
「嘘っ、やばいかも……鎧の数がまだ足りないかも」
アイシンは後退りして呟く。
その矢先、尾はまた持ち上がり、今後はアイシンの右隣を叩いた。
ホムラギツネは遊んでいるのか、それとも尾が大き過ぎてコントロールが効かないのか、アイシンに直撃はしない。しないが、すればどうなるかはアイシンは分かる。
アイシンの顔には冷や汗が流れた。
「直撃したら骨の一本や二本では済まないでしょ、どうしよう……うわっ!!」
「ギィーーーーーーェーーーーーーー!!!!」
アイシンが恐怖を感じた瞬間、ホムラギツネはグルリと体を回転させて左方向からアイシンの体を薙ぎ払った。
薙ぎ払われたアイシンは宙に浮く。この時、アイシンの体を包んでいたピンク色の光は消えてしまう。
「!!!」
アイシンは宙に浮きながら八回分の鎧が消えた事に驚いた。
「ギィーーーーーーェーーーーーーー!!!!」
アイシンの驚きは掻き消される。下方からは再びホムラギツネの叫び声が聞こえ、右方向からはブォンと凶暴な音が聞こえたからだ。
直後、全身に痛みが走る。合計八回分の鎧が一気に消えた事を納得してしまう激しい痛みだった。
アイシンは叩かれたのだ。鎧も無しに叩かれてしまったのだ。
アイシンは更に高く宙を舞い、そこにホムラギツネの追撃が襲ってくる。三度目の攻撃は突き上げる様に下からだった。打撃の痛みと炎の熱さが混ざった痛みが全身を貫き、アイシンは叫び声すらあげられなかった。
「……ッ!!!」
アイシンの視界は眩む。しかし、ここで気を失ってしまえば後は屠られるだけだ。アイシンは気力で体を動かして腕時計を叩こうとする……が、何かに腕を掴まれた。
「今度はなに……」
眩む視界で掴まれた右腕を見ると、そこには尾があった。ホムラギツネの尾だ。ホムラギツネはアイシンを突き上げると、一纏めにしていた尾を再び九本に戻したらしい。その内の一本がアイシンの腕を掴んでいる。
「うっ……そ……」
それからすぐに、左腕にも、胴体にも、尾が巻かれた。
身動きを封じられてしまったアイシンは、視線を右腕からホムラギツネがいる下向へと移す。すると、ホムラギツネの口があんぐりと開く光景が見えた。
「や……ばい」
火の玉が来る。
確実にそうだった。
アイシンには武器がない。身動きを封じられては起死回生の一手も打てない。絶望的な状況だ。火の玉に撃たれる未来しか見えない。
撃たれた未来の先には死が見えた。
見たくない未来から目を背ける為にアイシンは目を瞑った。
ビュー……
ビュー……
「んっ……?」
目を瞑れば五感が研ぎ澄まされるのは誰もがそうだ。英雄でも同じだ。これまで聞こえてこなかった音が聞こえてくるものだ。
アイシンもそうだった。目を瞑ってみると、ビュービューと風を切って何かが飛んでくる音が聞こえた。
火の玉が飛んでくる音だろうか。否、風を切る音はもっと上、アイシンの上空から聞こえてくる。
「え……? なに?」
アイシンは瞼を薄らと開いた。火の玉ではないのなら、飛んでくる物はいったい何だろうか。予測がつかない。つかないが、音が聞こえてくる方向に意識を集中してみると、風を切る音と共に話し声があるとも気付いた。
「いたぞ、あそこだ」「急げ、飛べ」……等々の騒がしく話す声が聞こえた。三人いる。三人の少年の話し声だ。
そして、アイシンは完全に瞼を開く。
声が聞こえると目を背けたくなる未来も見えなくなったからだ。
何故ならば、聞こえてくる声はアイシンが信頼する者の声だったからだ。
待ちに待った者たちの声だったからだ。
幼い頃からの親友の声だったからだ。
「デェリヤァッ!!!」
真っ赤な英雄が、アイシンの胴体を掴むホムラギツネの尾を斬った。




