第7話 バイバイね…… 10 ―黒幕は嘲笑う―
10
「もう少しだ……後、十発くらいでいける!」
「どうだろ、その倍くらいは掛かるんじゃないかボッズー」
「だとしてもいけるぜ!」
ジャスティススラッシャーが生んだ巨大テハンドの亀裂は攻撃を加える度に深く深くなっていった。
「ユウシャ、もう少しだ、続きを――」
セイギは亀裂から視線を外すと、巨大テハンドの上で二丁拳銃を構えるユウシャを見た。
直後に爆音がする。
指示は必要なかった。ユウシャの二丁拳銃から放たれる光弾=ビッグバンブレイブが発射された。
「いちいち言わなくても良い、俺は撃つ! お前は黙って剣を振り続けろ! 腕が折れようが、やるべき事をやれ!!」
「へへっ、そうだなぁ! さぁラストスパートだッ!!」
セイギは大剣を構え、ソレを斬る。
大剣の力へと変える為に、輝ヶ丘へ戻る為に。
―――――
「芸術家ッ!! いつの間にッッ!!」
アイシンは拳を握って立ち上がった。
芸術家は教室の隅に居た。教室の入口の扉に背中を預け、ニヤリとした笑みを浮かべながら。
「いつの間に? あらあら♪ とっくの昔から居ましたよぉ♪ お嬢さん達が気付かなかっただけぇ~~♪」
「私はアンタを許さないッ! アンタが先輩をバケモノに変えたって全部聞いたんだから!!」
アイシンは拳を構えて走り出した。
「おっとと♪ 暴力はやめてくださいぃ~♪ 私は貴女と戦いに来たのではないぃ~~♪♪」
「煩い!!」
「う~ん♪ 危ないぃ〜〜♪♪」
アイシンは飛び掛かる様にして芸術家に向かって左、右、と拳を振った。
しかし、当たらない。芸術家はメトロノームの様に上半身だけを動かしてアイシンの拳を避けてしまう。
ドンッ!!
「あぁッ!!」
そして、アイシンの攻撃を避けた芸術家は左手を突き出す。
軽く前に出しただけに見えた。だが、アイシンの体には衝撃が走る。
アイシンは宙に浮き、天井にぶつかる。それから落ちる。
「うぅッ!!!」
「桃ちゃん!!」
床に倒れたアイシンに萌音が駆け寄った。
「大丈夫、桃ちゃん!!」
「先輩……う、うん、このくらいなら、先輩の方が強かったよ!」
アイシンはそう言ってすぐに立ち上がろうとするが、胸には強い痛みが残った。颯爽とは立ち上がれない。
「桃ちゃん……」
萌音はそんなアイシンを助けようと、アイシンの体に腕を回した。
「ホホホホホォ~~♪ 良いですねぇ♪ 美しい友情ですねぇ~~♪ 友情……それもまた芸術ぅ♪ しかぁ~~し、貴女方は英雄とバケモノぉ♪♪ 仲良くしていてはいけないぃ~~~♪♪」
芸術家は三角形ばかりが集まった体を丸めて腹を抱えた。この姿に萌音が激昂する。彼女は「煩い、黙れ!!」と芸術家を睨んだ。
「ホホォ♪ 真田さん♪ こんばんはぁ♪ どうですかぁ? 久し振りに人間に戻れたご気分はぁ♪」
「悪いけど最高だよ……お前がくれた反吐が出る力で真っ黒に染まっていた私の心も、桃ちゃんのお陰で大分白くなれた気がするよ!!」
「ホホォ♪ それは凄いですねぇ〜〜♪♪」
「これ以上桃ちゃんに手を出したら私が承知しないから!!」
「OH♪ 承知しないとは、どういう意味ですかぁ♪」
「お前がくれたこの力を……お前を倒す力にしてやるって意味だよ!!」
マイナスにマイナスを掛ければプラスになる。いまの萌音もそれと同じだった。
弱っていた筈の萌音の心は熱く沸き立っている。自分をバケモノに変えた宿敵が、芸術家が目の前に現れたからだ。
萌音は全身に力を込めた。アイシンによって本来の自分を取り戻した萌音は、バケモノの力を、『心が真っ黒に染まる』と忌み嫌っていた力を、芸術家と戦う為に、アイシンの力となる為に、人間である自分の武器として使おうとした。
「ムホホホホホホォ~~♪」
だがしかし、芸術家は高笑いをあげる。
「真田さん♪ 真田さん♪ もしかしてホムラギツネに変化なさるおつもりですかぁ♪ でも、無駄です♪ 無駄です♪ 今の貴女はホムラギツネには成れないぃ♪」
「なに言ってんだ、そんな訳ないだろッ!!」
「ホホホホホォ~♪ 訳ある♪ 訳ある♪ だって私は貴女をバケモノに変えた張本人ですからぁ〜〜♪ 貴女の力の制御などお手の物ですぅ〜〜♪ ホムラギツネの力は筆の中に仕舞いましたぁ〜〜♪ 私が戻さない限りは、貴女はホムラギツネの力を使いたくても使えないぃ~~~♪」
芸術家は右手に持った筆を萌音に見せ付けながら、左手の人差し指で毛先をサラサラと撫でた。
「ホホホホホォ~~♪」
「この野郎ぉ……勝手に私をバケモノにして、今度は勝手に力を奪うなんて!!」
「いやいやぁ♪ これは私の優しさと受け取ってほしいぃ♪♪ だって私は貴女たち二人に和解のチャンスを与える為にホムラギツネの力を奪ったのですからぁ~~♪♪」
「自分が先輩をバケモノに変えたくせに、和解のチャンスを与える! 何の為に!!」
萌音に支えられて立つアイシンが怒鳴った。
対して芸術家は「ホホォ♪」と笑う。二人の少女に睨まれながら余裕の笑みを浮かべる。
「何の為にってぇ、貴女達はこれから最期の時を迎えるからですよぉ♪ その前にぃ♪ 真田さんに愛を与えてくれた英雄さんとぉ♪ 私に素晴らしい芸術を見せてくれた真田さんにぃ♪ 特別な時間をプレゼントしたかったのですぅ~~♪♪」
「最期の時? ううん、それはどっちに来るか分かんないよ!!」
芸術家に挑発されてもアイシンは屈しない。言い返せる言葉は沢山あるからだ。
「アンタには、輝ヶ丘に響いている『ドーンッ!!』って音が聞こえる? これが何か分かる? 先輩が屋上を壊そうとしてる時に私は気付いた、この音は私の仲間が必死になって輝ヶ丘に戻ろうとしてる音だってね!!」
「ホホホホホォ~~♪ そうなんですかぁ♪ でも、興味ありません♪ 私が興味があるのは芸術だけですからぁ♪」
「笑ってられるのも今の内だって分からない? "三本の矢"って言葉を知らないの? 私の仲間がここに来たら、そしたら私達はアンタをギタギタのギチギチにブッ倒してやるんだから!!」
「ホホォ♪ そうですかぁ♪ そうですかぁ♪ でもでもぉ、忘れていらっしゃるのではありませんかぁ♪ 既に赤と青の石の力は発動してしまっているのですよぉ♪ 私に構っている暇はない筈ですぅ♪ そんな事をしている間に輝ヶ丘は燃えてしまいますよぉ~~~♪♪」
「私はアンタの嘘には騙されないよ! アンタは先輩のバケモノの力をその筆の中に仕舞った、バケモノの力がアンタの筆の中にあるなら、ホムラギツネの能力だった石の力もその筆の中にある……って事は、町は燃やせない!! どっちが良い? 嘘を吐き続けて私の仲間が来るのを待ってギタギタにされるのか! それとも先輩にホムラギツネの力を返して私と先輩にギチギチにされるのか!!」
このアイシンの口撃に萌音も加わる。
「桃ちゃんの言う通りだよ、どっちが良いの? 私に力を返した方が懸命だと思うけどな! だって英雄は強いから、アンタはギタギタどころかグチャグチャにされちゃうかもよ!!」
「ほぅ♪ そして貴女にバケモノの力を返せば、貴女は輝ヶ丘に火をつけるのをやめる……そうなさるおつもりですね♪ ホホォ、貴女はバケモノの力を返されても、もう悪には戻らないと言うのですかぁ♪」
「当たり前じゃん、私は私を信じる! 恐ろしい力だって、恐れているから悪い物になるだけだ、誰かを守れる力だって信じれば、きっとそうなる! それにアンタのお陰で嫌になる程知ったよ、私は輝ヶ丘を愛してるって……友達も、家族も、誰も傷付けたくない! 私自身が守ってみせる!!」
「OH~~♪♪ 奇跡です♪ 奇跡が起きましたぁ♪ 真田さんは忌み嫌っていたバケモノの力を自分の力にすると決意したのですねぇ~~♪♪ 真田さん♪ 貴女は勝利の女神になろうとしているぅ~~♪」
賞賛する様に芸術家は手を叩くが、これを嘲笑いだと理解出来ない二人ではない。
「笑いたければ好きなだけ笑えば良いよ、私を馬鹿に出来るのも今の内だからね!!」
「そうだよ、先輩を舐めないで!!」
「ホホホホホォ~~♪ 威勢の良い少女達だ♪ しかし、私は馬鹿になどしていませんよぉ♪ 私は人間の奇跡に感動しているだけです♪ 人間は強い生き物だ♪ 生きながらにして生まれ変われるのでしょう♪ しかぁ~~し、真田さん♪ 誰も傷つけないとおっしゃりましたが、それではやはり輝ヶ丘を燃やすのをやめるのですねぇ~~♪ ですが、貴女はその方法を知っているのですかぁ~~♪」
萌音は知らない。知らないが、赤と青の石を自分に与えられたバケモノの能力と思う萌音は、知らなくとも関係ないとも思っていた。自分自身の能力なのだ、制御出来ない筈はないと萌音は自分を信じるからだ。
「さぁ、分からないよ、分からないけど、自分の能力なんだ! 止める事は出来る筈でしょ!!」
「ホホォ♪ でもでもぉ♪ 今までの貴女は自分を制御出来なくて苦しんでいたのではぁ♪ それなのに燃やすのは止められるとぉ♪」
「いまの私はさっきまでと違うんだって! 桃ちゃんから"愛"を貰ったからね! 桃ちゃんからの"愛"のお陰で、私はホムラギツネの力を制御出来る! その自信を持ったって言ってるだろ!!」
「ホホホォ~~~♪ そうですか♪ そうですか♪ 愛を貰ったのですかぁ♪ まるで、青い石みたいだ……でもでも♪ 真田さん♪ 貴女は勘違いをしていますよぉ〜〜♪」
「勘違い、何の話?!」
「ホホォ……だってぇ、私は一度でも言いましたかぁ♪ 赤と青の石はホムラギツネの能力だって♪♪」




