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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第三章 愛の英雄の誓い 編

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第7話 バイバイね…… 7 ―流れた涙―

 7


 ホムラギツネの涙は白い毛を伝ってアイシンの仮面に落ちた。


「先輩……」


 驚いたアイシンはホムラギツネを抱き締める腕をほどく――アイシンの抱擁がホムラギツネの体を支えていたのだろう。アイシンが腕を退けると、ホムラギツネは膝から崩れ落ちて、教室の木床の上に倒れてしまう。


「ダァズゲェ……ダァズゲェデ……」


「あっ……先輩!!」


 アイシンはホムラギツネの傍らに膝をつくが、ホムラギツネは苦しそうな声で同じ言葉を繰り返し言い続ける。呼吸は荒い。これは戦いで乱れた呼吸とも違う。胸は大きく上下し、体全体で呼吸をしている。ホムラギツネに不穏な異変が現れている事は明らかだった。


「せ……先輩、どうしたの?!」


 アイシンには何が起こったのかが分からなかった。ただ焦ってホムラギツネの体を揺さぶるだけ。

 アイシンに揺さぶられると、ホムラギツネは「ギ……ギィ……」と咳き込む様に鳴いた。

 鋭い牙が見える顎はガクガクと震え始める。


「え……なっ……ど、どうしたの先輩!!」


 この震えはすぐに激しくなって、全身にも拡がっていく。

 アイシンの焦りは更に増す。『このままでは先輩が死んでしまう』と思った。


 しかし、アイシンの焦りとは真逆に、ホムラギツネの痙攣は一度全身に拡がると、今度は静かになっていく。

 痙攣の始まりから治まるまで、およそ五秒程だった。痙攣が治まると荒れていた呼吸も静かになる。


「あっ……せ、先輩!!」


 そして、呼吸が正常に戻ると変化が起こる。

 この変化にアイシンは驚いた。

 ホムラギツネが人間の姿に戻っていくのだ――


「先輩!! 人間に……人間の姿に!!」


 アイシンは驚きながらも喜んでいた。

 ホムラギツネの全身を覆っていた白い毛は全て抜け落ちた。

 風が吹いた。

 A組にあった窓は火の玉に破壊されて外気を防げなくなっている。隣の教室にも風が吹き、抜け落ちた白い毛が宙に舞っていく。


「も……も……ちゃん」


「先輩!!」


 真田萌音は虚ろな目をして、傍らに座るアイシンの手を取った。

 アイシンはその手を握り返す。

「良かった! 先輩、人間に戻れた!!」と嬉し涙を流しそうになるが、これは先走り過ぎたものだった。

 萌音がまた口にしたのだ。


「助けて……桃ちゃん」と。


「くる……しいよ……桃ちゃん、私、苦しい……」


「苦しい? 苦しいって何?」


 アイシンは聞き返す。

 いまの萌音の瞳の奥には闇は無い。虚ろは虚ろだが、出逢った頃と変わらぬ涼しげな瞳に戻ってきている。


「私……やりたく……ない」


「やりたくない?」


「私……殺したくないよ」


 萌音はアイシンの手を強く握った。


「殺したくないのに……心が黒く染まってしまって……悪い事ばかり考えて………皆死んだら良いとか考えて……でも、本当は私、そんな事したくない………どうしたら良いの、桃ちゃん……」


「どうしたら……」


「うぅ……!!」


 アイシンが答えられずにいると、萌音は胸を押さえて苦しみ出した。

 強く握られた筈の手も離れていく。


「先輩……」


 アイシンは萌音の手を再び握ろうとするが、萌音が手を振り、逃げていく。


「ダメだ……まただ……また……また……」


 アイシンの手を弾いた萌音はそう言うと、床に手をついて立ち上がろうとした。だが、目眩がするのだろうか、萌音の体はユラユラと揺れていて、すぐには立ち上がれない。


「ダメだ……ダメ……ダメ!!」


 萌音は四つ這いの格好のまま、首を二回三回と素早く振った。


「先輩、 無理しちゃダメです――」


「ギィーーーェーーーー!!!!」


「え……?」


 アイシンが肩に触れた瞬間、突然と萌音が吠えた。

 しかし、萌音は萌音のままだ。バケモノの姿に戻ったりはしない。

 萌音は「ダメだ……桃ちゃん、消えてない」と言って、少し咳き込むと、人間として喋り出した。


「消えてないんだよ、いますぐ私から離れて……このままじゃ、私、またバケモノに戻る………これは、今までよりも黒い感じだ……桃ちゃんが、私の心を染める物を取り除いてくれたと思ったのに」


 萌音は立ち上がった。ふらふらと定まらぬ足取りで。


「私の心を染める物、それって瑠樹くんが言ってた『もやみたいな物』の事?」


 アイシンは萌音の言う事を聞かなかった。萌音が心配だからだ。


「近付かないでって言ってるでしょ!」


 しかし、萌音が怒鳴った。


「だって、先輩苦しそうだよ、無理しないで……」


「煩い! 無理しないでって、今更何だよ!! 苦しそうって……そうだよ、ずっと苦しかったよ、私の苦しみがアンタに分かるか!!」


 萌音はアイシンを睨んだ。だが、すぐに「違う……違うよ……」と首を振る。


「違う……桃ちゃんごめん……そんな事思ってない……思ってないのに、何で私は言っちゃうの………私が勝手に桃ちゃんに話さなかっただけ……可愛い後輩の桃ちゃんに弱音を吐きたくないって思っただけなのに……本当は八つ当たりなんてしたくないのに……心が黒く染まってから、心の中の悪い感情が湧いてきて、私は私を抑えられない」


 萌音は頭を抱えながら、一歩、二歩と後退し、アイシンから離れた。

 それから、力無く座る。

 座り込んだ萌音の瞳はまだ虚ろだが、闇は無い。


「心が黒く染まってからって、お父さんが亡くなってからの――」


「違う……それじゃない」


 萌音はまた首を振った。


「私がこうなったのは、王に選ばれし民に出会ってからだよ。お父さんが死んだのは関係ない……ううん、関係なくはないか。なくはないけど……でも、"桜の花びら"が私の中に入り込んでからなんだ、私が自分を抑えられなくなったのは」


「さ、桜の花びら?」


 アイシンには萌音の話は掴めない。質問を返す事しか出来ない。


「そう、"桜の花びら"だよ……あぁ、どこから話せば良いのかな? 私、お父さんの力になりたかったんだ。でも、何も知らなくてお父さんの為に何も出来なかった……それがとても悲しくて……」


「じゃあ話してよ、私だって先輩の力になりたいんだよ。先輩と同じだよ、私だって、何も出来ないと悲しいんだから」


 アイシンが「何があったのか私に全部話して」と言うと、萌音は数秒沈黙した。


「先輩……」


「うん……分かった。そうだね、うん。桃ちゃんになら、話すよ」


 萌音は頷いた。

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