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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第三章 愛の英雄の誓い 編

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第7話 バイバイね…… 6 ―戦いは校内へ―

 6


 校内に落ちるとアイシンの腕はホムラギツネの首から外れた。


「ギィーーーェーーーーーッッッ!!!」


 アイシンとホムラギツネが落ちた場所は三年A組の教室内、校内に戦場が移ってもホムラギツネとアイシンの戦いは続いていく。


 ホムラギツネは爪を立てた手を振り、アイシンは拳や足を振り回す。時にアイシンは教室内の机や椅子を武器にした。

 ホムラギツネは火の玉も吐く。

 火の玉を吐く前のホムラギツネは予備動作として顎を上げて口内に炎を溜めるから、アイシンからすれば読みやすく、これまで吐かれた二発はどちらもアイシンは避けられている。


 避けた事で窓が枠ごと吹き飛び、または黒板ごと教室の壁が破壊されたりもしたが、輝ヶ丘高校を愛しているアイシンも戦いの渦中にいては気にしていられない。

 火の玉の直撃を受ければ、窓や壁と同じく、自分も破壊されると理解できるからアイシンは走る。

 壊れた壁を通ってA組の教室からB組の教室へと走った。


 アイシンはB組の教室に入ると黒板の前に立つ。幼少期から学校の先生に憧れていたから真似るなら今がチャンスだと思った……のではなく、武器を持つ為だ。それは教卓。


「ギィーーーェーーーッ!!」


 予想した通りだった。

 ホムラギツネはアイシンがB組へ逃げると追い掛けてきた。アイシンと同様にA組の黒板があった筈の場所を通って、自分自身が火の玉を使って破壊した壁を通って。


「エイヤーーーーーーッッ!!!」


 ホムラギツネがB組へ入ってくると、アイシンは教卓を投げ付けた。

 アイシンはセイギやユウシャと違って自分独自の武器を持っていない。戦うならば素手しかない。しかし、教室内ならば投げ付けられる物はある。教卓は武器にするに丁度良かった。椅子や机よりも大きいが重すぎない。壁を通って現れたホムラギツネへの奇襲に使うに丁度良い。


「ギィッーーーー!!!」


 教卓がぶつかるとホムラギツネは動きを止めた。B組に逃げ込んだアイシンは何処にいるのかと探していた目も閉じられる。

 この隙にアイシンは跳ぶ――


「ハッ!!」


 アイシンに武器はない。拳と蹴りで戦うしかない。それしかないが不満はない。ホムラギツネに自分の想いをぶつけるには拳と蹴りで体ごとぶつかっていくが一番良いと考えているからだ。


「エイヤッ!!」


「ギィッ!!!」


 跳んだアイシンは足を伸ばし、ホムラギツネの右首に蹴りを当てた。

 狙っていた場所は顔面であったが外れても問題はない。ホムラギツネは倒れたのだから。ホムラギツネが倒れると、アイシンは馬乗りになってホムラギツネを抑え込む。


「先輩、さっきの話の続きをしましょう! 輝ヶ丘を燃やしちゃいけません! 燃やせば大勢の人が死ぬんですよ! これは取り返しのつかない事です!! それに――ッ」


 アイシンは再び説得を始めようとした。が、話は遮られる。ホムラギツネの拳がアイシンの脇腹にメリ込んだからだ。


「うぅッ……この、分からず屋ッ!!」


 アイシンは腹を押さえて床を転がるが、ホムラギツネを睨んで、すぐに立ち上がった。

 ホムラギツネもそうだ。アイシンを殴った後に立ち上がった。


「この……ッ!!」


「ギィッ!!」


 二人は殴り合うを始めるが、どちらも勝負を譲らなかった。

 拳を振っても避けられる。振るわれても避ける。

 アイシンの右ストレートは、屈まれて避けられた。空かさずホムラギツネが振り上げたアッパー気味の攻撃を、アイシンは体を反らせて避けた。

 次にアイシンは左フックを出すが、これも当たらない。


 バケモノも英雄も人間を超えている。動体視力も運動神経も世界的な格闘家すら凌駕している。

 二人は攻撃を続けるが、双方の攻撃はどちらも当たらず終いで、単に双方の体力を削るだけだった。

 そして、いつしか二人は相手の肩を掴み、睨み合うだけになっていった。


「ハァ……ハァ……」


「ギィ……ギィ……」


 動きを止めた事で二人の呼吸は乱れ始める。

 人間を超えた存在の英雄とバケモノでも限界はある。

 これまでの二人の戦いは、常に拮抗。どちらも譲らず、一方が優勢になる戦いではなかった。

 その為に二人の体力の限界も同時にきた。


「先輩……」


 しかし、攻撃は出来なくともやれる事はある。

 アイシンはホムラギツネの息の根を止める為に戦っていたのではないのだ。ホムラギツネと話がしたいから戦っていたのだ。ホムラギツネに悪行をやめてほしいから戦っていたのだ。

 睨み合っている状況であれば話をするには最適だ。アイシンは体力を振り絞って話し掛けた。


「私さ、先輩が……こんなにも分からず屋だったなんて知らなかったよ。でも、そう言えばそうだよね……先輩って、けっこー頑固な性格してるもんね。でも、今日だけは私だって譲れません。絶対に譲っちゃいけない事だから……」


 アイシンは佳代に言った。『先輩を叱ってくる』と。だからアイシンはやる。叱るといっても、やろうとするとどうやれば良いのか分からなくなるが、思い付く言葉を、自分の想いを飾る事なく口にする。


「輝ヶ丘が燃えたら、皆、死にます……それは、先輩が殺すって事です。人を殺したら、先輩は後戻り出来なくなりますよね、本当の自分を取り戻せなくなりますよね。そんなになったら……先輩を止められなかったら、私は私を許せない。私は、輝ヶ丘の皆も、先輩も、全員救いたいから……」


「ギィッ……」


 ホムラギツネはアイシンが話し出すと、アイシンの肩を掴む力を強めはするが、攻撃をしてこようとはしなかった。

 ただ奇声を発して、鋭い牙で歯軋りをするだけ。


「ギィッ……とか、それ何なんですか? 人間の言葉は話せなくなったの? 先輩の意思はもう何処にもないの? ありますよね? 無いなら、先輩は馬鹿だよ! 馬鹿! 馬鹿! 何で……お父さんの事とか、家庭の事とか、相談してくれなかったんですか!」


 アイシンは責めた。ホムラギツネを……否、自分自身をだ。『なんで私は先輩の変化に気が付かなかったんだ』と。


「お父さんが亡くなって辛かったんですよね? 先輩がバケモノになってしまったのは、そこに理由があるんですよね? 瑠樹くんが言ってましたよ、お父さんが亡くなってからは、心の中に暗くて重たい(もや)みたいな物が残ってるって……先輩もそうだったんでしょ?」


 アイシンはホムラギツネの瞳をじっと見詰めた。

 ホムラギツネの瞳は、真田萌音の頃とは違って涼しげな瞳をしていない。ホムラギツネの瞳の奥には、暗く重たい泥の様な闇が見えた。

 その闇を見詰めながらアイシンは語り掛け続ける。


「きっとこれって、悲しみとか、苦しみとか、辛さとか、そういう感情の事ですよね? 私、先輩が悲しんでいるなら、一緒に悲しみたかったです。苦しんでいるなら、一緒に苦しみたかったです。先輩の助けになるには、どうすれば良いのかって悩みたかった……」


 アイシンは訪れなかった過去を求めた。


 萌音の苦悩も知らずに生きていた自分を後悔しているから。

 アイシンにとって、萌音は特別な存在だから。


「私、先輩が大好きです……今からじゃ遅いって言うかもだけど、でも先輩の力になりたい! 私は、先輩とまた笑い合いたい! ねぇ、全部が終わったらまたカラオケに行こう! また、先輩の歌が聞きたいです!」


 アイシンはホムラギツネの肩を揺さぶった。

 想いよ届け、と願いながら。


「だから……だから……輝ヶ丘を燃やさないで……先輩言ったじゃん、お婆ちゃんが『輝ヶ丘は私の宝物だ』って言った時に、同じだって、『私にとっても輝ヶ丘は宝物だ』って……私もです、私も分かりました、この言葉の本当の意味が……先輩も愛してるんだよね? 輝ヶ丘での想い出を、輝ヶ丘で出逢った皆を、そうでしょう?」


 アイシンは問い掛ける。そして、気持ちのままに話していた自分が"とある事"を出来ていないと気が付いた。


「あれ……変だな、どうしよう? 私、先輩を叱りに来たのに、せっちゃんの時みたいに出来てない、せっちゃんの時みたいにガツンって言えてない」


 アイシンは厳しい言葉で萌音を戒めるつもりだった。だが、気が付けばアイシンの瞳からは涙が流れていた。言葉として出てくるものは、何も出来なかった自分を後悔する言葉と、悪行をやめてほしいという願いと、溢れ出す萌音への愛だった。


「ダメだな……私はいつも感情のままに動いちゃう。馬鹿だよ……でも、それでも良いって思っちゃってる」


 アイシンはホムラギツネの肩から手を離し、背伸びをした。

 ホムラギツネの首に両腕を回して抱き締めたのだ。


「グ……ゥギィ……」


 アイシンのいきなりの抱擁に驚いたのか、ホムラギツネが鳴いた。


「グゥとか、ギィとか、もういいよ。あっ……ねぇ、先輩は覚えてる? 先輩さぁ、 一時期サンドウィッチマンの物真似にハマってて、会うたんびに『もういいぜ!』ってやってましたよね? あれ、正直言うと、全然似てませんでしたよ!」


 アイシンは抱き締めるだけでなく笑顔も浮かべた。

 萌音と過ごした日々には、思い出そうとしなくても思い出せる想い出がいっぱいある。その想い出が自然と笑顔にしてくれたのだ。


「ダァ……ズゥ……ゲ……」


 それでも、ホムラギツネは人間の言葉とは思えない言葉で返す。


「だから……ダァとかギィとかいいって」


「ダァズゲェ……デ………ボボダン」


「だから、いいから……」


「ダァズゲェ……デ……」


「もういいって……」


 アイシンが何度も首を振っても、ホムラギツネは"人間の言葉とは思えない言葉"で返し続ける。

 言い方は決して激しくはない。静かだった。

 絞り出すような声で、ホムラギツネはアイシンの耳元に囁き続ける。


「ダァズゲェデ……ボボダン」


「もうっ――」


 アイシンは再び『もういいよ』と返そうとした。しかし、アイシンの仮面を何かが濡らし、彼女はやっと気が付いた。


「ボボダン……グゥルギィヨ………ダァズゲェデ」


「先輩……もしかして」


「ダァズゲェデ………グゥルギィヨ」


「助けて……って言ってるの?」


 アイシンはホムラギツネの顔を覗き込んだ。


 萌音の顔は、涙で濡れていた。

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