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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第三章 愛の英雄の誓い 編

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第7話 バイバイね…… 2 ―愛の英雄―

 2


「出来たみたいだね?」


「うん……」


 瞼を開いた時、愛の瞳には光が宿っていた。

 それは、この世界に生きる全ての命を暖かく照らす太陽に似た光だった――


「お婆ちゃん、ありがとう。お婆ちゃんのお陰だよ」


 自分自身の事だ、愛は分かった。自分が何を手に入れ、これから自分に何が起こるのかを。


「私、叱ってくるよ。先輩にダメな事はダメって伝えてくる……」


「行くんだね?」


「うん、私の想いを先輩に伝えてくる。"混じりっ気のない愛"を持って、英雄として!」


 愛は立ち上がった。自信が宿った顔で、覚悟を決めた戦士の顔で。


「先輩には、自分がやった事をちゃんと反省させる。そしていつか、先輩をバケモノにしたヤツを私と先輩のコンビで倒してみせる」


「そうかい……出来るだろうね。愛ちゃんなら」


「うん、出来る! 私なら!」


 佳代が微笑むと、愛も笑った。

 そして、愛は雄々しく叫ぶ。それは決意を込めた雄叫びだ。英雄としての己の名を叫び、英雄として戦う自分自身を呼び起こす為の雄叫びである。



「レッツゴー!! ガキアイシン!!!」



 愛は腕時計をはめた左手を顔の横まで振り上げた。と同時に、右手は弧を描く。大地を指差し、風を指差し、大空を指差し、顔の横に構えた左手に向かって振り下ろす――腕時計の文字盤が叩かれた。

 叩かれた文字盤は開く、半透明の桃色のタマゴが現れる。

 タマゴは天井近くまで飛び上がり、大きくなっていく。手のひらに収まる大きさから、愛の全身を包み込める大きさになっていく。


 大きさを変えると、半透明のタマゴからは蝶の鱗粉の様な桃色の光が放たれた。


「わぁ……何かしらこれは? あれ? あらあら、スゴイわぁ!」


 光の粒はタマゴを見上げる佳代に降り注いだ。

 すると、佳代は不思議な感覚に襲われる。体の痛みが、傷が、光の粒を浴びた瞬間に消え去ったのだ。ここ数年悩まされていた膝の違和感さえも消えていった。


「あら……何だか元気になったみたい! あれ? あ……愛ちゃん? 大丈夫?!」


 佳代は驚いた。光の粒を撒いたタマゴが急降下し、愛の体を包み込んだからだ。

 愛を包み込むと半透明のタマゴは半透明でなくなる、実体を持った様に濃い桃色へと変化した。


「うん! 全然大丈夫!!」


 タマゴの中から声がした。直後、タマゴが割れる。


「ハァッ!!」


 割れたタマゴの殻は雪が溶けていく様に空中に消えていき、その場に残された者は正拳突きが如く拳を前に付き出した愛だけになる――否、それは愛であって桃井愛ではない。全身はメタリックピンクに輝くボディスーツに包まれて、可憐で美しい顔は桃色の仮面に覆われていた。

 彼女は変わったのだ。《愛の心》で命を守る《愛の英雄》に――その名は《ガキアイシン》。


「わぁっ!! 愛ちゃん、カッコいいわ!!」


「そう? カッコ良い??」


 佳代に拍手を贈られると、ガキアイシンは佳代に向かってピースサインを出した。

 しかし、喜びを表している場合ではないとガキアイシンは分かっている。

 だからガキアイシンはすぐに笑顔を仕舞うと、佳代に向かってこう言った。


「ねぇ、お婆ちゃん。私、お婆ちゃんの体を癒せる場所を知ってるの。今からそこにお婆ちゃんを連れて行くから!」


 ガキアイシンが向かおうとした場所は、願いの木だ。ガキアイシンは佳代の体を癒す為に、魔法の果物を食べさせようと考えていた。だが、これを佳代が拒否する。


「いんや、その必要はないよ!」


「えっ……何でよ?」


「私の体はすっかり良くなったんだ! 愛ちゃんがさっき出してくれたタマゴが、癒してくれたんだよ!」


「えっ、タマゴが?」


「そう! どうやら愛ちゃんは、傷を治す事が出来る英雄みたいだね! ほらほら見てみて、愛ちゃんのお陰で私はもうこんなに元気だよ!」


 佳代は立ち上がり、腕も足も伸ばしてみせた。


「えっ、そ、そうなの? 本当に? 無理してない?」


「うん本当だよ、無理なんかしてないよ」


 佳代はまた腕を伸ばしてみせる。屈伸すらしてみせた。


「最近ギクシャクしてた膝すらもこんなに動ける様になってるよ、愛ちゃんのお陰だ! ほらほら、こんな所でバアサンを心配している暇はないよ、今度は町の皆を救いに行きな!」


 佳代がふっくらとした頬で満開の笑みを見せると、ガキアイシンはやっと安心した。佳代はもう大丈夫と思えた。


「分かった、でも無理しないでね! 痛みがぶり返してくるかもだから――」


「はいはい、分かってるよ。愛ちゃんも油断したらダメよ、萌音ちゃんに自分の愛を伝えてきなさい」


 ガキアイシンは頷いた。彼女の拳は握られている。これは戦う覚悟が整っている証しだ。


「分かってる……それじゃあ、行ってくるね! 先輩をビシバシ叱ってくるから!!」


「その意気だ、頑張って!」


 佳代に見送られ、ガキアイシンは山下商店から飛び出した。

 ガキアイシンは走る。未だに闇の晴れない輝ヶ丘に光を取り戻す為に――




「行っちゃったよ……」


 店の軒先に出た佳代は、走っていくガキアイシンの姿を見送りながら、溜め息を一つ吐いた。


 英雄の足は速い。ガキアイシンの姿はすぐに見えなくなってしまう。


 ガキアイシンの姿が遠のくと、佳代は空を見上げた。

 巨大テハンドのその先の、今はまだ見えない大空を、心の目で。


「天国のじいさんや、聞こえてるかい? 私、愛ちゃんを戦いに行かせちゃったよ。本当は危険に飛び込まさせたくはない……でも、これで良かったんだよね? 愛ちゃんは英雄さんなんだもんね、バアサンの我が儘で引き留めちゃいけない人だったんだよね? じいさん、せめてものお願いだよ。あの子を、あの子達を、守ってあげて」

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