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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第三章 愛の英雄の誓い 編

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第7話 バイバイね…… 1 ―彼女しかいないのに―

 1


 町にばら蒔かれた赤い石が、脈を打つ。音は立てない。静かに、ドクドクと……。


 三十分もすれば石は熱を持ち始めるだろう。一時間も経てば煌々と光を放ち出すだろう。

 そして、光を放つと僅か十分後には、石が割れて灼熱の炎が生まれるだろう。


 まだ誰も気付いていない。


 このままでは、輝ヶ丘にある全ての命が燃やし尽くされてしまうのに。


 まだ誰も気付いていない。


 しかし、気付いた時には遅いのだろう。

 気付いた瞬間に、カウントダウンがゼロに近いと誰もが知るのだ。


 輝ヶ丘の破滅を阻止出来る唯一の存在である筈の英雄も、絶望の淵に立ち、泣き崩れている。

 彼女は、愛する人と再び分かり合えると思ってしまった。

 憧れた人とは想いが重ならなかったが。


 泣き崩れる彼女の心は壊れてしまったのか。


 ―――――



「私は……とんでもない馬鹿だ……」


「愛ちゃん……」


 嗚咽まじりに涙を流す愛を、佳代は強く抱き締めた。

 涙は悲しみを表す物だ。

 愛の涙は止まらない。流れ続ける。


「先輩とは、分かり合えないのに……それなのに夢見て……このままじゃ、私のせいで輝ヶ丘が燃えちゃう」


 愛は涙でグシャグシャになった顔を何度も拭うが止まらない。止めどなく流れてくる。

 愛はそんな自分に腹が立っていた。

 涙を流す自分に、無力な自分に。


「私は何も出来ない、先輩を止める事も、輝ヶ丘を救う事も……泣いてる場合じゃないって分かってるのに――」


 愛は自分自身を殴る様に、また涙を拭った。


「バケモノを見付けたら絶対にブッ飛ばしてやるって思ってた、みんなに悪い事をする奴は絶対に許さないって思ってた……でも、先輩がバケモノだって知ったら、出来なかった。一度は先輩にも怒れたのに、倒してやろうって思えたのに……でも、結局は出来なかった。先輩を守りたいって思っちゃった。でも、そのせいで輝ヶ丘が……私は馬鹿だよ……」


「自分を馬鹿だなんて言っちゃダメだよ」


 自責の言葉を吐く愛に、佳代が首を振った。


「愛ちゃんは、萌音ちゃんを元のあの子に戻したいと思っただけでしょう。それのどこが馬鹿なの」


「だって……」


「自分を責めちゃダメ、悪いのは愛ちゃんじゃない、王に選ばれし民なんだから。愛ちゃんは、萌音ちゃんを愛しただけ」


 佳代は愛の頭を撫でて諭す様に言うが、愛は『だったら何で?』とも思った。

 ホムラギツネを止める為にも、輝ヶ丘の皆を助ける為にも、今すぐに《愛の英雄》になりたいと思うが、英雄の力が与えられる気配はない。


 青い石の効果も発動し、ホムラギツネの暴走も起こしてしまった。この二つの原因は、愛が青い石へ"萌音への愛"を注ぎ込んでしまったからだ。

 ならば《愛の英雄》の力も得られる筈である。愛は"愛"さえ持てれば《愛の英雄》になれる筈なのだから。しかし、英雄の力だけが得られない。

 

『"愛"にも純度があるの?』と愛は思うが、愛はそれも分からない。


「お婆ちゃん……私、分からないよ。愛ってなに? 確かに私は、先輩を愛してるって思った、助けたいって思った。だったら何で――」


 愛は口を閉じる。『だったら何で』の後には『私は英雄になれないの?』と続くからだ。

 自分が英雄に選ばれた者である事は秘密にしなければならない。誰に対しても。佳代に対しても。

 抱えた疑問は口にしてはならないものだと気付いて、愛は急いで黙った。


 ……が、佳代が代わりに聞いてくる。


「何で英雄になれないのか、でしょう?」


「えっ……」


 愛はドキリとした。

『なんでお婆ちゃんが知ってるの?』と思った。

 愛は佳代に対して英雄である素振りを見せたつもりはない。秘密がバレているとは思っていなかった。

 しかし、佳代は愛の秘密を理解していた。

 愛が何者なのかを知っていた。


「やっぱり、愛ちゃんはそうなんだね? 萌音ちゃんと戦っている姿を見て、そうなんじゃないかって思ったんだ。だったら合点がいくよ。愛ちゃんは自分の使命を頑張ろうって必死なんだね」


「お婆ちゃん……」


「あぁ、何も言わなくても良いよ。年の功だ、愛ちゃんが秘密にしてるんだって事くらい理解出来るから。だから、ここからは私の独り言だ」


 愛は嘘をつこうとするが、止められた。

 佳代はやはり愛の全てを理解していた。そして、佳代は愛の涙を拭ってくれた。

 驚いたせいか涙は止まった。最後の一粒だった。


「愛ちゃんは、他の英雄さんとは違って、戦う姿にはまだなれない。でも、なりたい……あっ、答えなくて良いよ。私が勝手に話してるだけだ。独り言だよ、独り言」


 佳代はふくよかな頬を緩ませる。

 萌音に痛め付けられた体がまだ痛むのだろう、笑顔は少しぎこちない。


「愛ちゃんは、前にも聞いたよね。『"愛"ってなに』って。あのときの私は、愛ちゃんが質問する理由を理解してなかった。愛ちゃんにとっては十分じゃない答えを渡してしまったね、ごめんね。あの時の愛ちゃんは、英雄になる為に質問をしていたんだよね?」


 質問調の言い方だが、佳代は回答を求めていなかった。

 愛が口を開くと佳代は首を振り、「自問自答、独り言だよ」と言った。


「"愛を持つ"……この事が、愛ちゃんが他の英雄さんと同じ姿になる為の鍵なんだね。きっと必要なのは、"普通の愛"じゃなくて、"混じりっ気のない愛"だって、私は思うよ」


「混じりっ気のない愛……?」


「そう、愛ちゃんは"愛"を持っている子だけど、その"愛"には少し"怒り"が混ざっているんじゃないかい? 言葉で通じ合えない花や虫にさえ愛情を持てる愛ちゃんだからこそ、王に選ばれし民が現れてから、"怒り"を抱え続けていたんじゃないかな?」


「怒り……を?」


 愛は少し考え、そしてコクリと頷いた。


「そう……かも。私、《王に選ばれし民》もバケモノも、みんなギタギタにしたいって思ってたから」


「やっぱりそうだよね」


 佳代は「"怒り"は"愛"から生まれる事が多いからね」と話した。


「恋人への"愛"や、家族への"愛"。自分への"愛"だったり、人は"愛"を持つと、誰かを守りたくなったり、助けたくなる。でも、それと一緒に他の誰かに対して"怒り"を抱いてしまう事も増えるの。でも、それは人間らしい感情なんだよ。悪い事じゃない。でも、上手に付き合わないと、怒りは時に、"愛"にとって毒にもなるんだよ」


「毒……?」


「そう、"怒り"は"愛"から生まれるのに、上手に制御していかないと、"愛"を忘れさせてしまう事があるんだよ。心の中を"怒り"だけにしちゃうんだ。しかも、如何せん元々は"愛"から生まれた"怒り"だから、怒っている本人も心の中が"怒り"だけになってるって気付かないで、"愛"を持って行動していると勘違いしてしまうの。だから人と人との争いはなくならない……愛ちゃんもそうだったんじゃないかな? 始まりは"愛"を持って、王に選ばれし民を『許せない』と思っていたのに、気付かない間に"怒り"だけを持って『許せない』と言っていたんじゃないかな?」


 愛はまた、少し考えた。


「萌音ちゃんに愛を伝えた時を思い出してみな。その時は怒りがあったかい?」


 愛は首を横に振る。


「ううん、あの時は無かったと思う」


「そうだよね、あの時の愛ちゃんは"混じりっ気のない愛"を萌音ちゃんにぶつけていたと思うよ」


 佳代はそう言うと、愛の腕を取った。それは左腕だ。腕時計が巻かれている腕だ。


「今の愛ちゃんは、自分自身への"怒り"を持っているね。それを一旦捨てるんだよ。萌音ちゃんを想うんだ。萌音ちゃんを助けたい、萌音ちゃんを愛してるって。そうすればきっと、愛ちゃんはまた"混じりっ気のない愛"を持てる筈だ。そうすれば、愛ちゃんは英雄になれるんじゃないかな」


「怒りを捨てる……」


 佳代の言葉を受けた愛は、腕時計を見た――出来る気がした。


 萌音に"愛"を伝えた時の自分の感情が、"混じりっ気のない愛"ならば、再び持てる気がした。

 ホムラギツネが暴れ出して少し薄らいで、無力な自分を実感して更に薄らいでしまったが、すぐにまた持てる気がした。


 萌音を想えば良いのだから。


 愛は瞼を瞑った。

 瞼の裏には、思い出そうとしなくても、萌音との想い出が、楽しかった日々が浮かんでくる。

 萌音の笑顔が見える。

 その想い出は自然と佳代との想い出にも繋がっていく。萌音と愛は、数えきれない程の時間を山下商店で過ごしたからだ。佳代と萌音と笑い合った日々が愛の瞼に浮かんでくる。


 失くしたくない日々だった、取り戻したい日々だった……それは、萌音や佳代との日々だけではない。正義や勇気やボッズー、果穂や瑠璃、友達との日々。父や母、家族との日々。愛が輝ヶ丘で過ごした十七年間の想い出が幾つも幾つも浮かんできた。そして、愛は思った。


「輝ヶ丘は私の宝物だ……先輩も輝ヶ丘も、全部全部、大好きだ」


 愛は瞼を開いた。

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