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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第三章 愛の英雄の誓い 編

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第6話 剥がれた化けの皮 14 ―言う通りにしろ―

 14


「やめ……なさい」


 山下佳世は居間の外まで這って進むと、襖の柱を支えにして立ち上がった。

 萌音からの暴力は佳代を傷付けた。頬を叩かれ、腹を蹴られ、気を失い、最前には踏みつけられもした。

 踏みつけられた時に意識を取り戻したが、本来ならばそのまま意識混濁へ陥ってもおかしくはなかった。

 彼女を動かしたのは、愛を救いたいという気持ちだけだった。それだけであるが、彼女は動く。否、動けた。そして、走れた。

 ふらつきながら立ち上がった佳代は走り出し、愛を持ち上げてガラ空きとなっていたホムラギツネの脇腹に突進したのだ。


 突進を受けたホムラギツネは愛から手を離し、床を転がった。

 車に轢かれたが様な反応になった理由は、不意打ちをくらったがせいもあるだろうが、まず佳代の力が強かった。

 佳代は高齢であり、尚且つ傷付いた体だ。愛が危機的状況ではなかったら、佳代がホムラギツネを床に転がすなど不可能だったろう。けれど、彼女は出来た。

 人間は愛する者を守ろうとするとき、超人になれる瞬間がある。佳代にとって、それが今だった。

 

「クッソッ……ババア!!」


 しかし、佳代の突進でホムラギツネが行動不可能になるという結末は訪れなかった。

 ホムラギツネはすぐに立ち上がってしまい、佳代に近付いていく。


 佳代もまた、突進した後に床に倒れていた。意識を失ってはいないが、動きは鈍い。瞬間的に莫大な力を発揮出来ても、結局は傷付いた状態である。ホムラギツネに接近を許してしまう。 


「邪魔すんじゃねぇよ、ババア!! 桃ちゃんより先に、アンタを――」


「動かないで……」


 ホムラギツネは佳代を殴りつけようとするが、止められる。


 止めた者は、愛だ。

 愛は立ち上がった。流れた鼻血を拭い、佳代と睨み合うホムラギツネに向かって右手を上げる。

 睨み合う二人は、佳代、ホムラギツネの順で愛の前に立っているが、愛は二人の間に入っていく。佳代を守る為に、そしてホムラギツネに右手に持っている物を見せつける為に。


 ホムラギツネは愛が右手を上げた時点で止まっていた。

 黒い紅を引いた唇は苦虫を噛む様に歪んでいる。

 佳代に救われるまでの愛の右手には花瓶の欠片が握られていたが、いまは違う。その手には宝石の様に光る物があった。


「これがどうなっても良いんですか」


「桃ちゃん……いつの間にソレを?」


「言いましたよね、くれぐれも落とし物と忘れ物には気をつけて下さいって……戦ってる間じゃないですか、床に落としていましたよ」


 佳代に助けられてホムラギツネの暴行から逃れられた愛が床に落ちると、目の前には石があった。青い石だ。ホムラギツネにとって敵に奪われてはならない大事な石だ。


「コレを壊されたら、先輩の計画は終わりですよね」


「気が付かなかったぁ、またやっちゃったか、"落とし物"。ねぇ返してよ、桃ちゃん……ソレは私の石だよ」


「返してほしかったら私の言う事を聞いて下さい!」


「言う事……?」


「そう、まずはあっちを向いて」


 愛は青い石を持ったまま人差し指でホムラギツネの背後を指差した。ホムラギツネの背後には階下へ行ける階段がある。


「何で向かなきゃならないの……?」


「いいから! いつまでも自分が優位な立場にいると思わないで!! 石は私が手に入れた、返してほしかったら言う事を聞け!!」


 愛は怒鳴った。

 怒鳴られたホムラギツネは「はぁ……」と息を吐き、愛の言う通りにする。

 その隙に愛は、佳代の肩に腕を回す。 


「お婆ちゃん、大丈夫?」


「うん、愛ちゃんこそ……大丈夫なの?」


 佳代は頷くが、目は虚ろ。嘘だと分かる。それでも佳代は愛に声を掛けた。

 愛はその姿を見て唇を噛む。頷くが、愛もまた今すぐにでも倒れてしまいそうな状態だった。

 自分と佳代を救う為にも、愛はホムラギツネの背中に殴る様な仕草で、青い石を握った右手を押し付けた。


「歩け!! この家から出ていくんだ……言う事を聞け!!」


 愛に背中を押されるとホムラギツネは笑った。


「凄い剣幕だね……まるで桃ちゃんの方が悪役みたいじゃん。分かったよ、言う通りにしますよ。あぁ、でも、桃ちゃんの言う通りだったね。悪い癖は早く直しておくべきだった。こんな土壇場でも落とし物癖を発揮しちゃうなんて、私は本当に馬鹿。弟たちに石を見付けられちゃったのも、私が家の前に落としたからなんだ。大事に肌身離さずって思って、制服に入れてた筈なのに何でって思って、ポケットを覗いてみたら穴が開いてた。深夜の内に放火事件を起こしてやろうって、ダーネを使ってコソコソやってる間に落としてたんだね。そういえば自転車の鍵も一緒に落としたんだけど、石は弟が見付けてくれた、自転車の鍵は何処に行ったんだろう?」


「そんな話はどうでも良いです!! さっさと歩いて!!」


「はいはい、分かってるよ。ねぇ、どうする? 両手でも上げて、降参のポーズでも取った方が良い?」


「どちらでもお好きに……」


「あっそう」


 ホムラギツネは白い手を左右に揺らし、舞いを踊る様に両手を上げた。


「お婆ちゃん、ごめんね。私たちも歩くから、ごめんね」


 敵が歩き始めると、佳代を連れて愛も歩き始めた。

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