繁殖器官
アカネは、空を見上げた。
「……」
親玉蝿の複眼を斬り裂きながら、リュウトが空を駆けている。
全部がリュウトへ向いていた。
「……今です!」
「うん!」
アカネとあーたんが同時に飛び出す。
地面を蹴る。
脚部装備の風魔法が起動し、一歩の距離が異常なほど伸びた。
だが当然――護衛は反応した。
「ギギギィィィッ!!!」
横。
瓦礫の影から人間サイズの蝿が飛び出す。
速い。
だが。
「遅いです!!」
アカネの巨大ハンマーが振り抜かれる。
ただ力任せじゃない。
回転。
腰。
肩。
全身の連動を使って重量を乗せている。
ドゴォッ!!!!
直撃。
蝿の外骨格が内側へ潰れ、複眼が破裂した。
その瞬間。
バチィッ――――!!!
雷が走る。
砕けた外骨格内部へ電流が流れ、周囲の蝿まで痙攣した。
さらに____
ヒュンッ
アカネの横を何かが吹き抜けた瞬間、周りの護衛蝿達の羽がまとめて裂けた。
「……!」
みやの風魔法だ。
アカネは口元を少しだけ緩めた。
(ありがとうございます、みやさん)
そのまま二人は巨大蝿の真下へ滑り込む。
近づいて分かる。
臭いが酷い。
腐肉。
血。
膿。
発酵。
全部を煮詰めたみたいな臭気だった。
ベチャッ。
「あぅぇ……」
粘液があーたんの頭へ落ちる。
半透明の黄色い粘液。
糸を引きながら毛へ絡みついていた。
「きもちわるぃぃ……」
「……」
アカネは気にしない。
視線は上。
巨大蝿の腹部。
脈動している。
ドクン。
ドクン。
巨大な袋みたいな腹が一定周期で収縮していた。
そして。
ブチュッ――――。
腹部下の裂け目が開く。
肉が左右へ広がる。
粘液が溢れる。
その奥から、人間サイズの蝿が押し出されてきた。
「っ……!」
まだ羽も完全に開いていない。
粘液まみれ。
だが、生まれた瞬間から動いている。
脚を震わせ羽を広げ、数秒後には飛び立った。
「やはり、卵じゃなさそうですね」
産卵じゃない。
体内で、ある程度完成した状態まで育成している。
昆虫というより――
「胎生……?」
生物構造としては、哺乳類寄り。
少なくとも単純な虫じゃない。
腹部内部には、独自の繁殖器官がある。
卵巣。
子宮。
培養器官。
何に近いかは分からない。
だが。
「ここです……!」
間違いなく弱点。
次々と蝿を生み出している以上、ここを破壊すれば生産能力は止まる。
「あーたん!」
「はーい!」
あーたんが前へ出る。
その背を踏み台にし、アカネが跳んだ。
脚部装備の風魔法が炸裂。
一気に腹部下へ。
「【ライジングブレイク】ッ!!!」
巨大ハンマーが振り抜かれる。
雷が収束し圧縮。
そして――
ドゴォォォォォォォンッ!!!!
腹部下の裂け目へ直撃した瞬間に爆発!
内部組織が露出する。
そこにあったのは。
無数の肉袋。
脈打つ管。
そして、まだ形成途中の蝿達。
「っ……!」
だがアカネは止まらない。
「増やさせません!!!!」
再度叩き込む。
バギィィィッ!!!!
雷が内部を焼く。
肉袋が次々と破裂。
形成途中だった蝿達が粘液と一緒に崩れ落ちた。




