アンナ
「あ、あれ、この人……」
あの時、アオイさんと一緒にいたメイドの人だった。
「えっと……大丈夫ですか?」
アカネが優しく声をかける。
「頭が痛いけど、大丈夫よ……」
女性は返事をした後、自分の身体へ視線を落とした。
「…………いろいろ話す前に服ってある?」
うん。
そこだよな。
理由はわからないが彼女は裸の状態だった。
まぁ、俺はアオイさん以外の裸体にそこまで興味ないので普通に見ていたが。
「リュウトさん!?見ないでください!」
「いや、別に興奮とかはしてないぞ?」
「そう言う問題じゃありません!」
アカネは慌てて転送用の魔皮紙を取り出した。
「えっと……緊急用の服、服……」
魔力を流す。
すると光と共に衣類が転送されてきた。
「ど、どうぞ!」
「ありがとう……助かったわ」
女性は慣れた手付きで胸元を隠しながら服を受け取る。
ちなみに、この世界の服はサイズという概念がほぼない。
魔力によって自動調整されるため、大抵の人は着れる仕様になっている。
便利だよな、これ。
「着ている間に少し質問いいか?」
時間はない、だが、情報は必要だ。
「えぇ、いいわよ」
瓦礫を背にしながら、女性は服に袖を通していく。
「まず、名前は?」
「アンナよ」
「なんでこんな所に埋まってた?」
「……それが、思い出せないの」
「記憶喪失?」
「全部じゃないわ。少し前の記憶だけ……霧がかかったみたいに曖昧で」
落ち着いた声だった。
混乱はしている。
だが、取り乱してはいない。
「じゃあ、どこまで覚えてる?」
「アナタの事も覚えてるわよ、コロシアムのチャンピオンのリュウトとアールラビッツのあーたんよね?それと私がアオイと一緒にいた事も」
「て事はここ数時間か1日の記憶喪失か……」
俺は周囲の瓦礫を見る。
崩れた柱。
豪華な壁材。
高級そうな家具の破片。
普通の家じゃない。
「ここ……もしかして」
アオイさんが“レンタル奴隷”として雇われていた場所じゃないか?
「てことはアオイさんも!?」
「いや、アオイはここには居なかったわよ、少し前にレンタルされていたから」
「レンタル?」
「そう、レンタルのレンタル」
貸してもらった物をまた貸す?……なるほど、金儲けとしては良い判断だ。
とりあえず今の所、ここではアオイさんが埋まっていないのが分かったので他を考えるのは後だ。
「とりあえず避難所を探すぞ。騎士団が住民を集めてるはずだ」
「そうですね!」
アカネが頷く。
「……えぇ、お願いするわ」
だが。
その瞬間だった。
「っ!!」
最初に反応したのはアンナだった。
服を整えていた手を止め、勢いよく後ろを振り向く。
「伏せて!!!」
「!?」
直後。
ブゥゥゥゥゥゥン!!!!
あの不快な羽音が、今度はすぐ近くで鳴り響いた。
「なっ!?」
屋根の上。
電柱。
崩れた建物。
そこに降り立ったのは――
人間サイズの蝿だった。




