だが……断る!
はい?
子供?
どもこ?
こもどどらごん?
俺が呆気に取られたまま固まっていると、サクラ女王は小さく微笑み、静かに話を続けた。
「身体の機能が失われる病、と言うのは知ってますね?」
「えぇ、まぁ……」
「私が失うと困るもの……それは生殖機能。女が女である……いや、生物が生物である為のもの。子孫を残せない生物なんて、死ぬのを待つだけの『何か』なんですから」
「なるほど」
その一言で全てが繋がった。
確かに、子宮や卵巣の機能が失われるのであれば、子孫を残そうと考えるのは自然なことだ。
しかも彼女は一国の女王。
未来へ血を繋ぐ責任がある。
そして目の前には勇者という強大な力を持つ遺伝子。
合理性だけで考えるなら、これ以上ない選択なのだろう。
「理解していただけましたか?」
「確かに、全部納得いく」
「ありがとうございます」
そう言うと、サクラ女王は静かに距離を詰める。
真っ裸のまま伸ばされた手が、そっと俺の身体へ触れた。
その温もりを感じながらも、俺は首を横に振る。
「だが……断る!」
「え」
驚きに目を見開くサクラ女王。
その視線を真正面から受け止め、俺は迷いなく言葉を続けた。
「異世界に来る前の俺なら、同意しただろう……自分の血が少しでも役に立つのなら、欲しい人がいるのならいくらでもあげようと____だけど、俺は今……恋をしてしまった」
「……」
「アオイさんに全てを独占して欲しい。身体も心も! 全て! だから、俺の童貞は渡せない」
言い切ると、部屋の中へ静寂が落ちる。
サクラ女王は何も言わず、ただ俺を見つめていた。
「…………アナタが拒否すれば私の人生は__」
「残念ながら、今の俺は自分のことでいっぱいいっぱいで、人の人生は考えられない」
「そう……」
短い返事だけが返ってくる。
互いに言葉を失い、重苦しい沈黙が流れた。
やがてサクラ女王は小さく息を吐き、ふと俺を見つめる。
「私の身体、どう思います?」
「良いんじゃないですか? 普通の男なら襲われますよ」
「フフッ……」
どこか吹っ切れたような笑みを浮かべると、サクラ女王は静かにドレスへ腕を通し始めた。
「安心してくださいな、お誘いを断ったからと言って敵対する気はありませんのよ」
「……正直、覚悟して考えていました」
俺の本音に、サクラ女王は苦笑する。
「クリスタルドラゴン、そしてブルゼを討伐したアナタを敵に回せば、色々と大変でしょうから」
「……」
「反対にアナタが思ってる通り、私達の支援、例えばギルドが使えなくなったり、魔皮紙が買えなくなったりしても困るでしょう? 持ちつ持たれつの関係を続けていきましょう……それに」
「それに?」
「アナタがそう言う選択肢を取ると言うのは、あの試練以降、予想は少し出来てましたから」
試練というのは前に助けを求める子供かアオイさんを選べというやつだろう。
俺は少しだけ目を伏せ、静かに答える。
「……俺の原点なので」
「えぇ……ま、確認できただけでも良かったですわ」
その言葉は、どこか納得したようでもあり、少しだけ寂しそうにも聞こえた。
話題を切り替えるように、俺は口を開く。
「ヒロユキには? 同じことを?」
「いいえ、してませんわ」
「しないんですか?」
サクラ女王は意味深に微笑むだけだった。
「さぁ、どうでしょうね」




