#87 エリックの気持ち
意識しすぎると、望んでるのと真逆の結果になっちゃう時、あるよね!
「ごめんなさい!そんな事を気にするような人たちじゃないって、分かってたのにっ」
テーブルに頭を着けんばかりの勢いでそう言った。
「ボクは……その……こっちに来てから、自信がなくて……知らない事も出来ない事も沢山出て来て……レポートでも足を引っ張っぱるしで……本当は呆れられてるんじゃないか、とか……でも……ボクは……」
ゆっくり顔をあげ、目を伏せたまま、エリックが話し出した。
何とか思いを伝えようと、途切れ途切れに話すその様子に、黙って皆が耳を傾けた。
「──ライオネルの嫌そうな顔を見て……辛くなった。……ほんとは社交辞令だったのかな?とか……馬車での事故とか……ボクが一方的に意識してるだけで……ボクだけこれ以上好……んん……意識してしまって、自分が傷つくのが嫌で……」
「────エリック……」
恥ずかしそうに頬を赤くし、両手で顔を覆うように、必死で語るエリックに、ライオネルの怒りは急速に消えていった。
エリックがチラッと、二人を澄んだ青い瞳で交互に見つめ、また目を伏せた。
「ゲイルは……ホストだし……ボクは同等ではないから……。ボクが寝てる間とかに、変な事あったら……怖いなって……でも、ゲイルも嫌そうな顔してて……ほんとは一緒に寝るとか……自分の領分に踏み込まれるの嫌なのかって……揶揄ってるだけで、好きでもない玩具のボクに……そう思ったら何だかショックで……だから……」
「…………何だよ……それ……」
ゲイルが気が抜けたように、額に手をやり、はぁーーっとため息をはいた。
「…………つまり、全部爵位のせいにして……自分の劣等感から逃げたんだと、思う……ごめん……」
エリックがもう一度ペコリと二人に頭を下げた。
「……セリウスも、誰でもいいって言ってたのに、嫌そうだったから……それもショックだった」
隣のセリウスを横目で見ながらポソッと愚痴のように言った。
「僕も?だってそれは……そうか、そうだね。そんな風に考えてたんだったら誤解するのか。ごめんねエリック」
両手を合わせ、小首を傾げて謝った。
「ボクも、消去法で選んでごめん」
ペコッと頭を下げ、失礼な選び方をしたことを謝罪した。セリウスは黙って頷き、謝罪を受け入れた。
シーンとまたまたリビングが静まり返った。
だが、先程とはずいぶん流れる空気の重さが違った。
「あぁ~~~もう、疲れたよ~エリックゥ~!」
セリウスが盛大なため息と共に声を上げた。
「……僕はエリックが変な勘違いしてるのに気づいたけど……でも、気づかなかった二人は問題だよ?」
セリウスが諭すようにライオネルとゲイルに向かって言った。
「二人とも頭に血が上りすぎ。いくら好きな子が自分を選ばなかったからって、直ぐに逆上するのはダメなんじゃない?日頃は忘れてても、ライオネルは王子様で、ゲイルは公爵様だ。エリックの立場だと、ふとした時に思い出して勘違いする事もあるだろ?」
「私はそんな事を気にして欲しくない。同じ学年会の、同じ同級生なのだから」
「俺も気にしたことは無かったが……まぁ……そうだな」
「うん、だからね、今後はどんな事があっても、セレブリティにいる間は、立場は同じだって徹底するのはどうかな?なんなら書面にするとか、どう?」
「!!それは、良い考えだ」「ああ、問題ない」
「いや、書面って……それはちょっと問題ありじゃないかな?」
「なぜだ?」「何処が?」
二人が不思議そうに聞いた。
「だって……ボクの親は……」
「親は関係ない。我々の間だけの取り決めだ。もちろん、ルルカとユリアにも承諾してもらう」
ライオネルがバシッとエリックの反論を切った。
「ライオネル……」
「……私はもう二度と“ライオネル様”など呼んで欲しくないんだ。君から距離を置かれたようで……腹が立った。まさか劣等感からだとは……だが、私の態度がそうさせたのなら……悪かった」
すまなそうに深々と頭を下げた。
「っだから!そういうの止めて……」
「何故だ?君も謝罪で頭を下げたろう?同じだ」
「…………」
エリックは黙ってしまった。
「うーん……まぁ、そういう訳だよ、エリック。ライオネルも言い出したら聞かないから」
「……分かった……ボクも変な勘違いしてごめん」
「エリック……良かった」
ライオネルがホッとしたように緊張を解いた。
やっと口元に笑顔が浮かんだ。
「で、ゲイルは?」
セリウスがチラッとゲイルを見た。
言われてゲイルが、まだなんとなく目尻の赤いエリックをじっと見つめた。
「……殴って悪かった」
なんと、あのゲイルが素直に謝った。
「……痛かった」
エリックが頭を押さえ、そう言った。
「ああ、悪かったって。何か欲しい物あるか?何でもいいぞ」
この男の言う“何でもいい”は、事実、何でもいいのだろう。そう、例えこの島をくれと言っても!
「…………買収するのは良く無いと思う」
エリックは、スンとしてそう言った。
「買収て……誠意だ、誠意。謝罪の気持ちだ」
真っ当な事を言われ、バツが悪そうに足を解き、そう言った。
「いらない。もう色んな物、貰ってるし……友達で十分だ」
ふるふると首を横にふりながら、断った。
「──そうか?……後悔するなよ?」
何でも手に入れられる千載一遇のチャンスだったのだ。
それをあっさり放棄した。
「しない」
何の気負いもなくエリックが言った。
「即答か」
はは、と、何故か嬉しそうにゲイルが笑った。
「よし!じゃあ、仲直りってことで!はぁ~~~ほんとに疲れたぁ~~~」
セリウスがそう言って、ぐて~っとエリックに凭れかかった。
「…………お疲れ様でした」
エリックが躊躇いがちに、凭れてきたセリウスの頭をヨシヨシと撫でた。
「!エリック……君ってやつは……」
“僕を甘やかすなんて……天然、恐るべし”と、ボソリと呟いた言葉は誰にも聞こえなかった。
「?」
「ん~~~僕を巻き込まないでね?」
そう言って撫でるエリックの手をポンポンと叩いた。
良かったね、エリック。




