#60 パンケーキ
モヤモヤする……。
──翌朝
「おはよう!夕べはよく眠れた?」
リビングに降りていくと、ユリアとルルカは既に起きていた。
「おはよ。昨日はごめん、迷惑かけて……」
昨夜、湯中りした俺を、先にリビングにいたユリア達がかいがいしく世話をしてくれたのだ。
「どういたしまして。可愛かったよ」
ユリアがふふっと笑いながら言った。
「ええ、なんだか弟みたいでほっこりしたわ」
ルルカも笑いながら言った。
「……はは……」
ポリポリと顎をかいた。
実は俺が湯中りしたのには理由があったのだ。ここの温泉は血流の流れを良くする効果が強く、慣れてないと短時間でのぼせてしまう事があるらしい。
ゲイルは当然として、ライオネルもセリウスもその事は知っていた。
ユリア達はメイドさんに気を付けるよう言われていたらしい。
俺だけ知らんかった。
3人とも誰かが言ってるだろうと思っていたようだ。思い込みって怖いよな。
リビングでは、ぐてっとなってた俺に、ユリアがレモネードをくれ、冷たいタオルを当ててくれた。
ルルカは団扇であおいでくれた。
二人してせっせと世話をしてくれたのだ。
美少女二人に世話をやかれ、なんか得した気分だったよな~。
そして、ハタと気づいた。
……そういや、いい気分になってそのまま寝ちゃった……よな?
……でも朝起きた時はベッドにいたし……。
「あの……ボクって夕べどうしたっけ?」
自分で部屋に行った?……いや、それは無い。
「どうって?」
「……その……」
バトラーが運んでくれたのか?それとも……まさか……。
「ああ、寝ちゃったからゲイルが部屋まで運んでくれたよ」
「ええ、軽々運んでたわ」
うんうんと二人で頷いた。
「そう……」
やっぱりか……。
……まさか何もされてないよな?
いくら手が早そうなゲイルでも、意識ない相手に何かしたりとか……。
はっ!!いや、俺ってば何考えてるんだ!?
男相手に何故にそんな警戒してんの!?自意識過剰だ。
そうだよ、バカだなぁ俺も……。
だいいち合意じゃないとやらないって言ってたし……いやっ!だから、何考えてんだよ!俺!!
「ふぅー…………」
深呼吸した。
何もないに決まってる。
「……ライオネルもついて行ってたわ」
ユリアがニコッと笑って言った。
「あ、そうなの?」
良かった!じゃあ、万が一って事も無いな!
あーホッとした。
「あ、皆お早う~」
「お早うございます」
パッと俺の後ろを見てユリアとルルカが挨拶をした。
「ああ」「お早う」「おはよー」
3人の声がした。
「エリック。もういいのか?」
ライオネルが少し心配そうな声で聞いてきた。
「うん、ごめん、心配かけて」
「良かった。私たちも気付かずにすまなかった」
ペコリと頭を下げられた。
「ボクも不注意だったんだ。気を付けるよ」
ライオネルに謝れるとこっちが悪い気になるのが不思議だ。
「エリック、お前は一人で寝るのが苦手なのか?」
と、ゲイルが側に来て、小さな声で聞いてきた。
「どうして?」
なんでそんな事聞くんだ?
「……どうしてって……それは……」
なんとなく歯切れ悪くそれだけ言って、黙ってしまった。
「皆様お揃いになられましたので、あちらにご朝食をご用意させていただきました」
バトラーが来てそう言った。
「わぁ、パンケーキの匂いがする」
「ほんと、蜂蜜のいい匂い……」
ふわりと漂う甘い香りに誘われるように二人がダイニングに向かった。
「じゃあ、僕らも行きますか。今日はまだ海が荒れてるみたいだし、観光したいなぁー」
「ああ、いいかもな……そうだ……」
セリウスとライオネルも後に続いた。
よし、俺も行くか、と向かおうとしたらゲイルに腕をとられた。
「……昨夜の事は覚えてないんだな?」
と、また小声で聞かれた。
「…………何の事?」
のぼせて醜態を晒した以外何かあるのか?
「………………いや、ならいい」
フイッとそのまま手を放し、ライオネル達の後を追うように行ってしまった。
うぉーい!何だよ!その思わせ振りな態度は!?
…………何かあったのかよ?怖いんですけど……。
「……………………」
よし、覚えてないので何も無かったことにするゾ!うん、ゲイルもいいって言ってるしな!
ギクシャクしながら皆の後を追った。
何があったのか……?
それは今はまだヒ・ミ・ツ……。




