#56 暗雲
天気が悪くなってきたよ。
外では時折強い風が吹き、ガタガタガタと窓を鳴らす。雨は降っていないが、波がうねるように岩肌にぶつかっていた。
「波が荒れてる。ほんとあの時戻って正解だったんだ……」
窓から外を見ていたエリックが独り呟いた。
ソファーでは、ライオネルとセリウスがチェスをしている。側ではユリアとルルカが直に床に座って写真集を見ていた──。
「高波は呑まれるからな。ビギナーが手を出すものじゃない。ま、明日にはおさまるだろ。ほら」
炭酸の効いた冷たいレモンスカッシュをエリックに渡しつつゲイルが言った。
「ん……サンキュ」
受け取り、大きな氷の入ったその泡立つ透明の液体を一口飲み、じっと見つめた……。
──ちょお、ちょお、ちょおーー!
なんなん?このアメリカンドラマに出てきそうなシチュエーション!
え?これってnet◯◯で綺羅が見てた、セレブドラマのゴシップ◯◯みたいなんだけど?
こっからドロドロな人間関係が展開されたりするわけ?怖いんだけど?
冷静になってくると、自分の置かれた立場がそら恐ろしくなる。
──うわ~無いわ~……。緊張するんですけど!
身体動かしてる時は良かったけど、こうして部屋に集まったら、何していいかわからないんだよ……。
「どうした、暑いのか?顔が赤い」
「あ……うん……ちょっと暑い……かな?」
うわ、また赤くなってんのかよ。
思わず冷たいコップを頬に当てた。
ゲイルに側に立たれると、余計に緊張するのはなんでだろな?
……たぶんこいつすぐ揶揄うから……いや、最近はセリウスもだよな……。
「……おい、当てすぎると余計赤くなるぞ」
そう言ってエリックの頬からグラスを離した。
「え?」
ああ、凍傷的な……。
「ほら、今度は冷たすぎて赤くなった」
そのままゲイルの手がエリックの頬を温めるように包みこんだ。
エリックの身体がピキッと固まった。
「────!っ……」
ほんっとコイツ!
なんでそんな触り方すんだよ!勘違いするだろうが!
って……何を勘違いするんだ?
「いや、もう熱いか。くくっ!なんだ赤リス。そんなに俺が好きなのか?真っ赤だぞ」
くすくす笑いながら頬を撫でた。
──くぅ!いや、落ち着け、俺!
ゲイルはこういう性質なのだ。深い意味はなく、ただ面白がって遊んでるだけ。
そう、俺は気付いたろ?真に受けなくていいって事に!
すーっと息を吸って気持ちを落ち着かせた。
「……別に、暑いだけだよ。赤リス言うな」
ゲイルの手を退け、ぐっとジュースを飲んだ。
こいつはユリアにも同じようにしてた。
つまりゲイルは男女関係なく、身分が低くて小さき者にはこういう態度なんだ。
別に俺を、特別す……好き、とか無い!
……よし、冷めたぞ……。
「そういやライオネルから何もらったの?」
話題を変えるように聞いた。
「…………レターセットだ」
あれ?って顔でエリックを見つつそう言った。
「へぇー、見てみたい」
「……部屋に置いてある。……どうする?見に来るのか?」
ニヤリと笑い、煽るように聞いてきた。
「………………」
部屋か……。
ネックレス渡した時、揶揄われたよな。でもあれも冗談だった。
そう、こういう態度も全部計算ずくで「赤リス」って呼びたいが為のゲイルの策略なのだ。
ふん、もう負けないからな!
「へぇ、行っていいの?ボクが入るのは嫌だったんじゃない?」
どうだ!言ってやったぜ?
どうせはじめから、こっちに持ってくる気だろ?
「………………別に嫌って訳じゃない」
と、急に探るような目でじっと見つめられた。
「……そう?」
くっ……いや、落ち着け……ゲイルの目力に負けるんじゃない!俺はやれば出来る子だろ?
赤い視線に対抗するかのように、ゲイルの瞳を見つめ返した。
「「……………………」」
無言の見つめ合いが続いた……。
空は暗くなりつつあった……
これは何の駆け引きなの?
マウントの取り合い?それとも…………?




