事件の朝2
「なんだよ、圭。血相変えて」
「いいから、こっち!」
普段ポーカーフェイスで、顔色を滅多に変えない秋月の動揺に違和感を覚えたのは蓮だけでなく、その場にいた夏希、紗和、すみれも後について来ていた。
連れて来られた講堂の控え室の前には、既に何人かの野次馬が出来ていた。
「何だよお前らゾロゾロと……」
あまりに大袈裟な雰囲気に、逆に笑いさえこみ上げてくる。そんな笑いを堪え、不思議そうに首を傾げながら部屋を覗いた蓮が、眉間に深く皺を寄せ言葉を失った。
それに続くように紗和達も中を覗き込む。
「これ……」
「……ヒドい」
周りが口々に言う中、すみれは思わず口元を押さえ固まる。
彼らの視線の先にあったのは、ビリビリに引き裂かれた四天王の衣装だった。
「誰がこんな事……?」
誰かが口にすると、ずっと黙って見ていた夏希がふらりと後ろによろけた。
「夏希ちゃん? 大丈夫? 顔色悪いよ?」
「うん。ごめん。ちょっと保健室行ってくる……」
「一人で大丈夫〜?」
「うん」
紗和の言葉に小さく頷いて、夏希はふらりと頼りない足取りで保健室へ向かう。
「どうしたんだろう、急に」
「やっぱりショックだったんじゃない? あれ……」
そう言った紗和の視線の先には、蓮が着るはずだった水色の着物があった。四天王の衣装の中でも、その着物は特別見るに無惨な姿。
誰の仕業かも、目的さえも分からなかったが、蓮が一番狙われている事だけは誰の目から見ても明白だった。
「委員長、やっぱり中止にしましょう」
「そうですよ、このままじゃ次は何されるか」
「いや、しかし……」
新歓の実行委員達の言い争う声が聞こえてくる。
「中止にする事はないんじゃないんスか?」
そう提案したのは、同じく実行委員の宮田洋平だった。
「洋平!」
「延期って手もあると思いますよ。今年の新入生だけ歓迎されないってのも可哀想ですし」
「それはそうだけど……」
「何だよハッキリしねぇーな」
どうにも煮え切らない委員長に、蓮が痺れを切らす。その顔は見るからに不機嫌だ。
『ちょっと、蓮』
秋月が彼を止めようと目で訴えたが、勘のいい蓮はこんな時ばかり気付かない振りを決め込んで見向きもしない。
そしてそのままの勢いで、委員長に詰め寄った。
「言いたい事あるならハッキリ言えよ!」
蓮の言葉に委員長は自分を落ち着かせるように大きく息を吐く。
「……実は、」
震える手で眼鏡を押し上げ、彼は静かに話し始めた。




