想い一針
「「「脅迫状!?」」」
「あぁ……」
委員長がおずおずと差し出したのは、紛れもなく『新入生歓迎会を中止しなければ最悪の事態になる』という旨の脅迫状だった。
「じゃあこれは最終警告……?」
「まじかよ」
脅迫状がただの脅しでないと分かった以上、中止もやむなし。その場にいる誰もが、そう結論づけた頃。黙り込んだままだった蓮が、口を開いた。
「いや……やる!」
「おい、蓮。お前今の話聞いてたか?」
「ぜってーやる! 何が何でもやる! 何が脅迫状だ、ふざけんなっ!」
蓮が声を荒げる。その声に沈んでいたみんなの目に、熱が戻り始めた。
「だ、だよな?」
「そうだよ! こんな脅しに屈してたまるか!」
「勢いだけは認めるけど、どうすんの? 用意していた演目の衣装はないよ」
いつもの冷静さを取り戻した秋月が、いつもの冷静なトーンで言う。
「「「あぁー……」」」
上がった熱が落胆の声を上げ、彼らの視線は再び四天王の着物に注がれる。
その視線の一つ――紗和の目には涙が溜まっていた。
(あんなにみんなで頑張ったのに……)
それは作法クラスのみんなが半年かけて仕立てた、努力の結晶だったから。全面に施された刺繍は、一針一針想いが込められている。
『これを着た蓮が、スポットライト浴びて舞う姿を観るのが、本っ当に楽しみなの』
『ホントだねー!』
『好きな人のためだから頑張れる』
『あ〜、さりげなく惚気てる〜』
『え、違っ! ほ、ほら。あとちょっとだよ! 頑張ろう!』
『うん!』
愛おしそうに着物を縫う夏希の姿を思い出す。
(夏希ちゃん……)
この切り刻まれた着物を見た夏希の気持ちを考えたら、居たたまれない気持ちになって、紗和の目から涙が溢れた。
そんな涙で滲んだ紗和の視界に、ズカズカと入り込んできた背中。
その手はビリビリに引き裂かれた着物を、バサリと翻して袖を通した。
「ちょ、蓮? 何して……?」
「これで出るぞ」
「は!? お前何考えてんだ!?」
舜の制止も聞かずに、蓮はテキパキとボロボロの着物を着付けていく。
これまで一連の流れを黙視していた四天王の一人――櫻井静馬もそれを追うように着付け始めた。
「え、ちょ、静馬まで! ねぇ、圭どーする?」
舜が意見を乞うように秋月を見ると、今まさに彼も自分の着物に手を伸ばしている所だった。
「もう、圭まで!」
「蓮が一度言ったら聞かないの、舜が一番よく知ってるでしょ?」
「それは、そうだけど……」
溜め息をついた舜が蓮に目線を移すと、既に着付けが終わっていた。
「……あれ?」
その時誰もが目を疑った。あんなにボロボロだった着物が、蓮の奇抜な着こなしのアレンジで様になっていたからだ。むしろ切り刻まれた部分から、不思議と色気すらも感じる。
「悪くないね」
そうニヤリと口角を上げると、秋月も袖を通した。




