影の暗躍者
「どうする?」
「まずは作戦会議を……」
――チリンチリン
その言葉を遮るように、静かな部屋に鈴の音が鳴った。
「そんな悠長な時間はなさそうだぜ?」
そう言って一ノ瀬隼斗が目配せをすると、橘涼も頷いて瞬く間に部屋から消えた。
「あ、ちょっと待て! お前ら! あー……行っちゃった」
制止の声も届かずに、パソコンの前で宮田洋平は深い溜め息をついた。
そう。何を隠そう、彼らは通称『黒影』。
私立大和学園に蔓延る闇を斬る、影の暗躍者である。
***
『目的地は講堂控え室。涼は十時の方向から回り込め』
『了解』
吐息だけで暗号のような会話をして、二つの影はそれぞれ夜の闇に飛んで行った。
【講堂控え室】
――ビリビリ……ビリっ
夜の控え室に不釣り合いな音だけが響いていた。
誰もいないはずのその部屋。黒いマント姿が月光に照らし出される。
「そこで何してる?」
後ろからの声に振り向きもせず、黒マントは一目散に走り出した。
既に回り込んでいた涼がその影の後を追う。
「ヒデェ事しやがる」
現場に残った隼斗は目の前の光景に、思わず一人呟いた。
***
隼斗が講堂近くの仕掛けを戻し、洋平のいる部屋に戻ってくると先に戻ったらしい涼が正座をして待っていた。
「早いな。犯人は?」
「それが……」
涼が目を伏せる。
「はぁ!? 取り逃がしたぁ!?」
隼斗が珍しく声を荒げた。その声に涼が肩をビクつかせる。それを見て、隼斗は湧き上がる感情を押し戻し、ドサッと近くの椅子に身を預けた。
一つ息をついて、今度は落ち着いた声で問い掛ける。
「何があった? お前一人で十分追い付けただろ?」
「女……」
「は?」
「女だった、から」
「お前……。だからその癖早く直せって言ってるのに」
隼斗は盛大に溜め息をついて、頭を抱えた。
その姿を見た涼が、悲しそうな顔をする。
(またそういう顔する……。見てらんないっつの)
二人のやりとりを黙って見ていた洋平が、口を開いた。
「ま、まぁ。取り逃がしちゃったもんは仕方ないし。女って手掛かりが掴めただけ一歩前進だろ? な?」
「でも時間ないぞ。新歓は明日だ」
「とにかく俺は明日新歓の延期を促して時間稼ぎみるよ」
「その間に俺達は犯人探しだ。出来ないなら外れてもいいんだぜ?」
隼斗の言葉にやっと顔を上げた涼の目は、決意に満ちていた。




