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闇を愛して  作者: 冴島月ノ助
すみれの花咲くころ
11/18

忍の者【古傷】

 村橋の頬を何か生温かい物が伝い風の通り抜けた先を見ると、近くの木に手裏剣が刺さっていた。


「危ねーな! 何すん――」


 手裏剣の飛んできた方向に文句をぶちまけようとした村橋の動きが、その人物を見て固まる。


「ゲ……橘」

「おーっと、手が滑った」


 涼は手首をコキコキと二回鳴らして、呟いた。


「お、お前、人に向けて投げるな! 当たる所だった……つか当たってるし!」


 村橋がビビりながら、しかし最もな意見を述べる。それを涼は冷ややかな目で見つめていた。


(こ、怖ぇ……)


 目の合った村橋がゴクリと唾を飲み込む。

 彼が涼をここまで恐れているのには理由があった。



 ***



 それは一年の春。

 入学したての村橋は浮かれていた。武芸クラスにはいないと思っていた女子がいたからだ。


(え、もしかして、無条件で女子の身体触れちゃう?)


 そんな不純な事ばかり考えていたが。


「イッテーッ! ギブ! ギブ! マジで死ぬ!」


 体術の授業で涼に完膚なきまでに叩きのめされ、村橋の些細な野望は痛い思い出と共に砕け散った。

 今でも近づくだけで、その時の痛みが蘇ると言う。



 ***



「人に向けて、投げるものじゃないでしょ? ほら、先生も十分気をつけるようにって言ってたし、ね?」


 涼の視線に恐縮した村橋が、今度は子供を説得させるかのように丁寧に言った。


「別にお前に向かって投げてねーよ」

「隼斗!」


 声のした方に振り向くと、一ノ瀬隼斗が姿を現した。そして全く違う方向の的を顎で差す。

 隼斗は涼の幼なじみで、涼と同様に愛想なんてものはないが、そんな似た性格が幸いしてか涼の良き理解者でもある。

 彼の話によると、涼の練習に付き合っていたら、的から外れとんでもない方向に飛んでいった手裏剣の先に人が横切ったらしい。


「え、それじゃあ……」

「横切ったお前が悪い」


 当たり前のように言い放つ涼に、村橋は顔面蒼白になった。

 もしあの時、自分の立っていた位置があと数センチ違っていたら、どうなっていただろう。


「いやいやいやいや。どんな投げ方したらそんな的外すんですか?」

「だって、コイツ手裏剣の成績、いち


 そういえば、迅は涼が誰よりも手裏剣の成績だけは低かった事を思い出した。


「いや、それにしたって逆方向ですよ? あり得なくないですか?」

「村橋ぃー」

「は、はい!」


 見れば見るほど遠くにある的を指差し訴える村橋の名を、聞き慣れない甘ったるい声で涼が呼ぶ。

 突然の女性らしさに、村橋は思わず肩をビクつかせて返事した。


「それ以上騒ぐと傷口開いちゃうよ?」


 こんな時ばかり妖艶に微笑んで。

 涼は村橋の顎に手を添えると、わざとらしく傷をぺロりと舐めた。

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