ラブコメとは口下手なメッセージのことである。
本格的に始まる文化祭準備!!
圧倒的カリスマ、羽波と御剣!!
そして羽波の気まずそうな目線……。
一体どうなるんだいっ!!
今回、ラブコメとは口下手なメッセージのことである。
「おーい、お前ら座れ。授業始まってるだろう。」
そう言いながら担任が教室に入ってくる。
昼休み後のホームルームは、いつもより空気が緩やかだ。
「ねぇねぇ、山田くん。今日の紙、見た?」
そう小声でいかにも内緒バナシをしています。という顔をしているこの人は、羽波さんだ。
「ううん、まだ見てないよ。どうかしたの?」
小声で、そう答える。
今日は本当に見ていない。朝から御剣に、部の文化祭書類を生徒会に提出するのに借り出されていて、時間がなかったのだ。
「ふーん。そう。まぁいいわ。」
そう、少しいつもとは違う目の泳いでいる羽波さんを見て、正直紙の内容が気になり、俺もそわそわしてきた。
机の下でこっそりと紙を広げようとすると、
「あ、ねぇ!ちょっと!」
そう羽波さんが、大きな音を立てて立ち上がった。
クラスの視線が一気に彼女に集中する。
「おー、羽波。お前、やってくれるのかー。」
そう担任がよく分からないことを言う。
「え?あ、はぁ。」
羽波さんも、よく分かっていない様子で曖昧な返事をする。
「じゃあ、文化祭実行委員の女子は決まりだな。あとはー男子だが、誰がやってくれる人はいないか?」
そう言うと、クラスの視線が王子様--御剣に集中する。
「御剣くんしかいないよね……。」
「御剣お前やれよー。」
そう野次が飛ばされる。
御剣は少し困った顔で立ち上がり
「僕で良ければ、するよ。」
そう言った。
「え、私。文化祭実行委員?」
そう小声で首を傾げながら俺に尋ねて来る
「はは、頑張って。」
そう返すと、羽波さんの目はまた泳ぎ教卓に向かって歩き出した。
「いてっ。」
「あ、羽波さん。大丈夫?」
机に当たったようだ。クラスの人達に注目されながら何とか教卓にたどり着き、
「では、文化祭実行委員は、私、羽波と御剣さんで務めますね。」
そう完璧美少女の風貌でクラスに微笑んだ。
ホームルームは、完璧美少女と圧倒的王子様の協力により迅速かつ円滑に進んでいった。
「では、出し物はたこ焼きで決まりでいいでしょうか?」
羽波さんがクラスに問いかける。
『異議なーし』
「じゃあ、これで決まりだね。これからの動きは、買い出しの材料班と会計などの事務班、出店で教室は休憩所として使うから教室を飾る装飾班に分かれようか。」
そう的確な指示を出し、柔らかい笑みを浮かべる御剣の後ろには、黒板しかないはずなのにクラスの皆、俺でさえも後光がはっきり見えていた。
放課後。
ホームルームが終わり一目散にトイレに駆け込んだ。
例の紙を見るためだ。
羽波さんの反応的に今回はまた一段とろくでもない事が書いてあるに違いない。
『これ、私の連絡先。』
紙にはそう書いてあった。
--そうなのだ。今回の紙は文字の下にIDが記されていた。
拍子抜けして、思わずその場にしゃがみこみ、携帯を取り出しメッセージを送る。
『ビビって損したよ。直接聞いてくれればよかったのに。』
そう送ると3秒ほどで
『仕方ないじゃない、忙しかったの。文実だし。』
そう返ってきて思わず吹き出してしまう。
『これ書いたの朝だよね?まだ文実になってないはずだけど。』
そう返すと瞬きのうちに、
『うるさいわね、細かい男は嫌われるわよ。』
そう返ってきた。
文字なのに彼女の声が聞こえるこの状況に思わず笑いが込み上げてしまう。
あまり長居すると大きい方だと勘違いされてしまいそうなので、ここらで切り上げてトイレを出る。
……まぁ、個室の時点でお察しなのだが。
手を洗い、部室に向かう。
その道中で羽波さんと御剣が歩いているのを目撃し、思わず角に隠れてしまった。
最近忘れていたのだが、俺はモブなのである。
「わっ!」
その声に思わず後ずさり、尻もちをつく。
「あぁ、羽波さん。びっくりさせないでよ。」
そう言うと、彼女はきらきらと光る髪を肩に滑らせ、俺に手を差し出してくる。
「はは、ありがとう。」
少し照れくさいが、ここは彼女の厚意に乗っておこう。
……まぁ、俺は彼女に転かされたのだが。
「あ、京子ちゃん。どこにいったのかと思ったら、山田くんといたんだね。」
そう言い、御剣が下衆な笑みを浮かべる。
「僕、お邪魔だったかなぁ」
そう言い、羽波さんの持っていた書類を取り上げ、小走りで去っていった。
御剣の後ろ姿を二人で眺めていると、
「響也くんったら。なんなの。」
そう羽波さんは口元に手を当て笑った。
「なんだか、さっきのはいつもの御剣くんだったね。」
先刻の御剣を思い出し、少し笑みが零れる。
「あぁそうね。響也くん、表と裏じゃだいぶ違うからね。部室にいる時の響也くんはすごくリラックスしてるんだと思うわ。」
羽波さんは、少し懐かしむような顔をしながらぼやいた。
「幼馴染ってすごいね、何歳から一緒なの?」
そう聞くと
「響也くんとは腐れ縁なだけよ。もう物心つく前には隣にいたわね。親同士が仲良いから。さぁ、部室に向かいましょう。」
そう言い、早足で歩き出した。
部室の扉を開け、クーラーの風を味わう。
……うーん。生ぬるい。
「このクーラーいつ直るの?」
そうぼやくと
「まぁこんな弱小部、いつになっても直らないだろうね。」
そう机に足を乗せ、ゲームをしながら畠中は言った。
「まあそんなもんか。」
そう言い席に座り、羽波さんの淹れてくれたお茶を飲み、ひといきつく。
「先輩、そろそろ白雪姫本格始動ですかね?」
そう首を傾げ、ふわふわの金髪メッシュを揺らしながら、指で猫のポーズをしながら、加藤は尋ねてくる。
「ふふっ。加藤くん。猫のポーズ似合うわね。」
羽波さんにそう面白がられているのを眺めていたら、二人の視線が俺に集中する。
……。なんだ?あ、俺への質問だった。
「どうだろう。御剣くんが来るまでとりあえず待とうか。」
そう言い、畠中はゲームをし、俺と加藤は課題をしながら何気ないやり取りをし、羽波さんはその会話にたまに笑いをこぼしながら、小説を読んでいた。
下校時間が来ても、御剣は来なかった。
「きっと文実で忙しかったのね。今日はもう帰りましょう。」
羽波さんがそう言い、今日はお開きとなった。
「ただいまー。」
玄関に疲れた体を投げ出すと、動けなくなってしまいその場に寝転んだ。
「あ!お兄ちゃん!そんなところで寝転がったら汚いですよー。」
沙織はそう言い、俺をリビングまで引きずり、ソファにぶん投げた。
……。さすが妹よ。この乱暴さ、嫌いじゃない。
なんてことを思っていると携帯が震え、俺はポケットから出した。
「羽波さんからだ。」
そう呟き、トーク画面を開く。
『ねぇ明日、お昼一緒に食べましょうよ。』
そう妙に堅い文面に吹き出し、
『了解。』
そう返信すると、体に急に圧がかかった。
「うっ。沙織なにするんだよ。」
そう体の上に乗った沙織を持ち上げ、横並びに座らせると
「お兄ちゃん、羽波さんって誰ですか?女の子ですよね?」
そう訝しげに聞いてきた。
「まぁ、クラスメイト?というか部活の人だよ。」
そう言うと、
「ふーん。そうですか。今日はお兄ちゃんと一緒に寝ます。」
そう言い、べったりとくっついてくる。
……何だこのかわいい生き物は。
「沙織、一緒には寝ないぞ。だが、明日は一緒にお弁当を作ろう。いつもより多めに作ろうな。」
そう言い、沙織の頭を撫でると、
「早起き!絶対ですよ。お兄ちゃん!」
そう嬉しそうに笑った。
……明日のお弁当、羽波さんに少し分けてあげよう。何が好きかな?
そんなことを考えていると、母にご飯の号令をかけられたので、ダイニングへ沙織と競争した。
「あんた達!家の中で走らない!何歳なのほんとに〜」
そう怒られると沙織はケラケラと笑いダイニングチェアに座った。
『いただきまーす。』
沙織ちゃん、かわいいですねぇ。




