表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

ラブコメとは未完成のままである。

昼休みの平穏、崩壊!!


迫る採寸!!

近すぎる距離感!!

そして乱入者、現る!!!


今回、ラブコメとは未完成のままである。

「ねぇ、これ。本当にいいの?」


すでに卵焼きを口に運んでいる羽波さんに俺は固唾を飲む。


「うん!美味しいわね。卵焼きってそのご家庭の味がでるわよねえ。」


うんうんと頷き、もう一つの卵焼きを箸で掴む。


「喜んでもらえたならよかった。」


屋上の日陰ですら、もう暑い季節だ。

肌にまとわりつくシャツを軽く引っ張り、空を仰ぐ。



……あぁ、今日も素晴らしく青空だ。



「あ、これも貰うわね、うん。美味しい。」


羽波さんは、次々に俺のお弁当の中身を口に運んでいく。



これは、早く食べないとやばい。


「あ、それ私が今食べようと思ってたのに!」


少し怒った顔で、羽波さんは次の唐揚げに箸を伸ばす。

その前に俺が掴んだ。


「うまい!うん、美味しいね。」


そう言うと、


「はぁ、確かに美味しいわよ。でもその清々しいまでの笑顔は、少しむかつくわね。」


羽波さんに冷たいおしぼりを腕へくっつけられ、


「ひゃっ!」


と我ながら情けない声を出す。


「ひゃっ!ですってふふっ」


手で口を隠し笑う羽波さんを眺める。



……自分のお弁当の中身全然減ってねぇじゃん。



「ねぇ、その傷どうしたの?」


心配そうに尋ねる羽波さんの視線の先に目を落とす。


「あぁ、沙織、妹と作ったんだ。このお弁当。

俺料理苦手だからさ、こんなになっちゃった。」



少し、口の端を持ち上げてみる。


……ちゃんと笑えているのかは分からない。



「あら、私のために?」


そう微笑む彼女から、俺はなぜか目を逸らしてしまった。



「自分のお弁当食べなよ……。」


俺はそっぽを向く。

屋上には、羽波さんの笑い声が響いた。




昼休みの予鈴を聴き、ひとり廊下を歩きながら不可解な点を考える。



今日は例の紙が机に入っていなかったのだ。


連絡先を交換したからだろうか?

……それとも単に寝坊?


いや、羽波さんに限って言えばその可能性はとても低いだろう。



ぼやぼやと考えながら、席につき教科書を取り出す。


すると小さな紙が床に落ちた。


ハッとし光の速さで回収する。


トイレに行く時間はないので、この場で開く。


『私の好きなおかず、なーんだ?


正解は、ミニグラタンよ。』



この紙は、昼休みに入れられたものだと気づく。



……ミニグラタン。情報おせぇよ。


そう思いつつ、くだらない紙がまた増えたとため息をつき、

いつものように生徒手帳に挟んだ。



頬杖をつき、こちらを見つめる羽波さんを視界の端で捉える。


おそらく窓の外を見ているのだろう。……そうに違いない。


断じてこんなモブを主要キャラが見つめているわけがない。


気が散る。授業に集中しよう。自分に言い聞かせる。




「今日の活動は、衣装作りのために採寸をしようか。」


張り切った御剣に畠中は、


「俺まだ猫役。納得いってないんだけど。」


そう無表情に言う。



……往生際が悪いぞ畠中。


俺なんて女装だぞ。


「もう決定した事なのだから、意見は受け付けないわよ。」


ピシャリと言い放つ羽波に、畠中は舌打ちをする。


「僕は、もうなんかどうでも良くなりましたよ。

無の境地ってやつですかね。ははははは。」


この目の焦点の合っていないヤンキーを、ひとまずはどうにかした方がいいんじゃないのか。


「じゃあ一人ずつ始めるわよ。畠中くんから順に並んでちょうだい。」


羽波さんが列を作り、採寸をしていく。

最後は俺の番だ。


「山田くん。ウエストすごく細いのね。やっぱりもっと食べた方がいいわよ」


真顔で言う長いまつ毛の羽波さんに、


「ミニグラタンとか?」


そう何気なく呟いた。


「えぇ、そうね。ミニグラタンとか。」


微笑んだ彼女の目は全く笑っていなかった。


……こわぁ。


「じゃあ最後、頭の周りを測るわね。」


羽波さんは少し踵を浮かせ、俺の頭にメジャーを当てる。


これ結構近いな……。


不快な思いをさせないように善処しようと、少し顔を横に向ける。


すると強すぎる力で元に戻された。


「測りにくいから、動かないでちょうだい。」


「あぁ、ごめん。」



なんとなく気まずいな。羽波さんは嫌じゃないのだろうか。




パァン!!!


刹那、後方の扉が勢いよく開いた。


「わぁっ!」


バランスを崩した羽波さんが、俺にぽてっと覆い被さるように倒れる。


「やっほー!演劇部!今日もやってるぅ?」


あまりにもでかい声でそう叫ぶ。


状況の整理がつかず、羽波さんの肩に触れていいものか迷っていると。


「え、これどういう状況……?」


今度はあまりにも小さい声で呟く。


「羽波さん。大丈夫?」


羽波さんの様子を伺い、立ち上がるのを待つ。


「えぇ、ごめんなさい。」


目を合わせない羽波さんを見て


……俺臭かったりしなかったかな。


そう思い、元凶に目を移す。


御剣が吹き出し腹を抱える。目の端を指で拭いながら、


「ナイスタイミングだよ、素晴らしいね。本当に。

はい、書類でしょ矢藤さん。お疲れ様。」


御剣が書類を渡すと、


「相変わらずイケメンだねぇ〜。あれ?もしかして、これ私のせいな感じ?ごめんね?京子ちゃん、山田っち。急いでるから、じゃあ!」


そう手をひらひらさせ、ウインクをして去っていった。


と思ったらバタバタと足音がし、扉からひょいと顔を覗かせた。


「涼くん、ばいばい!」


そう畠中に満面の笑みで言い残し、今度こそ帰っていった。



……嵐のような人だ。


矢藤冬華−−生徒会役員であり、学園の美少女と呼ばれるもっぱら噂の有名人だ。


「ふふっ。久しぶりに顔を見たわね。」


羽波さんが吹き出す姿に俺は安心する。


「あぁ、そうだね。」


そう答え、採寸を終わらせた。




下校時間になり、廊下を歩く。


「そういえば、あの紙の当初の目標を私、完全に忘れていたの」


そう真剣な面持ちで羽波さんはぐいと近寄ってくる。


「というと?」


「それはズバリ!山田くんを笑わせることよ!」


こんなに真剣に言うことではなさすぎて、思わず吹き出してしまう。


「そう、それよ!明日も笑わせてあげるね?」


まだ明るい夕陽に照らされた羽波さんの後ろには、天使の羽の形をした雲があった。



……神まで味方なのかよ。



冬華元気ですねぇ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ