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ラブコメとは日常回のことである。

死ぬほどかわいい妹。

面倒くさい演劇部。

理解不能な美少女。

俺の平穏は今日も壊される。

今回、ラブコメとは日常回のことである。

……さて、面倒が始まる。

ピピピ……ピピピ……


朝のアラームに急かされるように、疲労で鉛のように重い体を起こす。ここのところ毎日こんな調子だ。


カーテンを開けると朝日が差し込んだ。


「目痛いな……こんな朝から暑くてどうなってしまうんだ地球……」


寝ぼけた頭でブツブツと夏に文句を言いながら制服に着替える。

俺は冬派なんだ。

ついでに女の子は清楚系が好みなんだ。

そうそう、こんな感じの--


「お兄ちゃん、今日はひとりで起きれて偉いですっ」


我が妹ながら、かわいすぎて絶句してしまった。


腰まである艶やかな黒髪。ぱっちりとした大きい瞳。自然にきゅっと上がった口角。

遺伝子は残酷だ。モブにこんなにかわいい妹がいるなんて、この世界はやはりラブコメなのだろうか。


「あぁ、沙織。おはよう、俺だって起きる時は起きるんだよ。長男だからね。次男だったら耐えられないよ。」


我ながら適当なことを言い、沙織の頭を撫でる。


「お兄ちゃん、うちに次男はいないですよ。変なこと言ってないで早く家でないと遅刻しちゃいますよっ!」


こんなにしっかりしたかわいい妹がいるなんて、俺は案外当たりの方のモブなのかもしれない。


「あぁそうだね、行ってくるよ」


いつもより少し上がっている気がする口角のまま、曲がり角まで沙織に手を振り続けた。


……さて、現実に戻ろう。


羽波さん、今日はなんの紙入れてるんだろうか。

そんなことを考え、朝の気だるい空気の中、クーラーを求めて早足で学校へ向かう。


汗ばむ額をシャツで拭いながら、下駄箱で靴を履き替え、顔をあげると、いかにもなヤンキー。加藤が目の前にいた。


「うわっ、びっくりした。珍しく朝早いね、何か用?」


こんな時間に主要キャラに会ってしまうとは俺のモブ観が揺らいでしまうだろう。早く要件を言え。猫でも拾ったのか?


「あの......先輩。今日のお昼一緒しませんか?」


そもそも俺たちは同じクラスなんだけど。

こいつはいつも俺を先輩と呼ぶ。

お昼を一緒に食べるなんて、モブ人生の規約違反......。

だが、何か話したいことでもあるのだろう。


「いいよ。中庭でいいかな?」


「うん。それでいいです。じゃあ、中庭でまた。」


また。なんて言葉、初めて言われたぞ。


少し嬉しく思ってしまった自分を冷笑しながら、教室の扉を開け、窓際の俺の席に座る。


手を机の中に入れると、

朝の熱を忘れさせる冷たさがあった。夏の青春は、案外こういう所に転がっている。


……なんてことを考えている間に、例の紙を掴み、光の速さでポケットにねじ込む。

そして何食わぬ顔で席を立つ。視界の端に羽波さんを捉え、トイレへと向かう。


毎日これをやっているのだ。


トイレに入り、ひと呼吸おいて今日の紙を開く。


『白雪姫のすきなものはなーんだ?

……私、かなぁ♡』


意味がわからない。


白雪姫はりんごが好きなんじゃないのか?

いや、毒りんごを食べてたよな?

じゃありんごが好きってわけじゃないよな?


羽波さんの考えることは、今日もよく分からない。


この紙のことは忘れてしまおう。


呆れながらトイレから出て、手を洗っていると少し笑っている俺の顔が映っていた。

なんで笑ってんだよ。

そう思いながら教室に向かう頃には予鈴が鳴っていた。


教室の扉を開け、俺の席に座る。

退屈な一日がまた始まるのだと、教科書を開いた。


その横で学校一の美少女--羽波さんは頬杖をつきながら俺を見つめていた。


「ねぇ、羽波さん。授業始まってるよ。」


そう、小声で伝えると


「そうだね。んで、今日の紙。見た?」


と、ご機嫌な顔で聞いてくる。

この人は、こういう時が一番輝いている。


「ううん、まだ見てないから。授業はちゃんと聞いたほうがいいよ。」


まあもう見たのだが、あまりの内容に返す言葉も思いつかない。


「そう。……それは残念だわ〜」


羽波さんは不貞腐れた顔で前を向いた。


その横顔を見ながら、放課後なんと返そうか考えていた。


そんなことをしているうちに昼休みになってしまった。


中庭のベンチに腰かけ、夏の空を見上げていると--


「ごめんなさい、売店混んでて遅くなっちゃいました。」


そう言って、呼吸を整えながら加藤は俺の横に座った。


「大丈夫だよ、お昼は売店で買ってるんだね。」


「そうなんです。先輩はお弁当なんですね。」


金髪メッシュの加藤が、優しく俺に微笑みかける。

イケメンだなぁ。

いや、見惚れてる場合じゃなくて。


「何か俺に話したいことでもあったんじゃない?」


そう問いかけると、


「そうなんです。実は僕、先輩にこれを渡したくて。」


え?何怖い。ヤンキーに渡されるものなんて果たし状??何も成し遂げてない俺に?


「これ道端で拾ったんですけど、先輩にあげたくて。受け取ってくれませんか?」


加藤はそう言いながらおもむろに俺の前に花を差し出した。


--そう。花を。


「え?どういうこと?なんで俺に?」


思わず質問攻めにしてしまった。

まさか、この見た目の人に花を渡される日が来るなんて。

モブ的にはありえない展開なんだが。


「なんか道端にぽつんと咲いてて、先輩みたいだと思ったんですよ。野草ですし要らなかったら大丈夫ですよ。」


新手のぼっちいじりかよ。


「ありがとう。受け取っとくね。」


そう言い、加藤から花を受け取ると彼は嬉しそうに微笑んだ。


「俺、演劇部入ってよかったです。また放課後、部室で!」


そう言い残し、彼は走り去った。

おいおい、どんな展開だよ。


放課後、俺は花を片手に部室に向かった。


毎回部室に入る前は少し緊張する。

深呼吸をして、扉に手をかける。

勢いよく!!

……開けるわけもなく、今日もそろーっと開けた。

部室を見渡すと、俺以外全員揃っていた。


「これって遅刻?」


その質問は無視された。


「なになに〜花なんか持ってどうしたの?」


王子様--御剣が、下衆な笑みで聞いてくる。


「昼休みに加藤くんに貰ったんだよね、ぼっちな俺にお似合いだって。」


窓際にある紙コップに花を挿しながら答える。


「ちがっちがいますよ!!俺はその花みたいに先輩が綺麗だって意味で渡したんです!!」


ありがとう。加藤よ。お前は同級生だ。

それより、この目が笑ってない完璧美少女(笑)をどうにかしてくれ。


「へぇ、昼休み、加藤くんと会ってたんだ、私とは、お昼一緒に食べたことないのに。」


おー、怖い怖い。


「そもそも羽波さんはいつも女子たちと一緒にいるんだからお昼も一緒に食べてるんでしょ?」


羽波さんは異性からも同性からも好かれる、高嶺の花だ。


「あの子たちとは、ずっと一緒にいる訳じゃないわよ。昼休みは基本的にひとりでご飯を食べているの。」


完璧美少女さん、意外とぼっちなんだ……


「それなら今度また一緒にご飯食べようか。」


……これで落ち着いてくれー。


「ま、まあ一緒に食べたいって言うならいいわよ。なるべく人目のつかないところね。」


俺が誘ったみたいになってて草。


……いや、俺が誘ってたわ。


席に座って羽波さんが淹れてくれたお茶を飲みながら例の紙を眺める。


「白雪姫って、何が好きなんだろうね。」


そう呟くと、


「りんごじゃなかったっけ。」


そう、御剣が答えた。


「羽波さんは、なんで私♡なんて書いたのさ」


笑いを堪えながら、そう聞く。


「まあ適当よ、面白かったらなんでもいいじゃない。それで、これは笑った?」


前のめりで、そう尋ねてくる。


「まあ、呆れて笑いが出たかもしれないね」


そう返すと


「やった!笑ったならそれでいいのよ。ふふふ」


無邪気に喜ぶその姿は、どう見ても完璧美少女だった。


ため息をつき、部室を見渡す。

自由に笑い、自由にゲームし、自由に揉めている。


……面倒で、騒がしくなりそうだ。


そう思いながら、背もたれに体を預けた。

羽波さん。美少女ですねぇ。

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