ラブコメとは夏合宿のことである。
ついに始まる夏合宿!!
最初から寝坊する山田!!
どうなる!!夏合宿!!
今回、ラブコメとは夏合宿のことである。
「お兄ちゃん!起きてください!」
俺は体を大きく揺さぶられる。
「うーん。沙織。夏休みだよ。もうちょっと寝よう。」
朦朧とする意識をなるべく起こさないように呟く。
きっと構って欲しいのだろう。
「ほら、寒いだろ。入っていいよ。」
布団を捲り、ジェスチャーをする。
「お兄ちゃん!今日から合宿だとか言ってませんでした?」
沙織が布団の中に入ってくる。
……これでもうしばらく寝ていられるな。
冷房でキンキンに冷えた部屋で毛布にくるまる。
「お兄ちゃん。この部屋寒すぎます。」
むにゃむにゃと眠りに落ちそうな沙織を眺める。
ん……?
さっきこの天使なんて言った?
慌てて起き上がり、時計を見る。
「集合時間過ぎてんじゃねえか……。」
急いで準備するか迷い、思い出す。
そういえば合宿は車移動だった。
うん。間に合わないな。
俺は諦めて寝ることにした。
ベッドに倒れ込み、目を瞑る。
「山田くん。山田くん!あなた。何を考えているの。」
沙織にしては強すぎる力で揺さぶられ、俺は困惑する。
「沙織、起きたのか?ほら、お兄ちゃんはまだ寝るから。」
仕方ない妹だと思い、また布団を捲りジェスチャーをする。
「はぁ。あなたねぇ……。」
なんで呆れられているんだと思い、
目線を落とすと沙織はすでに俺の布団で寝ていた。
あれ……?
これは何かがおかしくないか?
俺は視界を明瞭にさせ、もう一度目の前を凝視する。
「うわああぁ。」
俺はあまりの衝撃に、壁に頭を打つ。
「何してんすかー。先輩。大丈夫ですか?」
加藤が俺に近づき顔を覗き込む。
「あぁ。大丈夫。ごめん。」
だんだんと頭が鮮明になってくる。
「なんで、みんな俺の部屋にいるの。」
俺は最初の疑問を投げかける。
「ようやく現状を理解したようね。あなたが遅刻だなんて珍しいから迎えに来たの。ただの寝坊で安心したわ。」
羽波さんは安堵したような呆れているような、よくわからない顔をしていた。
その後ろには声を押し、腹を抱えている御剣がいる。
「それは、みんなごめん。準備するね。」
布団から出て、沙織が風邪をひかないように布団を顎までかける。
「妹さん。すごく可愛いのね。ふふっ少し山田くんに似てるわね。」
沙織の寝顔を覗き込んでいる羽波さんを見る。
あぁ、今日は私服なんだな。
俺のデスクの椅子に座ってゲームをしている畠中に近づき、ヘッドホンをずらす。
「畠中くんもごめんね、すぐ準備するから。」
ヘッドホンを戻しごめんとジェスチャーをし、畠中が横目でこちらを見たのを確認し急いで部屋を出た。
「ちょっと加藤くん。あなた、それ食べたら容赦しないわよ。」
「これは僕達に御剣さんがくれたポテチです!」
「あ!あなた。食べたわね。いいわ覚えときなさい。」
右側でポテチの取り合いをしている羽波さんの肘が、俺の体にガツガツと刺さる。
「君ら、うるさいんだけど。よくこの歳にもなってポテチなんかで喧嘩できるね。」
俺達の前列に座っている畠中が、ポッキー片手にゲームをしている。
車が急カーブをし、体が揺れる。
「ははは、涼くんよく酔わないよねぇ。ほら、これもあげるから好きなの食べなよ。」
御剣がお菓子の入った袋を渡してくる。
俺は礼を言い、袋の中身を覗く。
ポテチとポッキーとじゃがりこと、チョコレートと和菓子とハッカ飴か……。
「山田くん好きなの選んでね。ポテチは加藤くんに食べられちゃったし……。」
羽波さんが袋を覗き、顔を上げて微笑んだ。
……目が全く笑っていないんだが。
「俺はポッキーにしようかな。ありがとう。」
俺は残りの袋を羽波さんに渡した。
「いい?さっきはポテチ全部食べたでしょうあなた。今回は私から選ぶからね。」
「なんでですか!ここはじゃんけんで決めましょう!ドラフト制です!」
「あなた。私にじゃんけんなんて良い度胸しているじゃない。」
……加藤その魔王は神の子だぞ。じゃんけんはやめとけ。
『じゃんけん、ぽん!』
加藤が泣き崩れているのを横目に窓の外を眺める。
下道で向かう隣の県のキャンプ場までの道中には海が広がっていた。
夏の太陽に照らされた海はキラキラと揺れている。
「荷物ここでいい?御剣くん。」
コテージの大きさに目を輝かせている隣の金髪に声をかける。
私服姿の御剣は、いつもよりラフで自然光がよく似合っている。
「あぁ、そうだね。そこに置こう。
それにしてもすごく雰囲気のあるコテージだね。」
コテージに入って何度目かの感想に少し笑ってしまう。
「二人部屋だったらこんなもんだよ。御剣くんには少しコンパクトかもね。」
「いや、そういうことじゃなくて。うん。まあそうなんだよね。実は、僕あんまりこういうところに来たことがなくて。意外だった?恥ずかしいなぁ。」
御剣にしては多すぎる口数だ。
「ううん。そうでもないんじゃないかな。俺も家族以外と来るのは初めてだし。」
俺はカバンを適当に置き、顔を上げる。
御剣はなんだか、拍子抜けしたような顔をしていた。
「あれ、どうしたの。御剣くん。」
俺は調子でも悪いのかと近づく。
「いや、なんでもないよ。みんなと合流しようか。」
御剣は後ろに振り返り、靴を履く。
俺も横に座り靴紐を結ぶ。
横を見ると、御剣はなんだか嬉しそうにニヤついていた。
「え、俺そんな変なこと言った?」
御剣の背中にそう問いかけると、
「山田くん、集合場所まで競争だよ。じゃあね。」
御剣は満面の笑みを浮かべ俺に手を振った。
「意味がわからない。」
俺は文句を言い、夕日に照らされた王子様の背中を追った。
夏合宿……。
もうすでに家に帰りたい。
夏始まりましたねぇ。




