ラブコメとは金髪の王子様のことである。
夏合宿2日目!!!
演劇部のみんなでカレー作り!!
マイペースな顧問、ミステリアスな王子!!
今日も騒がしい日常が始まる……。
今回、ラブコメとは金髪の王子様のことである。
俺は見慣れない天井に驚き、目が冴える。
夏合宿に来て2日目……。
沙織は寂しくしていないだろうか。
自分のシスコンぶりに苦笑しながら隣の布団を見ると、すでにもぬけの殻だった。
「俺も準備しよっと。」
慣れない布団で重くなった体を起こす。
コテージから出て、手洗い場のそばに上がっている煙草の煙に近づく。
「八代先生。おはようございます。朝早いですね。」
俺は演劇部の顧問に声をかける。
「あぁ、山田か。そうだな。夏休みだっていうのに若いのはよくやるよ。」
生徒を前にしても煙を消さず、のんびりと話す。
「ほんとうに。でも少し涼しいな、ここは。」
集合時間まで時間があるので少しここに留まることにし、俺は八代先生の隣に座った。
「それにしても、生徒達の居場所とかいう名目でこんな部活が許されてるなんて変な話だよなぁ。」
煙を吹かしながら、紫がかった長い髪を耳にかけ、八代先生はぼやいた。
「文化祭以外は活動してないですもんね。巻き込まれて大変ですね、八代先生も。」
大した活動もしていないのに夏合宿だなんて、よく考えなくても顧問からしたらいい迷惑だろう。
「まぁ、いずれどこかの顧問にはならないといけないんだ。私はまだペーペーだからね。
それにこの部活は手がかからないし、夏合宿だって私がすることと言ったら運転くらいさ。
他の部活を押し付けられるよりずっとマシだ。まあ、彼らの清く正しい学校生活が守れてると思ったらこんな部活もあって良いかもな。」
八代先生は一人で話をまとめると、携帯灰皿に煙草を押し付けて立ち上がった。
「まぁ、あの四人は目立ちますもんね。」
俺は四人の顔を思い浮かべる。確かに、彼らには居場所が必要なのかもしれない。
「それは事実だが、君もこの演劇部の一員だよ。」
八代先生は俺の頭を指でとんと突き、手をひらひらさせながら去っていった。
「みんな、お昼はカレーにしましょうか。」
羽波さんが調理場に材料の入った箱を置き、テキパキと指示を送る。
「じゃあ俺は野菜でも切ろうかな。」
俺は久しぶりの料理に心が躍り、包丁を引っ張り出し、まな板の前に立つ。
「山田くんは包丁ダメよ。」
羽波さんに包丁をひょいと取り上げられる。
「え、なんで。俺も野菜切りたいんだけど。」
行き場を失った手をひらひらさせながら包丁を返してもらおうと交渉する。
羽波さんはそっとまな板の横に包丁を置き、ため息をつく。
「あなた。この前のお弁当作りで手を傷だらけにしていたでしょう。危ないから今日は私たちに任せて。」
真剣な表情で真っ直ぐに俺の目を見る。
「わかった。羽波さんが言うならそうするよ。任せちゃってごめんね。何かできることあるかな?」
俺は残念に思ったが諦めることにした。
「そうね。響也くんと山田くんには夕食の買い出しをお願いしようかしら。」
羽波さんはジーンズのポケットから二枚の紙を出して俺に差し出す。
「これは買い出しのメモね。こっちは例の紙よ。」
羽波さんは買い出しのメモを俺の手に乗せ例の紙は胸ポケットに突っ込んだ。
珍しく少し乱暴な手つきに驚く。何か特別なことでも書かれているのか?
「あぁ、了解。ありがとう。行ってくるね。」
俺は御剣と一緒に歩いて山の下にあるスーパーまで向かうことになった。
「いやぁ、山は涼しいね。すごく開放的だ。」
山道を降りながら御剣は空や木々の自然を楽しんでいる様子だった。
「ご機嫌だね、今日朝いなかったけどどこか行ってたの?」
俺も集合時間より随分と早く起きたのにな……。
「あぁ、姉から電話があったから外に出てたんだよね。全く朝早くから電話をかけてくるなんて常識ってのがないよねぇ。」
俺は夏の日差しを受け、キラキラと輝く金髪を眺める。
「お姉さんいたんだ。知らなかった。」
そういえば、俺はみんなのことあんまり知らないな。
「うん、姉が二人いるよ。山田くんは妹さんだけ?」
末っ子にしてはしっかりしてるよな。と偏見じみた思考が頭をよぎったが、すぐに沙織の顔に頭を支配された。
「うん、妹だけだよ。御剣くんが弟だったらすごい可愛いだろうな。」
俺は姉に可愛がられる御剣を思い浮かべ、微笑ましく思う。
「いや、そんなことないんだよねぇ。ほんとにいいように使われてるよ。山田くんの妹さんはすごくかわいらしいよね。」
御剣はにこやかに答える。
「まぁ家族だったらそんなもんだよね。沙織は結構雑で適当なところが多いよ。」
みんな家族にしか見せない顔があるのだろうと考え、昨日起きたことを思い出す。
俺はみんなに沙織に話しかける時の口調を聞かれてしまった。
それどころか寝ぼけているところまで見られてしまったのだと俺は思い返す。
なんだろうか、すごく恥ずかしいかもしれない……。
自分の顔がどれだけ赤いか、鏡を見なくたってわかる。
「年下の兄弟憧れるなぁ。え、どうしたの?山田くん。そんな苦虫を噛んだみたいな表情して。」
御剣が俺の顔を覗き込み心配そうな表情をしている。
「いや、昨日のこと思い出してた。ごめん、なんだっけ。」
早く話題を変えなければ。
そういえばあの状況は絶好のからかいのチャンスだったのに誰も何も言ってこないな。
「あぁ、あの時は山田くんの親御さんが許可してくれたとはいえ、少し無礼だったよね。ごめんね。」
どうやら御剣は、俺が怒っていると思ったらしくすごく申し訳なさそうに頭を下げた。
少し既視感のある状況に不思議に思う。
あぁ、加藤に演劇部に誘われた時だったな。
そして俺はまたしても主要キャラに頭を下げさせていることに気づく。
「やめてよ御剣くん。俺は気にしてないよ。そもそも寝坊して心配かけたのは俺だし、
さっき思い出してたのは少し恥ずかしいなって思っただけで、だから本当に。」
俺は御剣の肩に手を置いた。
頭を上げた御剣の肩は俺よりも随分と高く、なんだか少し感心してしまった。
「ははっ。ありがとう。山田くん。」
朗らかに笑う王子様に、俺は声も出せず見入ってしまう。
「山田くんって結構人の顔見つめるよね。」
唐突な指摘に驚いてしまう。
「ほんと?ごめん。あまりにも綺麗だったから。気悪くしたよね。」
見惚れられるのには慣れているだろうが、俺なんかに顔をじっと見られるのは嫌だろう。
「いやぁ、面食いなんだねぇ。俺の顔は山田くんのお眼鏡に適ったかな?」
御剣はいたずらっぽく首を傾げる。
「そういうのは言われ慣れてるでしょ。ほら行こうよ。」
俺は楽しそうに笑っている御剣を置いて歩き出す。
「待ってよ、山田くん。イタズラが過ぎたね。」
反省はしていなそうに軽口を叩く御剣の様子に俺はほっとした。
スーパーから戻る頃にはカレーが出来上がっていた。
「あら、二人とも遅かったわね。道草でも食べていたの?お腹壊すわよ。」
羽波さんが机に皿を置きながら呟く。
「御剣くんがグリコしようとか言い出すから。」
山道に後に着いた方が荷物を持とうと言い出した御剣を思い出して少し笑ってしまう。
「えー、ひどいなぁ。山田くん。荷物絶対に持たないってノリノリだったのに。」
御剣は羽波さんから皿を受け取り、拗ねた顔を作って俺の方を見る。
「あなた達、楽しんでいたのね。こっちは大変だったのに。」
羽波さんがため息をつき、加藤の方に目をやる。
つられて目線を動かすと、沈んだ顔をした加藤がいた。
「どうしたの、加藤くん。そんな暗い顔して。」
俺は加藤に近づき尋ねる。
「先輩、カレーってなんでしたっけ……。」
よく分からないことを言っている加藤に困惑し、羽波さんに目線を避難させる。
「はぁ、八代先生が準備してくれたカレーのルーが、ハヤシライスだったのよ。」
羽波さんは手を頭に当て、やれやれといった様子だ。
「え、じゃあこれはハヤシライスなの?」
何がそんなに問題なのか分からないが、多分問題なのだろう。
「そうですよ、カレーの具でハヤシライスを作ったんです。鶏肉のハヤシライスですよ……。」
なんだか絶望した様子の加藤を面白く思っていると、横で御剣が大笑いしだした。
「まぁ、いいじゃないか。冷めないうちに食べよう。作ってくれてありがとうね。」
笑いを堪えながら御剣が席に座った。
「ほんとに、ルーが違うだけでそんなに事件ぶれるなんて。加藤も細かいね。」
畠中はゲーム機を横に置き、早く食べようと目線を送ってくる。
「うるさいです。畠中さんは黙っててください。さっさと一人で準備進めて、協調性って知ってますか。」
加藤はなんだか不機嫌で口数が多い。
「ふふふっ、まあ思ったのとは違うけどきっと美味しいわよね。さあ、食べましょう。」
羽波さんは笑いながら加藤を席に移動させる。
「いやぁ、まさかルーにそんなに種類があるなんて、知らなかったんだ。ごめんよ。」
八代先生は少しも悪びれる様子もなく手を合わせる。
『いただきまーす。』
木でできたベンチを撫でると木くずが手に刺さった。
木くずを抜き、目の前にある具が違うハヤシライスを口に運ぶ。
たしかに、カレーの具だろうがハヤシライスの具だろうが大して変わりはないな。
ハヤシライス美味しいですよねぇ。




