答えはいつも自分の中に
「──まあ、と言うわけで……これが『ヤバい魔女と結婚した挙句、その跡目争いに巻き込まれて死んだ青年』の話だ。これを聞いて二人はどう思った?」
改めて聞いた父の話はあまりにも悲惨で、二人は目を伏せて辛そうに感想を話した。
「父さん……悲惨すぎる。俺も結婚相手はよく考えるよ」
「お父さん……なんでそんなのと結婚しちゃったの……?」
「…………」
秋奈は実の息子と娘からのその言われように、吹けない口笛をピーピーと吹きながら目を逸らすことしかできなかった。
「ふふ、二人ともそう思うよね。でもな、僕は微塵も後悔はしていないんだ。なぜだと思う?」
「「!?」」
二人は驚愕した。
その話を聞いて、「後悔がない」わけがないと思ったからだ。
「はい!はい!!その答えは、『その青年は結婚した魔女の子が大好きだったから』です!!!」
そして宵と彗ではなく秋奈が手を挙げてその質問に元気よく答えていたが、昴はそれを微笑ましく見つめながら無視した。
そして子供たちが答えられないのを見て、昴は口を開いた。
「──『自分で決めた』からだよ」
昴の答えは意外と単純なもので、二人は肩透かしに近いものを食らった。
「僕は秋奈さんに押し切られながらも、最後は彼女のことを本気で愛したから結婚した。周囲の状況や環境は全て『判断材料』。最後に決めたのは『自分』なんだ」
昴は続ける。
「自分が進んだ道にどんな不幸が起きたとしても、途中の分岐で判断を下したのは『自分』。だから僕はなんの後悔もない。だから『これが鷹宮昴──もとい月詠昴の人生だった』と胸を張って話せる」
「「…………」」
そう胸を張る父親の姿は自信に満ち溢れており、自分たちよりも遥かに大きな人間に見えた。
「だから宵、彗、『自分で決める』んだ。両親のために戦うのも違う。両親に言われたからやめるのも違う。『自分たちが』こうしたいからこうする……そうやって生きれば少なくとも後悔はしない」
昴は「まあ流石に夏波さんに新月刀で刺し殺された瞬間だけは、ちょっと後悔したけどね」と笑った。
「答えはいつも自分の中にある。それを忘れないでくれ」
昴は最後に「そして、もし春華おばさんと戦うというのなら……」と続けた。
「東条くんを訪ねるといい。そしてこう伝えるんだ。『鷹宮先輩と戦っていたときの、「本気の構え」を教えてください』とね。他には何も言わなくていい。きっと、彗が強くなるための大きな助けになるよ」
昴がそう言ったところで、真っ白な空間が歪み始めた。
それを見た四人ともが、この夢のような時間に終わりが迫っていることを悟った。
そして最後の言葉をかけようと秋奈が口を開いた。
「宵くん、彗ちゃん!とにかく私たちはもういいから……あなたたちの人生を歩いて!そしてできれば……私たちみたいにならずに、幸せに暮らしてほしい!」
「「ッ……」」
10年ぶりに話した両親から受け取ったものは、とびきりの愛であった。
自分たちも何か伝えたい。
しかし二人の口からは両親のような立派な言葉は出てこない。
だから、溢れ出す思いを二人はそのまま口から出した。
「「───ありがとう!!」」
二人がそう言ったのを最後にこの空間は完全に消滅し、兄妹は同じ布団のなかで目を覚ました。
─────────────────
「ん……んんっ……!!」
アパートの部屋の中に、東からの綺麗な朝日が斜めに差し込んでいる。
兄の上に乗ってうつ伏せに寝ていた彗は目を覚まし、腕立て伏せの要領で体を起こして笑った。
「お兄ちゃん、私決めたよ」
「……何をだ?」
笑う妹を見て、宵は微笑みながらそう聞いた。
彗はスゥと息を吸い、大きな声で言った。
「まずは死ぬほど甘いものを食べる!!マシュマロ、ケーキ、シュークリーム!!」
「そして思いっきり剣道がしたい!!最近サボっていたから!!」
「そして──怪盗になって、春華から最後の神器を取り返す!!」
「そのあとは魔女として、お兄ちゃんがお医者さんをやる医院で看護師をやる!!!」
彗は「だって、これは……」と笑い、言葉を続けた。
「『私の』夢だから!!!」
「…………それは違うぞ、彗」
宵はニヤリと笑いながら彗を見上げ、言った。
「──それは、『俺たちの』夢だ」
そう笑う宵の顔を見て、彗は「うんっ!!」と楽しそうに返事をして立ち上がった。
「まずは剣道だ!久々に稽古しよっと!部活行かないと!」
彗はそう言ってスマートフォンを手に取ると、「うわっ!!」と声をあげた。
「どうしたんだ?彗」
「玲香から大量の着信とメッセージが……100件ぐらい。あれ?なんか今日試合らしい」
彗は玲香からの「早くきて」「こないとやばい」「来なかったら今夜コスプレね」などのメッセージをスクロールしていった。
すると見ている途中で最後のメッセージが届き、そこには「今から一回戦始まる」と書いてあった。
「えええ!?やばっ!!なんかもう始まるみたい!今から行けば間に合うかな!?」
試合の話は初耳だが、自分はたぶん大将。
つまり出番は一番最後。今から全力で向かえば間に合うかもしれない。
「い、いや、流石に無理じゃないか!?すぐ車を出したとして……」
「いや、いける!!」
彗は部屋の中にある満月鏡と新月刀を手に取った。
「透明になって、体を強化して、空を走ってく!!」
「い、いけるか?」
宵の心に一筋の不安が過ぎる。
何故なら最後に彗が神器を手にしたとき、満月鏡は光らなかったからだ。
「もちろん!!」
しかし彗はそんなことは忘れたかのように魔力を込めた。
他ならぬ、『自分が』試合会場に行くために。
「うおっ!?」
魔女の魔力に応えた満月鏡と新月刀は宵が見たことがないほどに強く光り、部屋中を月光色の光で満たした。
「じゃあ、行ってくる!!お兄ちゃんも応援来てね!!」
月詠の魔女は──月詠彗はそう言って笑いながら、窓から飛び出していった。




