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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
怪盗は誰がために

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むかしむかし、あるところに……

『もう神器なんて放っておきなさい──』


宵と彗は、実の母──そして彗の先代である「月詠の魔女」からそう言われたことに驚愕した。


「お、お母さんは……お母さんはっ……!!」


彗は今にも涙を流しそうな顔で、苦しそうに言った。


「私たちが神器を取り返したとき、嬉しくなかったの……!?」


これまで様々なことがあった。

ずっと必死で、死ぬような思いもしながら満月鏡と新月刀を取り返した。


それなのに、そのことを母からどうでもいいように言われてしまうのは、娘としてとても辛いことではあった。



「……嬉しかったよ!!」


しかし秋奈は、決して「神器がどうでもいい」わけではなかった。


冬子ふーちゃんから満月鏡を取り返してくれたとき、すごく嬉しかった……!!泣いちゃうぐらい!!」


秋奈は『泣いちゃうぐらい』と言い、涙を流し始めた。

本当に泣いたのだろうな、と宵は母親の情緒豊かな性格を思い出しながら聞いていた。


「それに怪盗になって東条くんを困らせてるのを見てたときも、すごく楽しかった!」


東条刑事は学生時代の昴の部活の後輩で、秋奈とも顔見知りなのだ。


「僕はどうかと思ったけどね?君は小躍りしながら見てたけどさ。流石に東条くんが可哀想だよ、あれ」


昴は「やれやれ」と肩をすくめた。


しかし秋奈は楽しそうな表情から一転して「でも……」と俯き、顔に影ができた。


「宵くんがヤクザさんの事務所に連れていかれたり……彗ちゃんが夏姉なつねえ、大西さんに殺されそうになりながら戦っていたときは……本当に怖かった」


「「ッ……!」」


二人は秋奈の言葉を聞いて固まった。

あの光景を母が見てどう思うか、ということなど考えたこともなかったからだ。


「彗ちゃんがあの人に刀で斬られそうになる度に、夏姉の魔法が彗ちゃんに当たりそうになる度に……私、泣き叫びながら見てたんだよ?」


「「…………」」


二人は何も言えなかった。

そして自分たちは「母は応援してくれている」と盲目的に信じていたが、秋奈の親としての本当の気持ちを考えるということはしていなかったのだと気がついた。


「それで……春姉はるねえに彗ちゃんが闇の魔法で撃たれたとき……私、ショックで気絶しちゃった」


秋奈の顔はさらに暗くなる。


二人は「死んでても気絶ってするんだ」と少し考えたが、とても口を挟める雰囲気ではないので黙っていた。


「でもあのあと宵くんが、『もうやめよう』って彗ちゃんに言ってくれて本当に安心したの。だから私たちも思いを伝えたい!と思って願っていたら……」


「気がついたらここにいたってわけさ」


昴が締めて、秋奈の話は終わった。


死んだ母親は思ったよりもずっと人間的で、そして現実的な考えだった。


自分たちが「家を続けるために、死んだ両親のために」と深く考えずに戦っていたことを、二人は少し恥ずかしく思った。


「だからさっき彗ちゃんと戦ってたときも言ったけど……死人である私たちのことを思いながら、無理するのはもうやめてほしいの」


「…………」


彗は黙り込んだ。


先ほどの「いつまで死人のこと考えてるの?」という最低のあざけりのように聞こえた言葉は、秋奈の愛からきていた言葉だったのだ。


「「…………」」


二人は何も言えなくなってしまった。

秋奈の気持ちはわかった。


しかし、だからと言って「わかりました」とは言えない気持ちになっていた。


昨晩は二人で「もうやめよう」と泣いていた二人だったが、両親と会ったいまは心に不思議な力が湧き、かつ自分たちを現実世界で両親に会えなくした春華への怒りもまた強くなってきていたからだ。


親の思いと自分たちの思いが頭の中で混ざり合い、どう結論づけていいのか分からない。



───────────────────



「……悩んでいるようだね。二人とも」


「父さん……」


黙り込んでしまった宵と彗に、昴が声をかけた。


「二人の判断に役立つかは分からないが……一つ、昔話でもしようかな。とある可哀想な青年の話だ」


「「?」」


いきなり何を、と二人は思ったが昴は話し始めてしまった。


「むかしむかしあるところに、医者を目指して大学で勉強をしている青年がいました」


「しかしある日、青年の部屋の中に突然女の子が現れ、『私は魔女です。結婚してください』と言い始めました」


「その女の子は『私は魔女の後継あとつぎで、しかも実家の医院も継がなきゃいけないのに医学科に入れなかった。だから医者になるあなたと結婚すれば実家が継げると気がついたから、私と結婚してください』と話し……青年は思いました」


「『なんて勝手な女だッ!!』」


そう話す昴の表情は、鬼気迫るものがあった。


昴は続ける。


「そしてその女は信じられないことに、青年の部屋の鍵を盗んで部屋に入り込み、勝手に彼の部屋に住み始めました」


「そして魔法を使いながら青年を追い詰め、最終的に青年に無理やりプロポーズさせることに成功しました」


昴は自分で話しながら、「はあぁ……」とため息をついた。


そこで宵と彗は気がついた。


「な、なぁ父さん。それって……」


これは生前に昴が二人に話してくれた、秋奈との馴れ初め。


「何回聞いてもいい話ね……」


秋奈は「うんうん」と頷きながら、ハンカチで目元を拭いている。


「ええー……?」


彗は秋奈の態度をみてこの話が真実であることを確信し、母にドン引きした。


「まあみんな、話の本質はこの先なんだ。続けるよ」


昴はそう言って話を続けた。


「青年はその後医者となり、そのヤバ女の実家に婿入りしました」


「ヤバ女!?昴さんいま私のこと『ヤバ女』って呼んだ!?」


「子供は二人授かり、ヤバ女は子供にダークネスくん、ライトニングちゃんと名付けようとしましたが、男は阻止しました」


「「お父さん本当にありがとう」」


「なんで!いい名前でしょうが!!」


「そして、事件は起こりました──」


昴がそう話したところで、聞いていた三人は目を伏せた。


そこから先は分かっているからだ。





☽ あとがき ☾



昴と秋奈の馴れ初めは、外伝作品として投稿済の「魔女の末裔、婿が必要なので魔法を使って婚活してみた」に詳しく書かれています。


私の作者ページの「魔女の末裔」シリーズからお読みいただけます。


もちろん読んでなくとも本編には影響はないので、もしよろしければ!

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