表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
許すまじ偽怪盗

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/126

二度目の奇跡

「君ィ!大丈夫か!?」


救助隊員の男は、探偵のコスプレをした男と怪盗のコスプレをした女をヘリへと引き上げたあと、パジャマ姿の少女に声をかけた。


最初に三人とも声をかけたが意識はなかった。


「この子もやはり意識が戻らないか」と彼が判断して引き上げ用のロープを準備し始めたそのとき、少女の指先がピクリと動いた。


「う……」


目を覚ました彗が感じたのは、強い脱力感。

体が「生きていない」ように感じるほどで、このままずっと眠っていたいとさえ思える。


「あれ……?」


春華の闇の魔法が腹に当たり、自分は殺されたと思った。


しかし正確には、あの黒い「言霊ことだま」は彗のウエストポーチに当たっていたのだ。


そして、ウエストポーチには満月鏡が入っていた。


彗は知らないことだが「三日月ノ玉」の魔法は、魔女の魔力で中和してその威力を弱めることができる。


そして魔力が込められた状態の満月鏡は、春華の言霊を防ぐ盾にはならずとも、彗が死なない程度に威力を弱めるフィルターの役割を果たしたのだ。


「お母さんが……助けてくれたのかな……」


彗はウエストポーチの中にある満月鏡……母が最期に自分を守ってくれた神器を撫で、そう思った。


死ななかった理由は満月鏡。


そして、彗が目を覚ました理由は──


『彗!彗いいいぃぃぃぃぃ!!!』


耳に届き続けた、やかましい声。


「もう起きたよ、うるさいなぁ……」


まるでいつも通りの朝のように、兄のやかましい声で目を覚ました彗は、いつものように返事を返した。


『彗!?よかった!俺、本当に、殺され、たのかと……グズッ……!!』


宵は妹の返事が返ってきたことを心から喜び、鼻を啜った。


そして一安心したところで、彗が付けているカメラから送られてきている映像に、救助隊員の男が映っているのを見た。


『彗、そこで「救助」されるのはまずい!なんとか姿を消して、俺と合流できないか!?』


「……なんとか、やってみる」


彗は満月鏡に残り少ない魔力を込め、姿を透明にした。


「……これより最後の要救助を救出します。はい、何故かパジャマの少女です。準備をお願いします……ってあれっ!?!?」


救助隊員が準備を終えて振り向くと、先ほどまでそこに倒れていた少女は姿を消していた。





──────────────────



ここはとある飲食店の駐車場。

深夜ということもあり、店は完全に寝静まっている。


ガチャ……バタン!


残り少ない魔力を使って空を歩き、なんとか車まで辿り着いた彗は、助手席に乗り込んだと思えばすぐに眠り始めた。


「彗……!」


宵は、力が抜けてぐったりとしている彗を自分の方に寄せて強く抱きしめた。


「よかった……!本当に……!」


春華の闇の魔法は予想できないものだった。


彗が歩きながら話してくれた通り、満月鏡が無ければ即死させられていたかもしれない。


だが妹は生きている。

確かに心臓が脈打ち、ここにまだ生きているのだ。


宵は涙を流しながら、彗を強く抱きしめ続けた。


そしてしばらくしてから震える手でシフトレバーを握り、彼は車を発進させた。


(……作戦の立て直しだな)


今回はいつものように作戦を立ててからのスタートではなく、テレビを見た彗が慌ててWitch Phantomとして窓から飛び出して行った。


そんな突然の行動の末の夜だったが、今夜得た情報はあまりにも多い。



まずは偽怪盗の正体。


さきほど彗が話してくれた通りであれば、彼は彗の部活の後輩で「月輪教」の創設者の息子。


そして春華が連れて帰ったということから、春華との関係も決して浅くない。


つまり、春華が「月輪教」に深く関わっていることが想像できる。


明日からは月輪教に絞って調査をして、仕掛けていくことになる。




そして春華の魔法。


「三日月ノ玉」の闇の魔法は恐ろしいものだった。


指先から「言霊」という黒い弾丸のようなものを発射し、命中したものに自身の命令を強制的に遂行させる。


それは従来の三日月ノ玉の魔法とは違い、相手が聞こえたかどうかは関係ない。


なにしろ、壊したフェンスに「飛べ」と命令して空を飛んでいったのだ。


つまり「どんなものにでも命令を通す魔法」だと考えられる。


(だが、対応策もあるはずだ……)


まず一つは「言霊」が弾丸のような形をしていたこと。

従来の三日月ノ玉が「声が聞こえる範囲」に魔法を展開できたことを考えると、「弾丸を当てた対象」というのは相当小さな範囲となる。


つまり、相手は対象を狙って「当てなければいけない」ということ。


そして満月鏡が彗の命を救ったのであれば、そこに何かあの「言霊」を破る方法があるのかもしれない。



「考えること、やることが山積みだな……」


宵は「ふぅ」とため息をついたが、その目は強く前を見ていた。


(そうだ。俺たちはまだやれる。だって──)


宵がチラリと助手席を見ると、疲れ果てた妹はパジャマ姿ですうすうと寝息を立てている。


──月詠の魔女は、まだ生きている。





───────────────────




「なっ……!!」


戦いの翌朝、春華は久々に輪生と朝食を摂りながらテレビを見ていたが突然立ち上がった。


「お母さま、どうされたのですか?」


「……っ!!」


春華は何も答えずにテレビを凝視し続けた。



『昨晩のグラン・ジェム・ミュージアムの火事ですが、2名が屋上から救助されました。彼らは閉館後の博物館内に取り残されて火事に巻き込まれたと話しており……』



「『2名』……ですって……!?」



「……えっ!?」



春華の言葉で輪生も気がついた。


昨日の夜、ミュージアムの屋上に残してきたのは3名。


探偵の男と、怪盗のコスプレをした女、そして怪盗Witch Phantom──


「お、お母さま。どういうことでしょうか……!?」


輪生に言われるまでもなく春華は考えており、そしてすぐに結論を出した。


他の2人が自力であの燃える建物から逃げられたとは思えない。


逃げ出した可能性がある人物はただ一人──


「……逃げたのよ。あの怪盗が……!」


「で、でも、お母さまは確かに殺したんですよね!?」


「ええ。確かに、魔法で撃ち抜いて……殺した、はず……」


そうは言ったものの、春華はもう自信がなかった。


しかし三日月ノ玉の闇の魔法で殺した相手が生き残るなど、考えられない。


「…………」


春華はしばらく一人で考えたあと、口を開いた。


「輪生、今日からあなたの鍛錬を10倍に増やすわ。次こそ絶対にあの怪盗娘を仕留めるのよ!」


「えっ……10倍!?そ、そうなると、学校や部活は……」


「そんなもの、もう行かなくていい!」


春華は怒りのままに三日月ノ玉を手に取り、魔力を込めた。


『私の言う通りにしなさい!』


その瞬間、輪生の中で春華の言う通りにすることが「真実」となった。


この言葉は、彼が幼い頃から春華から魔法と共にかけられ続けた言葉だ。


輪生は「はい……」と生気なく答え、フラフラと鍛錬場へと歩いて行った。


この月輪教本部の中には、輪生が幼い頃から使っている鍛錬場がある。


今日から彼は、次の怪盗との決戦に向けてより体を強く、そして「神器の箱」を使いこなすための鍛錬に徹する。


「くっ……このままでは、あの『計画』に影響が……!!」


春華は、窓から見える白い塔をチラリと見た。

昨日完成した、「月輪の塔」だ。


春華が現在進めている「計画」が大詰めであり、昨晩に彗を始末さえできていればその計画は完璧に滞りなく進むはずだった。


この計画が上手く進めば、自分はこの国を全て支配することができる。


10年間練り続けたこの計画。

唯一の不確定要素にして懸念点は、4ヶ月前に現れたあの魔女──



「月詠……彗──!!この私から、二度も逃れるなんて……!!母親あきなに似て、なんて忌々しい!!」


春華は昨晩、彗が魔法を使う際に放っていた月光色の光を思い出した。


昨晩、最後の「月詠の魔女」を殺した。

だからあの光を二度と見なくても良いと、春華は安心していたのだ。




「月詠彗……怪盗Witch Phantom!!次は絶対に、殺してやる……!!」


彼女は決心した。

もう一度だけ、あの忌々しい月光色の光と対峙すると──





許すまじ偽怪盗

終わり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ