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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
許すまじ偽怪盗

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本物と偽物

「はぁっ……!はあっ……!」


彗は大きく息を切らしていた。


全速力で走ってきたので肺が痛い。

魔力も体力に使ってしまった。


だが刀傷でボロボロになっている明智と玲香を見た彗は、心に強い怒りが、体に大きな力が湧いた。


「二人とも、大丈夫!?」


怪盗Witch Phantomの声を聞いて、二人は少し安心したような顔をしながらそれぞれ答えた。


「……ああ、なんとかな」


「う、Witch Phantom様のためならこの身が朽ちても本望ですから!あなたのしもべであるこの私が偽物をやっつけようと……」


「──バカァ!」


ボロボロになりながらそう言った玲香に、彗は大声をあげた。


「もう二度と……こんな危ないことしないで!いつも守ってあげられるとは、限らないんだよ!」


彗は怒りのままに気持ちを吐き出した。


明智も心配であったが、一般人の玲香が襲われている姿をテレビで見た彗はここに来る途中、生きた心地がしなかった。


「私がもう少し遅れていたら、殺されてたかもしれないんだよ!?」


「はい……ごめんなさい……」


玲香は怪盗少女の叱責を受け止めた。

彼女がいう通り、もしかすると自分は死んでいたかもしれないのだ。


Witch Phantom様のために命を捧げる覚悟はあるが、そんなことを彼女が望まないということも理解はしていた。


「…………」


玲香が大人しくなったあと、彗は偽物の方に向き直った。


自分の一撃によって屋上のフェンスに叩きつけられた彼だが、戦意喪失などはしておらず殺意を持って再び刀を構えている。


「探偵さん。玲香を連れてさがっていて」


「……一人で大丈夫か?Witch Phantom」


「大丈夫。絶対勝つから」


「ッ…………」


明智は怪盗少女の言葉は、虚勢でも鼓舞でもないと感じた。


彼女の言葉に含まれているのは、「真実」。


自分は負けないと心から確信している人間の言葉。


全てを任せてしまいたくなるほどに、彼女は頼もしかった。


スゥ……


怪盗少女は刀の切先きっさきを偽物に向け、大きく息を吸った。


「あんたは絶対許さない!!覚悟しなさい!!」





─────────────────




「…………ッ!!」


輪生は、全身から冷や汗が流れるのを感じていた。


先ほどまで探偵の男とともに戦っていた女は、本物の怪盗ではなかった。


空から現れて襲いかかってきた方が、本物の怪盗なのだ。


そして襲いかかってきた「本物」は、自分が思っていた100倍は強い魔女だった。


(あと……気のせいだろうか……?)


Witch Phantomの声は、どこか舞台女優のような……芝居がかったように変えているものに聞こえる。


もしかすると彼女の素の声は、自分が大好きなスイ先輩の声に似ているのではないかと、一瞬だけ輪生は考えてしまった。


「はあああああああっっっ………!!!」


月光色の魔力が、月詠の神器である新月刀に強く込められる。


そして次の瞬間。

目にも止まらぬはやさで間合いを詰められ、信じられない力で刀が振り下ろされる。


ギィンッ!!!


彼はなんとか受け止めたが、もしも自分が「神器の箱」の中にある「刀」の魔法を使っていなければ、相手の動きを見ることも受けることもできなかっただろう。


(ダメだ、このままではお母さまが込めてくれた魔力がすぐになくなってしまう!)


この神器の箱に溜めておける魔力は、それほど多くない。


だから春華からこれを使うときは、魔力消費に注意するように言われている。


なるべく「鏡」の使用のみ。

「刀」はどうしてもというとき。

「勾玉」は一度しか使えない。


だが怪盗Witch Phantomの猛攻は凄まじく、気を抜いたらすぐに斬り殺されてしまいそうだ。


「ゲフウッ……!!」


輪生がそう考えていたところで、自分の腹に彼女の両足が叩き込まれた。


彼は激しい痛みと吐き気を感じながら後方に強く吹っ飛ばされ、フェンスに叩きつけられた。


一方、偽物の腹にドロップキックを決めた本物は、蹴り飛ばした反動を利用して華麗に空中をクルクルと回ってからストンと着地した。


「ゴホッ……!ガホッ……!」


お母さまから、この怪盗は悪い人間だと聞いていた。


お母さまと、その妹である夏波様と冬子様。


三人はこの恐ろしい怪盗から「月詠家」の神器を守ろうと持ち出したが、冬子様は満月鏡を奪われて殺され、夏波様は新月刀を奪われて行方不明。


幼い自分とよく遊んでくれた夏波様。

満月鏡を使って美しい舞台をたくさん見せてくれた冬子様。


自分にとっては叔母とも言えるほど大切な二人を手にかけた、憎い怪盗。


「もし怪盗が現れれば必ず殺しなさい」とお母さまから言われていたが、自分も同じ思いだった。


絶対に負けないし、殺してやると思っていた。


(でも───)


「本物」のWitch Phantomが、こちらに歩いてくる。


「いくつか質問する」


(なんで、なんで──)


彼女の目には信念が通っており、自分が正しいと確信している目だった。


「あなたに指示を出しているのは誰?」


(この怪盗はこんなにも『まっすぐ』なんだ……!?)


これではまるで───


「あなたが使っているその『魔法』はどうやって使っているの?」


───自分が信じているものは、全て嘘なのではないかと思えてしまう。



「答えなさい」



怪盗はゆっくりとこちらに歩いてきて、新月刀の切先を輪生の首に突きつけた。




──────────────────



『彗、どうだ?答えそうか?』


「わかんない。こっち見て固まってるだけになっちゃった」


『ぐ……やはり簡単にはいかないか』


この戦いは、偽怪盗を倒して終わりという単純なものではない。


宵はこの偽怪盗は確実に春華の手先だと考えており、何より姿を透明に変える「魔法」を使う瞬間を彼はテレビ中継で見た。


満月鏡の魔法と酷似しているそれを見た以上、それを見逃すわけにはいかない。


その方法や道具を聞き出すように、彗に指示をしていた。


「くっ……くそおおおおおおお!!!」


(……僕はお母さまを──春華さまを、信じている!!)


偽怪盗──輪生は、残り少ない春華の魔力を神器の箱の中の「刀」に込め、身体能力を強く強化した。


そして刀を握りしめ、怪盗Witch Phantomに斬りかかる。


しかし彼の斬り込みはギィン、ギィン、と怪盗少女に簡単に受けられ、さばかれてしまう。


彼が本物である彗に勝てない理由は三つ。


一つ目は神器の質。


「神器の箱」はそもそも月詠家に生まれた魔女の娘たちの練習用に使われていたもので、中に入っているのは本物の神器のレプリカのようなもの。


その出力は本物に遠く及ばない。

輪生がいくらレプリカの「刀」の魔法を使おうとも、彗が持つ本物の新月刀とは出力が全然違う。


二つ目は心の強さ。


彗は自分こそが「本物」であり正義であると戦っているが、輪生は心のどこかに「偽物」を感じながら戦っている。


その迷いは太刀筋に現れており彼の剣は弱く、脆い。



そして三つ目は────


「うぐっ……!!」


ギィン、と音を立てて輪生が手に持っていた刀は彗の新月刀に弾き飛ばされ、彼の遥か後方へと飛んでいった。


怪盗少女はそのまま一気に間合いを詰め、偽物に強烈なひと太刀を浴びせた。


「ぐ、ぐあああああああああっっっ!!!」


────そもそも彗の方が、強い。



本物と偽物の格の違いは、果てしなく大きい。





☽ あとがき ☾


春華おかあさまを信じている──」

そう思って心を奮い立たせた輪生ですが、彗に歯が立ちません。


何故なら彗は、自分が正しいと「知って」いるから。


自分たちが正しいと「信じて」いる輪生。

自分たちが正しいと「知って」いる彗。


これでは勝負になりません。


何故なら「信じる」とは、少しでも心に疑いがある者が使う言葉だからです──。

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