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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
許すまじ偽怪盗

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「正しさ」とは……

「………」


Witch Phantomに扮した輪生は、グラン・ジェム・ミュージアム一階の窓を割って侵入した。


今日の「仕事」は特別らしく、お母さまから様々な言いつけを預かっている。


まず、ここにくるまでの途中にあった橋を爆破して落とすこと。


爆弾は前もって他の信者の方に仕掛けていただいたので、自分は橋の近くでスイッチを押すだけでよかった。


そしてもう一つは、この建物を焼き払うこと。


「これか……」


輪生は灯油タンクなどがまとめて置かれた一階の倉庫を見つけ、火がついたライターを投げ入れた。


火を付けると、火災に反応した火災報知器がジリリリと鳴ったのがやかましかった。


橋を爆破したことにより消防車は来れない。

そのためこの建物は一階から屋上にかけて火が回り、全焼するだろう。


なんのために?と輪生は考えない。


お母さまが「月輪教のためよ」と言っていたし、その過程で人が死んだとしても「月輪の極楽」に行くのだから問題ない。


これまでもたくさんの人間を極楽に送ってきた。


それは全て、両親が作ってくれたこの月輪教の発展のため。


自分は間違っていないし、「お母さま」はいつも正しい。


自分はそう育てられてきたし、間違いはないはずだ。


(…………)


しかし輪生は不思議な胸の痛みを感じた。


昨日、スイ先輩に告白した。

返事は明日もらえる。


そのせいか彼女の顔がずっと頭の中から離れない。


もしもいま、自分がやっていることをスイ先輩が見たら……止める気がする。


でも、お母さまの言葉は全て「真実」のはず。


なぜ矛盾するのだろうか?

正体不明の痛みが、チクチクと自分の心を刺している。


「……これか」


輪生が三階まで登ると、そこには今回の獲物である宝石……「龍の涙」が置いてあるケースがあった。


普通であればとても壊せそうにない頑丈なケースだが、自分にはこの「神器の箱」がある。


お母さまが生まれた「月詠家」には、三種の神器と呼ばれるものがある。


この箱は、お母さまが子供の頃に練習用として使っていた神器のレプリカのようなもので、月詠家に生まれた魔女は慣れるまではこの「神器の箱」で練習をするらしい。


魔女がこの箱に自分の魔力を溜めると、この箱を持つものは魔女でなくともその魔女が込めた魔力がなくなるまでは鏡、刀、勾玉の魔法を少しずつ使える。


自分はこの箱を使ってお母さまの魔力で魔法を使い、これまで「仕事」をしてきた。


バキッ!!


輪生は神器の箱の中にある「刀」を使い身体能力を上げ、ケースを壊した。


(今夜は簡単な仕事だった……早く帰って眠ろう。そして、明日はスイ先輩と……)


輪生は思わず口元が緩んだ。

告白をOKしてもらえるかどうかはまだわからないが、もしもスイ先輩が自分の彼女になってくれれば、どれほど楽しい気持ちになるだろうか。


輪生は想像するだけで、幸せな気持ちになった。



「──そこまでだ、偽怪盗」



しかしそんな気分は、一瞬で終わりを迎えた。



──────────────────



(……なんだ?)


輪生はこの事態に疑問を抱いた。


トレンチコートを着て鹿撃帽子を被った、「探偵」というコスプレをしているような男が、こちらを見て立ちはだかっている。


警備員でも警察官でもないこの男が、何をしにきたのだろうか?


(まあ、いい)


極楽に送ってしまおう。

彼はそう考え、腰の刀を抜いた。


この刀は彼が「シノビ」として月輪教にとって邪魔な人間の暗殺をする際にも使っている真剣。


怪盗Witch Phantomの服やマスクは「神器の箱」の鏡の魔法で出したものだが、この刀は本物だ。


「あっ!偽怪盗!!出たわね!!」


探偵の男の他に、一人の女がこちらにやってきた。


「!?」


輪生はその姿を見て驚愕した。

その女は、なんと「怪盗Witch Phantom」そのもの。


(本物……ついに現れたか!!)


輪生はWitch Phantomに扮して「仕事」を始めてから、お母さまに強く言われていることがあった。


──もし本物が来たら、絶対に殺しなさい。


「な、なんだその格好は!?」


「いいんです!あの偽物に、本物のドレスとマスクはこうだって教えてやるんですよ!どうですか!?すごい完成度でしょ!?」


(やはり本物か!)


男と女が揉めている会話から輪生は確信し、Witch Phantomに斬りかかった。


しかし──


ギィン!


──輪生の刀は、探偵の男に受け止められた。


男は硬い何かを服の下の腕に巻いているらしく、輪生の刀を左腕で受け止めた。


「殺された警察官たちは、全員斬り傷で死んでいた。刃物への対策は……万全さっ!」


探偵の男はそう言って、輪生に向けて右手で持っている銃の銃口を向けた。


「っ!!」


輪生は慌てて体を翻し、二人から距離を取った。


小さな注射器のような弾が、輪生がいたあたりを通過して飛んでいった。


「……げほっ、ごほっ!」


輪生は階下から上がってきた煙を吸い、少し咳き込んでしまった。


一階で放った火の煙が、ここまで登ってきたのだろう。


(くっ……!)


彼は体を翻して彼らに背を向けた。

屋上へと移動するためだ。


「待て!偽怪盗!!」


当然、例の男女は自分を追ってきた。


────────────────


明智と玲香は、屋上に出た偽怪盗──輪生を追った。


「追い詰めたぞ、偽怪盗。あの怪しい教団について話してもらうぞ」


「そうよ!降参しなさい!そんな間違いだらけの偽物は見るに耐えない!」


──怪しい教団?

──間違いだらけ?


(……何を言っているんだ?こいつらは)


輪生は二人の言葉に強い苛立ちを覚えた。

そして彼はその苛立ちをぶつけるように、二人に襲いかかった。


月輪教は両親が作って、春華さまが大きくした最高の教団だ。

その教団のために働く自分は絶対に間違ってなんかいない。


両親が死んでしまったとき、当時の月輪教の信者たちは言った。


「もう終わりだ」

「教祖様がいなくなったのだから」

「解散しよう」


月輪教を潰したくない。その一心で自分は信者の人たちと話した。


しかし、誰も話を聞いてくれなかった。


両親を失った孤独で弱い子供には何の力もなかったからだ。


でもそんな自分を、新しく教祖となってくれた春華さま──お母さまが強く育ててくれた。


お母さまいつだって強く、その言葉は全て「真実」だった。


だからこそ月輪教はその後、何万人もの信者を持つ大きな宗教団体となった。


月輪教が大きくなると、周囲の反応は変わった。


大きな組織になった月輪教において、「創設者の息子」である自分の言葉は「正しいもの」として受け入れられることが増えた。


輪生は何も変わらずとも、組織が大きく、強くなったことにより彼の言葉は「正しく」なったのだ。


(つまり……強いこと、大きいことは『正しい』ということ!!)


「うぐっ!」


「きゃあっ!」


刀で男の胸を斬り、女の腕を斬った。


人は一度斬られれば戦意が喪失する。

これまで極楽に送った人間たちは全員、そうだった。


忍びである自分を恐れ、逃げ惑った。


(──だけど、何だこいつらは!?)


言っていることや、やっていることは無茶苦茶。


だが、目が死なない。


恐怖に怯むこともなく、組織や周囲に流されることもなく、「自分は正しい」と信じきっている強い目。


それは、輪生が最も見たくないものだと言っても過言ではなかった。







☽ あとがき ☾


自分は何も変わっていない。

それなのに組織が大きくなれば、周囲が自分を見る目が変わった。


何が「正しい」のかをまだ判断できない年齢だった彼にとって、その経験はとても大きな、しかし歪んだ成功体験でした。


だけど彼は今夜、真の「正しさ」を知ることになります。


正しさとは、周囲にあるものではない。


──自分自身を強く信じる心のことだと。

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