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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
許すまじ偽怪盗

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燃えてしまった

日曜日の夜。


「…………」


昨日、後輩の男子に告白された彗は朝から晩まで窓の外をぼんやり眺めていた。


(今日は朝からずっとこの調子だったな)


妹がこんな調子になるのは10年前に施設に入ったとき以来。


宵はそれを思い出して少し胸が痛くなったが、今回は普通の女子高生としての恋愛の末にこうなったわけなのでいいだろうと考えていた。


問題はただ一つ。

今朝の彗が作ってくれた朝食は「卵焼き」とは言えず、「燃えてしまった卵」と呼ぶべき炭のようなものになっていた。

彼は完食したが、とても苦かった。


(しばらくは、朝も俺が作るか)


宵がそう考えたあたりで、彼が作っていた夕飯が完成した。

今夜は、彗が好きなカレーライスだ。


「できたぞー」


宵がそう言うと、彗は窓から離れて食卓につき「いただきます」と手を合わせた。


「…………」


彗は「いただきます」と言ったあとは何も話さず、無言でカレーを食べ始めた。


(……無言が苦しいな)


二人の夕食時は「Witch Phantom」としての作戦会議と決まっており、今までずっとそうしてきたが、今日はできそうにない。


(一応『偽怪盗』についても調べてみたんだがな……)


宵は、チラリと自分のパソコンを見た。

そこには今日彼が集めた情報がまとめられたファイルが開かれている。


偽怪盗は以前二日連続で現れたあとは、しばらくなりを潜めている。


以前現れた美術館、博物館はどちらもかなり近いエリアにあるものだった。


偽怪盗が近場を中心に荒らしていると考えるならば、次に狙われるのはその近くにある「グラン・ジェム・ミュージアム」という宝石展示館だと思われた。


二人が住むアパートから、車で1時間半ほどの場所だ。


(『どこ』に現れるかは検討がついた。問題は『いつ』現れるかだ……)


場所がわかっても、予告状を出さずに現れる偽怪盗をそこでずっと待っているわけにはいかない。


(あと気になるのは、春華の目的……)


この偽怪盗騒動は、春華が起こしたものだと宵は考えている。


しかしなぜ春華はわざわざこんなことをするのか、宵はここ最近考えていた。


(一つは、俺たちへの『挑発』……)


偽怪盗として活動して、本物の怪盗である自分たちを怒らせるため。


(でも、そんなことをして意味はあるか?)


無論、自分たちは怒っている。

特に彗はこれ以上ないほどに。


しかし、「怒らせるため」にここまでやるだろうか?


(さらに考えられるのは、一部で英雄視されている怪盗Witch Phantomの評判を落とすため……)


一部の界隈では怪盗Witch Phantomには熱烈なファンがついている。

それを気に入らない春華は偽怪盗に人を殺させて、評判を下げる。


(いや、そんなことをしても意味がない。奴の目的は俺たちが持つ神器を奪い返すこと。怪盗の評判なんかどうだっていいはずだ)


宵は思考を巡らせる。


あの偽怪盗の出現で何が変わったんだ?


自分は何か、大きな見落としをしていないか?


(……もしかして、俺がこうして『偽怪盗』に思考を奪われていることが、奴の狙いなのか?)


宵は嫌な予感がした。


自分がこうして偽怪盗について深く考え続ける。

その間に敵は何か、大きな計画を進めている。


──仮にそうだとすれば、自分たちはもう取り返しがつかないことになっているのでは?


宵はカレーライスを口に含みながら、彗の顔を見た。


「…………」


妹は朝から変わらず、呆けている。

その証拠にスプーンを逆に持っている。

とても食べにくそうだ。


「…………」


宵はテレビのリモコンを持ち、電源を入れた。


本来月詠家では食事中のテレビは禁止だが、彼は無言の食事に耐えられなくなった。


『臨時ニュースです。ただいま「怪盗Witch Phantom」がグラン・ジェム・ミュージアムに現れました。そして逃走を阻止しようとした市民に危害を加えている最中です──!」


テレビには、ヘリコプターにより上空から撮影された映像が映った。

映っているのは宵が次の現場だと予想していたグラン・ジェム・ミュージアムの屋上。


「「!?」」


その瞬間宵は驚愕し、彗も目を見開いてテレビを凝視した。


何故ならそこにはWitch Phantomの格好をした偽怪盗が、トレンチコートを着た男と、怪盗のコスプレをしている女子に襲いかかっている姿が見えたからだ。


テレビに映った男女は、二人にとって関係がとても深い人物。


──明智金太と、東条玲香に他ならなかった。



──────────────────



──時は遡り、日曜日の朝。


東条玲香は新都大学の近くにある喫茶店、「アポロ」の扉の前に来ていた。


(ここに、あの男が……)


玲香は静かに息を呑んだ。


彼はずっと自分の「敵」であった。


私がWitch Phantom様の勇姿、美しさ、活動……全てについてSNSに投稿すると必ずコメント欄に現れては、「怪盗は犯罪者だから応援するな」などと批判的なコメントをしてくる男。


Witch Phantom様が使う不思議な力を「解析した、見破った」と得意げに批判する男。


その名は明智江戸川金田一。


私の最大の敵と言えるこの男から、最近ダイレクトメッセージが来た。


『偽怪盗について理解しているのは、どうやら私と君だけのようだ。どうだ、手を組まないか』


確かに最近現れたあの偽物を「偽物だ」と完全に理解しているのは、この私とあの男だけ。


他の有象無象の元ファンたちは、あれが偽物だと分からずに「裏切られた」だの「本性が見えた」だの言っている。


『私たちで、あの偽物を止めるんだ』


彼のメッセージは私の心を打った。


私がいくらネットに溢れるWitch Phantom様を批判する投稿にコメントを付けても、それは大波に一人で立ち向かうようなもの。

止められないし、結局情報は好き勝手に通り過ぎていく。


それでもなんとかしたいと考えていた私は彼の呼び出しに応じ、ここに来た。


(もしも、ネットで知り合った人と勝手に会ったなんてお父さんに知られたら大目玉だろうな……)


玲香は父に申し訳なく思いながらも、喫茶店の扉を開けた。


「いらっしゃいませー」


玲香が扉を開けると女性の店員がにこやかに出迎えてくれて、彼女が「あの、明智さんは」と聞くと店員は「ああ」と一番奥のボックス席を指差した。


「げっ」


ボックス席に近づいた玲香は、思わず声をあげてしまった。


席に座ってコーヒーを飲むその男は、トレンチコートに身を包み、頭に鹿撃帽子を被っており、フィクションの中にしかいないような「探偵」ファッションの痛い男だったからだ。


「げっ」


玲香を見た明智江戸川金田一は、思わず声をあげた。


彼のそばにやってきたその女性は、どう見ても女子高生こども


殺人も厭わないような偽怪盗を止めるための作戦の相棒として、彼女は若すぎる。


玲香が座る前に、明智は言い放った。


「──帰りたまえ。女子供が行くような場所じゃない」






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