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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
最後の神器

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私は月詠の魔女

ここは塔の最上階。


自分の声を外に向けて広範囲に届かせるための拡声器が設置され、西洋の騎士のような鎧が並べられている。


広い床には真っ白な玉砂利が敷き詰められ、見上げれば20メートルほど先に天井がある。


そんな広く大きな部屋の奥で独り、月詠春華は三日月ノ玉を手に魔法を使っていた。



『私は月詠の魔女……私は月詠の魔女……』



春華は10年前、「自分を『月詠の魔女』に選ばなかった月詠家など、滅びてしまえばいい」と考えて自分の家族を殺して神器を奪った。


しかしそれでも彼女の中から「月詠の魔女になりたかった」という思いは10年間消えることはなく、彼女はその思いを昇華するために毎晩自分自身への洗脳を試みていた。



『私は月詠の魔女……私は月詠の魔女……』



しかし彼女が自分自身にかけているその洗脳は、成功しない。


何故なら三日月ノ玉で洗脳できるのは、「確定していないこと」のみだからだ。


例えば「あなたは今から水を飲む」と洗脳することは出来る。それはまだ「確定していない」未来のことだからだ。


しかし「カラスは白い」と洗脳することは出来ない。何故ならそれは本人の中で「カラスは黒い」と確定しているから。


だがもし本人の中でカラスの色に関する記憶があやふやであれば、洗脳は成功する。


『私は、月詠の魔女……』


三日月ノ玉は黒緑色に光り、彼女を洗脳しようととするが失敗した。


春華はこの神器を手に入れてから何百、何千と試みた自分自身への洗脳は一度もうまくいかなかった。


これはつまり、春華の中で「自分は月詠の魔女ではない」と確定しているということ。


この失敗は彼女に対する、自分自身からの最大限の皮肉と嘲りのようなもの。


だがそれでも春華は毎日、こうして「月詠の魔女」になることを夢見て自分自身への洗脳を試み続けた。


彼女は幼い頃からの夢であった「月詠の魔女」を、嘘でも良いから叶えようとしているが、結果は最後まで変わらなかった。



「私は……月詠の、魔女……」



しかし何度やっても三日月ノ玉から放たれるのは「黒緑色」の魔力光。「月光色」ではない。


三日月ノ玉は春華に洗脳魔法を飛ばすが、結果はいつも通り。


神器を奪ってから今日でちょうど10年。

ずっと繰り返してきた哀しい挑戦は、今日もうまくいかなかった。


失敗するたびに、秋奈の顔が頭に浮かぶ。

自分から『月詠の魔女』の座を奪った、憎い妹。



そして最近は、秋奈に加え──



バタンッ!!



──あの小娘の顔も浮かぶようになった。



─────────────────



勢いよく開いた扉。


扉を開けた少女は相変わらずふざけた憎たらしい格好。月光色のカクテルドレス、夜空色のマント、派手なマスカレードマスク。


そのドレスの色でさえも、自分への嘲りのように感じられて、春華は見るたびに憎悪が湧いた。


そしてマスク越しに見えるその目はこちらを睨みつけており、その目には強い覚悟が籠もっているが、少し赤く腫れてもいる。


直前に涙でも流したのだろうか。


この部屋の床には細かな砂利が敷き詰められており、彗はジャリジャリと砂利の上を音を立て歩きながら、ゆっくりと春華に近づいた。



「三日月ノ玉、返してもらうよ。春華おばさん」



月詠彗は──怪盗Witch Phantomは、そう言って右手に持つ新月刀の切先きっさきを、並んでいる鎧たちの向こうに立っている春華に突きつけた。



「……輪生は」



「倒した」



「……そう。最後まで情けない子」



彗は春華の言葉を聞いて、新月刀を持つ力が強くなった。

春華が輪生の話をすると、今にも襲いかかりたくなるような怒りが心に湧く。



「輪生は最後まで戦おうとした。私とも──あんたともね。情けなくなんかない」



「でもあなたに負けたんでしょ?それならただの役立たずよ。せっかくここまで育ててやったのに」



吐き気がするような言葉。

彗はこの女との会話の価値はないと判断し、言った。



「遺言はそれだけ?おばさん」



彗は首を少し横に傾けておどけたような態度をとったが、マスカレードマスクの奥の目には怒りと闘争心が籠っている。



「それはこっちの台詞セリフ。あなたはここで私に殺される、それでおしまい。あなたたちの物語も──『月詠の魔女』の歴史もね」



彗は「月詠の魔女」という言葉を聞き、先ほど扉から入る直前に春華の声が聞こえたのを思い出した。



「……ところでさっき、何してたの?一人で『私は月詠の魔女』って言ってた?」



彗は春華が月詠の魔女になりたかったということを知らない。

だから先ほどの春華の行動は、彗にとっては意味が分からないものであった。



「……言ってないわ。あなたの聞き間違いでしょう」



春華の額に一粒の汗が浮かんだ。



「いや言ってたよ。何回も。わたし聞こえてたもん。ねえ、春華おばさん──」



その言葉は、彗から──秋奈の娘からは絶対に聞きたくない言葉。



「──あなたは月詠の魔女じゃないよ?」



姪の言葉はただの事実で、それ以上でも以下でもない。


だが、春華の額に青筋が浮いた。



「そんなことはわかっているッ……!」



「じゃあなんで何回も言ってたの?意味ないじゃん」



姪の表情は、単純な疑問を解消したくて親に質問する小学生のような顔。


姪のその阿呆面あほづらは、かつて自分に宿題を教えてほしいと寄ってきていた幼い妹に瓜二つ。



何故、こんな馬鹿どもが選ばれて私が──



春華は自分が三日月ノ玉を握る力が強くなるのを感じた。


彗は春華の気持ちも知らずに続ける。



「『月詠の魔女』はおばあちゃん、お母さん、そして──」



嫌だ。聞きたくない。

春華はそう願ったが、姪はこちらを静かに睨みつけながら言葉を続ける。



「──私だよ?」



そう言った彗の顔には、「私は月詠の魔女」という確かな自覚と自信が表れている。


その自覚と自信は、初めて神器を触った10歳のあの日から今日まで、私が狂おしいほどに求め続けたもの──



「ああああああああッッッッッ!!!!」



彗の自信に満ちた言葉を聞いた瞬間、黒い魔力が体から溢れるのを感じた。

それを力づくで神器に込め、彼女は叫んだ。



『死ねッッッッッ!!!!月詠彗!!!!』



三日月ノ玉は春華の黒い魔力に応えた。

黒い弾丸のような言霊を、彼女の指先に装填させる。


春華は指を彗に向け、その言霊を撃ち放つ。


当たれば問答無用で相手を殺す死の弾丸が、凄まじい速さで彗に迫る。


しかし彗は魔法も使わずにそれを見切り、最小限の動きで躱した。



「ッ………!!!」



彗は秋奈ははおやの月光色の魔力だけでなく、鷹宮昴ちちおやの運動能力も遺伝している。


何もかもを持って生まれてきた、運だけの小娘。

ますます憎たらしいこと、この上ない。



『鎧たち!!あの娘を、殺せ!!!』



春華がそう言って部屋の中にある10体の鎧たちに言霊を撃ち込むと、彼らはガチャン、ガチャンと音を立てながら、命を与えられたように立ち上がった。


そして彼らは宙に少し浮きながら滑るように高速で移動し、彗を取り囲むように位置取った。


そして全員が剣を振り上げる。

主人の命令通り、彗を殺すために。



「終わりだッッ!!月詠彗!!!」



周囲を囲んでいる10体の鎧たちが同時に振り下ろす剣を躱すことは出来ない。

唯一の逃げ道である上に跳び上がって逃げれば、その瞬間に私に撃ち抜かれる。


月詠の魔女も、怪盗Witch Phantomも、これで終わり。


最後は情けなく死ぬだけだ。



春華がそう思っていると、鎧たちに囲まれた彗が左手に持つ満月鏡が輝き始めた。


その光は、春華がもう二度と見たくないと思っていた月光色。


自分は何度もその光を消そうとした。


千夜を殺した。秋奈も殺した。そして先日、彗にも死の弾丸を撃ち込んだ。



それなのに、何故──



(──あの光は、私の前に何度でも現れるッッ!!!)



だが春華はその光に苛立ちながらも──



(こんな状況で満月鏡?ふん、今更透明にでもなるつもり?)



──彗の判断を、せせら笑った。



あれは最も役立たずで、価値のない神器。

だから盗んだあとも、冬子に渡してやったのだ。


姿を変えるだけの神器に価値なんかない。


他の二つの神器には──特に三日月ノ玉には無限の使い道があるが、満月鏡はそれらに比べてあまりにも弱すぎる。


彗は満月鏡で鎧たちに何か魔法をかけているが、それも意味がない行動に見える。


春華は満月鏡に対して、「月詠家の祖先は何故こんな役立たずの神器を作ったのか?」と、昔から疑問だった。


洗脳という無限の使い道、そして闇の魔法を使えば人間以外も自由に操れる、この「三日月ノ玉」こそが最強にして無敵の神器だと考えていた。




しかし、春華は知らない──




ガチャン、ガチャン、ガチャン!!



「なっ……!!私の、鎧たちが……!!」



「……解除成功。もうその神器は無敵じゃないよ。春華おばさん」




──彼女の祖先……月詠菖蒲は、三日月ノ玉を倒すためだけに満月鏡を作ったということを。



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