表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
最後の神器

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/140

春華の戦術

二人の魔女が睨み合う。


彗はその両手に満月鏡と新月刀を。

春華は三日月ノ玉を。


それぞれの神器を手に向かい合う二人の姿は──奇しくも1000年前に月詠鈴が、自分と菖蒲ははを裏切った魔女、月詠霞と相対した構図と同じであった。


「……ふん」


満月鏡が三日月ノ玉の魔法を解除するという、春華にとっては非常事態とも言えることが起こったが、彼女は冷静だった。


特に焦ることもなく、鎧たちにもう一度「あの女を殺せ」と命令を込めた言霊を撃ち込み、彗に向けて「死ね」と撃ち込んだ。


左手には鎧の起動用の言霊を、右手には彗を殺すための言霊を、それぞれの五指に装填した。


春華が冷静だった理由は一つ。

まだ自分の勝算の方が遥かに大きいからだ。



「せやあああああああああっっっっ!!!」



彗は鎧たちをかき分け、なんとか彼らの隙間を縫うように抜け、新月刀を振り上げて春華に襲いかかる。



『死ね』



春華は右手を彗に向け、五発の死の言霊を撃ち込んだ。



「ぐっ……!!」



彗は四発の死の言霊を躱すことはできたが、胸に向けて飛んでくる一発は躱し切れないと判断した。


慌てて満月鏡に魔力を込め、盾とした満月鏡で春華の言霊を受け止めた。


ギィン!とまるで金属音のような音が響き、死の言霊は彗の斜め後ろへと軌道が逸れて飛んでいった。


そして彗が防御をしている隙に、再び鎧たちが彗を囲むように集まってくる。



「うぐっ……どりゃあああああああ!!!」



彗は新月刀に魔力を込め、次は鎧たちを力づくで振り解き、春華に向かって走る。


新月刀の刃が春華に迫る。


しかし──



『私を守りなさい』



──春華がそう言って床に言霊を撃ち込むと、床が音を立ててせり上がり、彗と春華を隔つ壁となった。


彗の新月刀はその壁に受け止められ、壁に刀を弾かれた彗はその壁を迂回するために大きく横に跳ねるように飛んだ。


しかし彗を追って来ていた鎧が彼女を捕らえ、背後からはがいじめにした。



「ぐっ……!!」



鎧に捕まってしまった彗は見た。

左右からこちらに剣を振り下ろそうとしている別の2体の鎧、そして正面には自分を死の弾丸で撃ち抜こうとしている春華。



「──ヤバッ……!!!」



『彗ッ!!満月鏡だ!!!』



彗が慌てて満月鏡の魔法を周囲の鎧向けて「解除」を発動すると、鎧たちは力が抜けたようにその場にガチャガチャと崩れ落ちた。


そして彗は自由になった左腕を使い、魔力を込めたままの満月鏡で春華の死の弾丸をなんとか受け止めた。


満月鏡に言霊が当たると、ギィン!と先ほどと同様に音を立てた。



「っ……!!」



彗はうなじに滝のような冷や汗が流れたのを感じた。


少しでも対応が遅れていれば。そして少しでも手元が狂っていれば、死んでいた。


人を問答無用で殺す死の弾丸を自在に撃ち込む、春華の恐ろしい魔法。


少しでも油断したときが、自分が死ぬときなのだと彗は思い知らされた。


春華はそのまま死の弾丸を連射し、彗は必死にそれを避けながら彼女から距離を取った。


しかし距離を取るということは、春華に時間を与えるということ。



そして時間を与えてしまえば──



『起きなさい。鎧たち』



──再び、不死身の鎧が復活する。



命懸けで攻め込んだにも関わらず、春華に刃が届くことはなく、簡単に状況は元に戻された。



「ッ……!!」



彗は背中が冷たくなるのを感じた。



─────────────────



『くっ……!!』



春華と彗の魔法の応酬……しかし、春華に大きく有利な状態で戦いは続く。


そんな中で宵は、妹を救い春華を倒すための策を必死に練っていた。



(あの鎧たちが……厄介すぎる……!)



春華の戦術は、練り上げられている。


まず彗が姿を消しても、足元の砂利で位置を把握されてしまう。

これは明らかにこちらの満月鏡を考えて対策されたもの。


そしてダメージを受けない鎧たちを操って前衛として使い、自分は後方から射撃。


守りを主とした、手堅く確実な戦略。


そして鎧たちは敵を倒す攻撃の手段でもあり、自分の身を守る防御の手段でもある。


しかし鎧を突破したとしても春華は床を使ってバリアを作り、さらに守りを固められてしまう。


こちらの攻撃手段が新月刀しかない以上、あの鎧とバリアを突破して、かつこちらに死の言霊を撃ち込んでくる春華に刃を届かせなければいけない。



(あるのか……!?そんな、方法が……!!)



そして、もう一つ苦しい要素がある。



(早くしないと、彗の魔力が……!!)



そう。彗はここまで多くの魔法を使いながら来た。


春華も礼拝堂の戦いで少しは魔力を使ったかもしれないが、明らかに彗よりも消耗が少ない。


このまま戦い続ければ、先に切れるのは彗の魔力だ。



(ダメだ、俺が弱気になってどうする!)



宵は必死に頭を回した。


ここで負ければ彗は殺される。

自分ものちに捕まり殺される。


そうなればこの国は春華のもの。


この戦いは絶対に、負けるわけにはいかないのだ。



(考えろ!月詠宵!ここで作戦を出せなくて、何が頭脳だ!)



宵は死線の中で戦ってくれている妹を見ながら、必死に策を練った。


──────────────────



「はあーあ……それで?まだ続けるのかしら?」



「ハアッ……ハアッ……ハアッ……!!」



春華は部屋の奥から彗を嘲るように笑い、彗は肩を大きく揺らしながら息をしていた。


鎧を満月鏡の魔法で「解除」すれば、すぐに起動される。


だから先に間合いを詰め、春華の意識をこちらに向ける。


しかし鎧や壁に邪魔され、慌てて満月鏡で鎧を解除し、春華の死の弾丸から身を守りながら逃げ戻る。


これを三度か四度繰り返し、彗は少ない魔力をさらに消耗させてしまった。



「もうわかったでしょ?彗。あなたは私には勝てない。満月鏡のその力には驚いたけど、解除されるならまた起動するだけ」



春華は勝ち誇ったように笑いながら、言った。



「もしあなたが降参するなら、許してあげてもいいわ。命だけは助けてあげる」



「は……?」



彗は春華の思わぬ提案に少し驚き、聞き返した。



「あなたの『体』には価値がある。あなたが産んだ娘には魔力が遺伝するからね。私の仲間になって、魔女をたくさん産みなさい」



春華は邪悪な笑みを浮かべ、続けた。



「そうすれば私はこの先もずっとこの国を──いや、いずれは世界を支配できる!この三種の神器と、魔女の仲間が大勢いれば私は無敵よ!」



春華は「あ、でも……」と笑いながら彗に言った。



「あなたの人格には用は無いから死ぬまで洗脳はさせてもらうけどね。あなたには魔女生産機になってもらうわ。あと、宵は邪魔だからもちろん始末するけどね。どう?命は助かるんだから悪い話じゃ──」



春華がふと彗の方を見ると、彗は怒り狂ったような表情で春華の目の前に迫っていた。


しかしそれを鎧たちが阻止し、再び彗を捕らえて剣を振り上げていた。



「ふざッッ……けるなあッッッッッ!!!!!」



彗は新月刀に無理やり魔力を込め、鎧たちを周囲に投げ飛ばした。


そして満月鏡に黒い魔力を込めて「暗雲」を作り出し、春華の方へ飛ばした。


暗雲を使って視界を奪った状態で、彗は春華との間合いを詰めて斬りかかった。



しかし──



ギィン!!!



──新月刀は、春華が自分を覆うドームのように変形させた床に阻まれてしまった。



「──くそおッッッ!!!」



彗が悔しそうに叫ぶと、先ほど吹き飛ばした鎧たちが彗を捕まえようと群がってきた。



(こんなもの、また満月鏡で……!)



彗が怒りのままに鎧に向けて「解除」の魔法を使おうとしたそのとき──



『ダメだッ!横に避けろッ!!彗!!!』



宵の声を聞いた彗は反射的に宵の言葉に従い、満月鏡を使わずに横に避けた。


すると、彗がいた位置を春華の死の弾丸が通過した。



「えっ!?」



彗は驚き、春華の方を見た。

あいつは床を変形させて、自分をドームみたいに覆っていた。

だからこちらが見えないし、言霊なんか撃てなかったはずだ。


彗がそう思って春華が身を隠したドームをよく見ると、そのドームには細かな穴がいくつも空いている。


その穴は外を覗き見るには十分で、また指を通すこともできる大きさ。


頭に血が昇っていた自分はそれを見逃したが、それを見ていた宵は指示を出せたのだ。



「あーあ、惜しかったぁ。挑発すれば馬鹿みたいにまた突っ込んでくると思ったけど……やっぱり、宵が厄介みたいね」



春華はそう言いながらドームを崩し、姿を現した。



「ふん、全部嘘よ。今更あんたを許すわけないでしょ。あんたはここで死ぬのよ。私に負けて、みっともなくね」



春華は「まあ」と彗を嘲るように笑い、言った。



「あんたが土下座して謝るならさっきの案を考えてあげてもいいけどね」



春華は邪悪に微笑み、再び指に死の弾丸を装填した。



「クソッ……!!もう一回……!!!」



『彗!落ち着け!無駄に魔力を使うだけだ!』



「だって……!」


彗は悔しかった。

手も足も出ない状況。

余裕の表情でこちらを挑発する春華。


彗は怒りと苛立ちで、完全に頭に血が昇っていた。



『大丈夫だから落ち着け!そのまま考えなしに戦っても危険なだけだ!』



「ッ───」



彗は兄の言葉で、少しだけ冷静さを取り戻した。


何故なら宵の言葉から、彼に何か「考え」があることを察したから。


宵の作戦は、いつも自分を助けてくれる。

彗は静かに兄の言葉に耳を傾けた。


宵は妹が少し落ち着いたのを確認してから、『いいか、彗。よく聞けよ』と話し始めた。



『俺に──ひとつ、策がある』




☽ あとがき ☾


春華が彗と宵を──怪盗Witch Phantomを迎え討つ戦略は、自分の魔法を最大限活かし、かつ彼女の慎重な性格をよく表した守備重視のものでした。


そして──、彼女は独りで戦うことを選びました。


10年前の月詠家から神器を強奪する際は冬子、夏波と3人で実行した春華ですが、その頃よりも遥かに多くの仲間がいる今でも、彼女は独りで戦うことを前提に作戦を立てました。


冬子は簡単に満月鏡を盗まれた。

夏波は春華に無断で戦って負け、新月刀を奪われた。


それらの経験は、春華に最後の戦いで独りで戦う道を選ばせたのです。


一方──彗は宵の思考力を信用し、彼の作戦に身を委ねて命を懸けて向かってきます。

そして宵もまた彗の魔力と運動能力を信頼し、作戦を考え授けます。


自分の力のみを信じる春華と、互いの力を信頼して戦う兄妹。


勝つのはいったい、どちらでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ