解りあえない人間と××
外に繰り出し、ふらふらと寮の近くをぶらついてみる。日差しは適度な具合にぽかぽかと暖かく、人影はほとんどない。とても平和な休日の午前である。
その平和な休日には全くそぐわない赤い頭を見つけてしまうまでは。
あんな目にも自然にも悪そうな痛々しい色の髪の人間を、俺は一人しか知らない。
「あれって、どう考えても淡井だよな……」
建物の陰に隠れながら向こう側を慎重に伺う淡井。忍者ごっこでもしているのだろうか。だとしたらキャラ設定がブレすぎだ。
閑散とした道には、俺と淡井の二人だけ。前に進むには淡井の横を通り抜けなければならない。その際、他人のふりをするにはあまりにも俺と奴の距離は接近してしまっているだろう。
特に用事もない散歩だ。わざわざ災難を横切ることもない。そうと決めると、俺は素早く回れ右で引き返そうとしたのだが、
「誰だ!」
その背中に鋭い声が突き刺さって、俺の行く手を阻んだ。ただならぬ剣幕に思わず足を止めてから、そのまま振り切って走るべきだったと後悔したが、もう遅い。
ぎ、ぎ、ぎ、と壊れかけのぜんまい人形のようなぎこちなさで振り返ると、眼帯のない方の、カラコンを入れた金色の目とばっちり視線が合う。
そこで違和感に襲われた。淡井類は、こんな硬い表情をする人間だったか。
俺の知っている淡井類は、常にヘラヘラしながら意味不明なキチガイ妄想を吐き散らしている、ふざけた奴だ。
「…………なあーんだ、まこっちゃんかぁ」
一瞬の緊張感も束の間、すぐに淡井はいつもの姿に戻った。
ふにゃん、と相好を崩してこちらに手を振ってくる淡井が、今何かを隠したのは明白である。
「おい、俺のこと誰と勘違いした?」
「ええ〜、誰だっけ?」
軽く尋ねただけだったのだが、大袈裟に誤魔化され、殊更に怪しさが増した。
「余計に怪しいな……お前、何か企んでるんじゃないのか」
上から下まで検分しても、見かけは何も変わらないように思える。が、今の態度はどう考えても変だった。能天気に見えても、こいつとて裏切り者の一人だ。佐瀬に肩入れはしていないと語ったが、渋谷を見捨てたことには変わりない。それ相応の残酷さは持ち合わせているはずだ。
厳しい追及と視線を一身に浴びた淡井は、もともと垂れ気味の眉を更に下げて困り顔になった。
「う、疑わないでよぉ。ウチのこと信じれないのはウチが悪いんだし、仕方ないけどさぁ」
「へえ、自覚あんのかよ」
「そりゃあ、ねえ。生徒会の現状見たらちょっとやばいなぁって思うし。いなくなって初めて、渋谷っちのありがたみが分かったよ。……ってゆーのもあるけど」
「なんだよ?」
「…………怒られちゃったし。まこっちゃんのとこの隊員のかわい子ちゃん、キレるとやばすぎぃ」
もごもごと言い訳を並べていたが、どうせ下らない戯言だろう。それらを聞き流し、溜息をつく。せっかく気持ちのいい休日だったのに、気分は台無しだ。
「そんで?何してたのか素直に吐けよ」
「だから、もうまこっちゃん達を怒らせることはしないってっ。それに今はぶっちゃけ、人のことに構ってる暇はないんだよぉ」
訳あり顔で弁解する淡井は、かなり焦っているようで、何かあったのかと尋ねてみると、人間とヴァンパイアのハーフの自分は異端の存在で、エクソシストに追われているから警戒しているのだというどうでも良い回答が返ってきて、がっくりとした。心配して損だ。また淡井の病気が発生していただけではないか。
「ちょ、本当なんだって!エクソシストがすぐそこまで迫ってるんだよぉ!」
「はいはい、わかったわかった。そん時は俺がお祓いでもなんでもしてやるから、もう俺行くな」
「待って〜!祓われちゃうのはウチの方だってばぁ〜!」
淡井の悲痛な叫び声を背中に受けながら、俺は来た道を戻り始めた。散歩はここらで切り上げだ。全く、無駄な時間を過ごしてしまった。
番外編の「ヴァンピール★ルイちゃんが往く!」に続きます(嘘)




