クラスメイトから見た××
チカ隊員の教室風景
チカのクラスメイトくん視点
「今日は学園祭のクラス出し物について話し合いたいと思います」
学園祭が近くなれば、クラスの雰囲気も当然、浮き足立ったものになる。単純に楽しみにしているというのもあるが、授業もかなり潰れるというのも理由の一つ。
自分とてその例に漏れない。しがないいちクラスメイトとして、与えられた役目は全うするが、特に出し物に情熱を注いでいるわけではない。俺が喜んでいる理由は後者である。
だが、そんな空気感なんて御構い無しに、静けさを漂わせる者もいた。
ちらりと、隣の席を見やる。関春親は表情筋を置き忘れて口角が上がらないのかと疑うほど、にこりともしなかった。
頬杖をつきながら、彼をじっと観察してみる。黒目がちな大きな目。白い肌。艶やかなストレートの黒髪。パーツは全て変わらないままなのに、俺が初めて会ったときの関春親とは、全くの別人のようだった。表情ひとつでこんなにも変わるものなのかと驚かされる。
渋谷千里元生徒会長の親衛隊隊長は、リコールの一件から乱心だというのは、校内でもっぱらの噂だ。だが俺を含む一年A組の連中は、こう思っている。
来宮誠が変わった?ああ、確かにそうだな。
でも変わったのはあいつだけじゃない。関春親だって相当変わってしまった――。
「なあ、関」
何となく声を掛けてみると、さっきまで遠くを見つめていた関春親の視線が、俺に焦点を当てた。数度の瞬きの後、やはり無表情のまま、やっと反応が返ってきた。
「どうしたの、小田切くん」
「やっぱ愛想ねえな。なあ、お前なんでそんななの?」
つつがなく学園祭の話し合いが行われる教室の中で、まるで俺と関だけが別世界になったようだった。関の纏う雰囲気は、他のそれとは全く違っていたのだ。
「そんなって、なに。そもそもどうして、僕が君に愛想を振りまく必要があるの?」
あまりな物言いに思わず苦笑が溢れた。随分と捻くれてしまったものだ。
俺の対応に納得がいかなかったらしい。関は、大きくて黒々とした目を細めて、静かに俺を責めた。
「君と僕って、友達だっけ。違うよね。ただのクラスメイトだよ。クラスメイトに愛想を振りまかなきゃいけないって言うなら、僕はあの子にも笑わなきゃいけない」
ちらりと向けられた先には、ついこの間転入してきたばかりで、急に副会長職までのし上がった声が馬鹿でかいクラスメイト――大原白兎。
関春親は大原白兎が嫌いだ。そりゃあもう、態度を一目見れば分かるくらいの嫌悪ぶりである。確かに大原白兎は万人に好かれるタイプではないだろう。見目は良くても、自己中心的だし、面倒くさいし、そして五月蝿い。今も実行委員に向かって「コスプレ喫茶!コスプレ喫茶がやりたいぞ!」と耳鳴りがするほどの声量で主張している。
だが、例えば俺は大原のことがそれほど嫌いではない。五月蝿くてもやっぱり顔は飛び抜けて可愛いし、我儘なところも、まあ弟のように思えて多少なら許せる。あくまで多少なら、だが。
「なんで関って、大原のこと好きじゃないんだ?」
「逆に小田切くんは好きなの?」
「ばっ、そういう言い方するなよ。勘違いされたら何かと面倒だろ」
一応、大原白兎は学園アイドル生徒会のメンバーたちから好意を寄せられている身である。害虫扱いされて目をつけられたら敵わない。
「まあ、嫌いじゃねえよ」
「へえ。僕は嫌いだけど」
「何でだよ。普通に可愛いとこあるじゃん」
「可愛くない」
ピシャリと一刀両断した関は、そこでむっとした表情を見せた。俺との会話の中で初めて見せた表情らしい表情に、新鮮味を感じる。
「そんなはっきりと……って、あー、そういういことか。大丈夫、関も可愛いぞ。まあ、もっとにこやかになった方がいいと思うけどな」
「そういう話じゃない」
寄越された冷視に、なんだか切なくなってきてしまった。ああ、昔の関が懐かしい。「隣の席だね!僕、関っていうからさ、隣の関って覚えてね。えへへ」と微笑みかけてくれた隣の関くんは何処に行ってしまったんだ。
関は深い溜息をつき、もう一度「可愛くないよ」と小さく零した。
「全然、可愛くない。来宮隊長がね、言ったんだよ。容姿の美醜は可愛さには関係ないんだって」
「はあ?」
なんだその偽善者ぶった考え方は。
結局この学園の人気なんて美醜が全てだろうが、と言うと、関の視線の冷ややかさがより増した。
「可愛い人っていうのは、努力する人のことなんだって。可愛くなろう、可愛くなりたいと思って、毎日小さな積み重ねを続けて、笑顔を絶やさずにいること。それが可愛い人の条件なんだって」
全然あてはまらないでしょう、あの子は。関の目がそう語っていた。大原白兎を見てみる。実行委員に向かってよく分からない独自理論を押し付けている。輝くような金糸の髪は、前の授業の居眠りのせいで付いた寝癖が取れないままだ。なるほど、確かにそういう点で見るのなら可愛くないのかもしれない。
だがそれはそれ、これはこれだ。大原が可愛いか可愛くないかは、関が大原を嫌う理由とは関係ないだろう。
でも、関はそれっきり前を向いてしまって俺の質問を受け付ける気はないようだ。だから俺はちょっかいを掛けてみることにした。
「なあなあ、関」
「……………………なに」
クラスメイトたちが大原に注目している隙に、彼らの目を盗んだ俺は、関の白い頬を指先で突いてみた。単なる戯れで、深い意味はない。
関はというと、今のでかなり機嫌を損ねてしまったようで、俺の手をすぐさま叩き落として苦々しげに睨みつけた。
「触らないでよ」
「なあ、関ってば」
「だから何?」
「お前、可愛くなりたいんじゃなかったの?」
今度は自分の頬に両人差し指を当てて、にっこりポーズ。ほら、いつも笑ってないと可愛くなれないぞ。
にい、と笑いかけてやると、関は心底呆れたようだった。
「小田切くんって、ちょっとうざい」
「は?それならこっちも言わせてもらうけどな、関はちょっと捻くれてるぞ」
「ひねくれ者で結構だよ。だってもう、渋谷千里親衛隊はほぼ瓦解して、可愛くなる必要はなくなったし。今は可愛くなるより、強くなりたい」
今度こそ、関は前を向いて話し合いに耳を傾け始めた。
一部の生徒も悪ノリで賛成し、そして大原の押しの強さに実行委員は根負けした。コスプレ喫茶は賛成多数が可決されるのを、やはり関春親は笑いもしないで眺めていた。
笑わない関は可愛くないかもしれない。
だが、真っ直ぐと前を見据えるその姿は綺麗ではあると、思った。




