××らない教室風景
来宮隊長のクラス事情
身をもってと実感した。
「ではこれから、我が2年B組の出し物を決めたいと思いまーす」
他人の参加を心配するよりも、俺はまず自分の学園祭について考えるべきなのかもしれない、と。
教卓の前に立って司会を進行するのは、うちのクラスの実行委員。銀縁眼鏡の向こうにある両目が爛々と輝いていることから分かるように、うちの実行委員のやる気は凄まじい。
「分かってると思いますけど、2年B組が参加する限り、優勝以外ありえませんから。手ェ抜こうとする奴がいたら俺直々にしばき倒しますから。よろしくお願いしまーす」
同じく気合十分な生徒たちはイエーイ!と声を上げながら実行委員の言葉に拍手する。逆に一部には顔を引きつらせる者もいた。サボろうとしていた勢だろう。
何故そんなにクラスメイトの観察ができるのかというと、俺は現在、生徒たちの様子が一望できる窓側一番後ろという特等席に座っているからである。
唯一、俺から最も遠い席に座っている佐瀬紫織の表情は読み取れない。何の感情も抱かずに、黙って実行委員の話を聞いているように見える。
「じゃあそういうことで、早速話し合いを始めます。まず、やりたいことがある人、はい挙手〜」
教室内の数人が、パラパラと手を挙げ始めた。
「はいっ、女装喫茶がいいと思います」
「ええー?それを言うならメイドカフェだろ!」
「僕はコスプレ喫茶がいいと思います」
「喝ッ!」
「!?」
唐突に奇声を上げた実行委員に、クラスメイトたちはぎょっとして静まり返った。
皆の注目を浴びた実行委員は、首を横に振りながら溜息をつく。
「なってない、なってない。全くなってないね。いいか、そんな安直なアイディアで優勝が取れると思うなよ。そんなの誰にでも思いつく。喫茶、お化け屋敷、縁日。この三つは何があっても絶対禁止だ!他と被る王道な出し物じゃ、人気は取れても優勝は取ないからな!」
なるほど、とりあえず実行委員の本気度はひしひしと伝わってきた。
熱弁を振るった彼は、こほんと咳払いを一つしてから、にっこりと微笑んだ。
「――さて。他に案がある人はいますかー?」
教室内の数人が、バタバタと手を下げ始めた。もはや誰もが発言する勇気を失くしてしまったようだ。
謎の緊張が漂う教室で、実行委員は眼鏡をかけ直しながら、頷いた。
「ふむ、なるほどね。――それじゃあ指名制で案を聞いていこうかな」
今度は皆一様に出来るだけ小さくなるように身体を縮こませた。本当に王道なアイディアしか持っていなかったらしい。当てられた奴は相当可哀想だ。
「はい、来宮」
俺かよ。
クラスメイトたちは反応に困ったといったふうな顔で、ちらちらと俺を伺い始めた。俺には近寄り難いが、俺がどんな発言をするかは気になるらしい。
「ったく、そんなこと言われてもな……」
お鉢が回ってくるとも思っておらず、特に何も考えていなかったので、頭を捻って精一杯思案する。
「えー……占いの館とか」
「うーん、地味だね」
地味で悪かったな。
「じゃあ、普通にヤキソバとかいいんじゃないのか。ここの生徒は派手なことしたがるから意外と珍しいだろうし、でも需要はある。ガンガン売れそうだろ」
「……確かにね」
実行委員は教卓の前に座っている生徒を勝手に書記にして、黒板にヤキソバと書かせた。
一つ案が出たことを皮切りに、他の生徒もちらほらと発言し出した。ヤキソバの隣には、わたあめ、サバゲー、脱出ゲームと、数々の意見が並んでいく。
「じゃ、次。佐瀬はなんかある?」
実行委員が気安い口調で、事の成り行きを見守っていた佐瀬紫織に意見を求める。
佐瀬はぐるりと教室を見回して、それから黒板に並ぶ文字に端から端まで目を通し、そして一言。
「演劇など、どうでしょうか」
その瞬間、佐瀬の親衛隊の奴らもそうじゃない奴らも、クラス全員の脳内に、同じ光景が想像されたことだろう。
白馬の王子の衣装を見に纏い微笑む佐瀬紫織の姿。かくいう俺も想像してしまったうちの一人だ。反吐が出るほど気に入らない野郎だと思ってはいるが、客観的な目で見れば、佐瀬紫織に王子の格好をさせたら優勝を掻っ攫えるということくらい、すぐに分かった。
「僕もっ、佐瀬会長の意見に賛成です!」
「絶対演劇!演劇!」
「もうこれ優勝以外ないだろ!」
クラス中がわっと湧いて、2年B組の出し物はあっさりと「演劇:シンデレラ公演」に決定した。さも当然のように王子役に抜擢されて平然としている姿は、憎たらしいことこの上ない。
だが、ここで一つ重要な問題点があるということに、まだこのクラスは気づいていなかった。――つまり、誰がシンデレラ役を演じるかという点である。




