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リコール撤回を要求します。  作者: 回めぐる
始動:××大作戦
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16/23

学園の王は××だ

 

「ぶえっくしゅっ!」


 俺の盛大かつ遠慮知らずなくしゃみに、周囲のクラスメイトがびくっと肩を震わせた。

 それにしても、誰かに噂でもされているのだろうか。その可能性は十二分にある。なんたって俺は、現在の学園の火種である渋谷千里“元”会長親衛隊の隊長、来宮誠なのだから。

 注視してくるクラスメイト達をじとっと見回して「見てんじゃねえよ」と目で威嚇する。健気な親衛隊隊長から豹変した俺は教室では珍獣扱いだ。

 はっきり言ってしまえば、俺こと来宮誠は現在、クラスで浮きまくっている。

 その理由は明快かつ明確で、俺が未だにリコールされた会長の親衛隊に所属し続けることにあるのだが、俺が避けられているこの現状には、更に大きな要因がある。

 ――だって、“あいつ”も同じクラスなんだから。


『授業お疲れ様です。食堂のいつもの席で待ってます』


 午前の授業終わり。携帯のバイブレーションを感じて開いてみると、いつもの如くチカから連絡が来ていた。

 すぐに行くという旨を返して立ち上がる。席を離れようとしたとき、周囲の生徒が俺を半身で避けたが気にしない。

 クラスメイトは俺に無干渉だが、俺もクラスメイトに無干渉。丁度良い距離感だと思いつつ教室を出ようとしたところで、その声は聞こえた。


「無様だな、来宮誠」


 浴びせられたのは、嘲りを含む罵倒。俺が立ち止まるとそいつは調子に乗ったらしい、更に続けた。


「媚び売ってた相手が失脚して残念だったな。カワイソーに」


 面倒だと思いつつも、このまま言われっぱなしにしておくわけにもいかない。

 ゆっくり振り返ると、教室の一角に集まっていた“あいつ”の取り巻きのうちの一人が、挑発的な目でこちらを見ていた。

 そしてその輪の中心には、“あいつ”――佐瀬紫織が、いる。何の因果か、俺と佐瀬紫織は同じクラスなのだ。

 つまり俺は、佐瀬紫織の親衛隊隊員に喧嘩を売られたってわけだ。

 ……いいぜ。光岡のとこの隊員と争うのは本望じゃねえ。でも売られた喧嘩から逃げたら、渋谷千里親衛隊の名が廃る。


「ごちゃごちゃ五月蝿えな、佐瀬の腰巾着がよ」

「なっ……」


 まさか俺から反撃がくるとは思っていなかったらしい。そいつは勝ち誇った嘲笑から一転、羞恥に顔を赤く染めた。腰巾着はプライドが許さないようだ。

 佐瀬はというと、冷たい色を湛えた視線をこちらに寄越しつつも、黙って取り巻きと俺のやり取りを聞いていた。


「う……五月蝿いのはどっちだよ!?」

「負け犬のくせに偉そうなんだよ来宮誠!」


 喧嘩を売ってきた最初の一人に便乗して、他の腰巾着たちもキャンキャンと吠え始める。耳に痛い金切り声だ。


「チワワみたいに吠えんなよ、耳がいってーな。そっちこそ佐瀬の傍にいないと何一つ言えねえような小心者のくせに粋がってんじゃねえよ、チワワ共」

「五月蝿い五月蝿い!いい加減諦めたらどうなんだよ!?渋谷千里なんかの親衛隊をいつまでも続けてたって何にもならな」


 花瓶が割れて、そいつの言葉は遮られた。

 何故、花瓶が割れたのか。それは俺が床に叩きつけたからだ。

 いけない。器物損害だ。これでは大原白兎とやっていることが変わらない。

 だが、看過できる言葉とできない言葉というものがあるだろう。


「撤回しろ」


 例え渋谷千里がリコールされたとしても、親衛隊の威光が失墜したとしても、俺には譲ってはいけないものがある。


「今、言ったのは誰だ。渋谷千里なんか(・・・)なんて、舐めた口利いた奴は誰だ!?」


 瞬きすらせずに怒鳴り散らした。あまりにも教室が静まり返っていたので、俺の怒声は僅かに反響して空気を震わせる。


「いいか。この場にいる全員、よく聞けよ。この際だから言っておく」


 ぐるりと辺りを見回して、宣言する。

 教室で硬直し固唾を飲んでいるクラスメイト。

 廊下から覗く野次馬共。

 親衛隊嫌いの大原白兎の不在を狙って好機とばかりに新会長に擦り寄る腰巾着。

 そして、冷めた態度で傍観を決めている佐瀬紫織。

 全員、よく聞け。これが俺たち、渋谷千里親衛隊の意向だ。


「俺たちは渋谷千里の潔白を信じてる。渋谷は白だ。だが仮に、万が一渋谷が黒だったとしても――」


 絶対にあり得ないことだ。俺が遠い昔のあの日に選んだ王様が間違うなんてこと。

 だが、もしそうだったとしても、俺は。


「それを理由にして、今まで渋谷が俺たちに与えてくれた沢山の恩恵をなかったことにする奴を、俺は許さねえ」


 渋谷千里が生徒会長になったことで新たに生まれた制度、行事、総会。

 その全ては渋谷千里がいなければ成しえなかったことだ。

 それを忘れる恩知らず共を、俺もチカも許しはしない。


「おい、さっきからそこで偉そうにふんぞり返ってる新生徒会長サマよぉ」

「――……来宮」


 俺の呼びかけに応じた佐瀬が、初めて俺と目を合わせた。

 絡み合う視線。視線で人を殺せるのだとしたら、この間に入った人間は間違いなく風穴だらけだ。


「俺らは本気だ。覚悟しとけよ」


 一番最初に喧嘩を売ったのは、俺でもなく佐瀬の親衛隊でもない。

 渋谷をリコールしたお前だ、佐瀬紫織。

 するとそいつは、蠱惑的で挑発的な、まるで美しい悪魔のような表情で、微笑んだ。


「受けて立ちますよ、来宮。やれるものならやってみなさい」


 これでお互いに、立場を理解した。

 きっと俺たちは、近い内に自らの主張の正当性を守るために激突することになる。今ここで起こっているは、嵐の予兆に過ぎない。


「学園の王は渋谷千里だけだ」


 捨て台詞のように呟いてから、踵を返して教室を出た。チカが待っている。早く食堂に行かなければ。

 どうしたもんだか。佐瀬紫織のことが嫌いで嫌いで仕方がない筈なのに――


「……何で俺は笑ってんだか」


 どうやってあのスカした面に「お前は間違っている」と突きつけようか、考えるだけでぞくぞくする。

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