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リコール撤回を要求します。  作者: 回めぐる
来宮誠たちの動乱の日々
14/23

来宮誠の三振な会議

 さて、ところは変わり俺とチカは会議室に戻ってきた。

 随分時間を食ってしまったし、結局コーラも緑茶もヴァンピール会計にくれてしまったが、なんとか下降したチカの機嫌も戻せたことだし良しとしよう。色々なことが起こり過ぎたお陰か、俺の鬱々としていた心境も吹き飛んで、頭の中はクリアーだ。

 改めてふたりで会議室の机を挟んで向き合い、話し合いを開始する。


「落ち込んでても始まらない。やっぱ物事は会議室から始まるよな!」

「はい、話し合いは解決の糸口です!」


 ……お互い空元気な雰囲気が否めないのは仕方がない。その内払拭されるだろうさ。


「じゃあまず、俺から一ついいか?」

「え?何か良い案があるんですか?」


 早速挙手をした俺に、チカが尋ね返す。ついさっきまで悪夢を見る程に絶望していた俺が積極的なのが、余程意外なのだろう。

 ちなみにこの案は、今しがた中庭で大原白兎と接触した際に振って落ちてきたものである。


「俺が大原白兎を篭絡して佐瀬紫織から引き剥がすっていうのは」

「却下ですっ!!!」

「……ですよねー」


 恐ろしい剣幕でチカが机を叩くものだから、俺は半身を仰け反らせる。

 いや、駄目だろうとは思ってたよ。チカの大原嫌いは徹底的だしな。でもいくらなんでもそこまで怒るとは。


「けど一番現実的だろ、これが。ぶっちゃけ佐瀬紫織より大原白兎の方がこの学園内での権力は上なんだよ。なんせ理事長の甥だし」


 その大原がこちらに付けば、買ったも同然である。


「そうだとしてもぜっっったいにダメです。さっきシリアスな雰囲気の中で交わした約束を早速違うつもりですか!」

「シリアスでもシリアルでもいいけどさあ」

「良くないです!」

「なんでチカはそこまで大原を嫌うんだ?」


 だがこの一言は禁句だったらしい。

 刹那、チカはその身を固くして停止したかと思うとカタカタと震え出し、挙げ句の果てには泣き出してしまいそうな勢いで机に突っ伏した。


「あ……ああ……まさか隊長までそんなことを言うなんて……貴方まで大原の味方をしたら、僕はどうしたらいいんですか!?」

「大袈裟だっつーの!俺はただ、チカは佐瀬紫織より大原白兎への嫌悪感の方が勝ってる気がしたから言ってみただけだって」


 俺だって大原白兎のことは嫌いだし、渋谷を見捨てた吸血鬼ヤロウ・淡井を含む他の役員共も癪に触る。渋谷に濡れ衣を着せ弾劾した無知な生徒共には吐き気がする。

 だが誰よりも憎いのは、渋谷を嵌めた元副会長の佐瀬紫織だ。俺は他の誰を許したとしても、佐瀬紫織だけは絶対に許さない。――許してはいけない理由がある。

 俺は大原が相手なら色仕掛けでもトモダチゴッコでもやり遂げる自信があるが、佐瀬紫織とは演技でも仲良くできない。虫唾が走る。

 だがチカは、佐瀬より誰より、大原白兎を嫌っているように見えた。


「特別に理由があるってわけじゃないです。ただ、嫌いなだけ。人間誰しも好き嫌いってあるじゃないですか」


 長い睫毛に縁取られた目を伏せられ、逸らされる。いつも明るいチカの憂い顔は思った以上にくるものがある。

 ……あまり詮索すべきではないかもしれない。

 誰しも好き嫌いはある。それはそうなのだが、他でもないチカがそんなことを言うのは珍しい。なんの理由もなしにチカが何かを嫌うところを初めて見た。


「……今のは、忘れてくださいね。ほらっ、僕は彼と同じクラスですから、色々あるんですよ!」


 いつものにこやかさをすぐに取り戻したチカは、えへへと笑ってその話題を終わらせた。

 何も言うべきではないと悟り、多少の引っ掛かりを感じつつも、俺は話し合いを続行することにする。


「それで、実は僕も案があるんです」

「おお、言ってみろよ」

「はいっ」


 少し照れながらチカが提案したのは――


「来宮隊長の可愛さを前面に押し出したファンクラブを作るのはどうでしょうか!」


 俺より更に一段上を行くクソ案……ではなく愚か者案であった。


「あれ?え、却下ですか?」

「むしろどうしてその案が通ると思ったのか教えてもらいたいな!」


 親衛隊ファンクラブ隊長にファンクラブを作ってどうするんだよ。


「ちょっと待ってくださいっ、この案にも明確な目的があるんです。決して僕の自己満足のために作るんじゃありません!」

「……あ、そう?じゃあ話してみろよ」


 馬鹿ではないが若干天然の気があるチカの話を聞くのは、果てしなく気が乗らないが、拳を握って力説する可愛さに免じて耳を傾けることにする。

 俺が話を聞く体勢を取ると、チカは意気込んでなんちゃって咳払いをした。


「こほんっ。それでですね、僕はやっぱり、渋谷千里親衛隊の危機を脱するためには、人望、ひいては多くの協力者が必要であると思うんです」

「……おお」


 意外にもまともなことを言うので拍子抜けしてしまった。

 確かに、今の俺たちに最も不足しているものは信頼と人望だ。渋谷千里の名声が地に堕ちた今、その親衛隊も地に堕ちるのは至極当然のことだろう。


「そこで!何をすべきなのか僕なりに考えました。やはりここは――来宮隊長の素晴らしさを全生徒に知らしめて学校全体を動かし、緊急生徒総会を開いて隊長が演説をし、そこでいかに渋谷様が偉大な指導者であったかを説いて不信任案を撤廃する、そのために来宮誠ファンクラブを」

「はい、却下」

「ええっ?何故ですか……?」

「こっちこそなんでその案が通ると思ったのか知りたいわ!」


 お互い一通りのふざけ合いを済ませたところで、俺はぽつりと呟いた。


「…………これからどうするかは、ひとまず保留だな」

「そうですね……」


 五月晴れの午後。

 意欲だけが先走り無策ノーアイディアのまま突き進む渋谷千里親衛隊であった。

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