第十二話《幸せです!》
山の木々が風で揺れる音。
川の水が静かに流れる音。
その音を聞くだけで心から癒される。
「おー、意外に冷たいぞ。ヒンヤリー♪」
箱娘は座りながら水に足をつけてバシャバシャと音をたてる。
「あ!ちっちゃいお魚さんがいっぱい泳いでいますデスワー」
白雪は大きい石に座りながら白い傘を日傘がわりにして水筒に入っている冷たい麦茶を飲んでいた。
「中原はまだ来ないのか?」
「寺の掃除が終わったら来ると言ってましたデスワー」
箱娘は少し不満そうな表情をしながらも川の中に入っていく。
「白雪も来なよ!暑さを忘れさせてくれるほど冷たいぞ!」
「私は箱娘が楽しそうに遊んでいる姿を見てるだけで幸せデスワー」
白雪は笑みを浮かべながら快晴な空を見上げる。
「本当に楽しいデスワー。当たり前のような事がこんなにも幸せだなんて。中原さんに出会って本当によかったデスワー」
「中原は少し天然な性格だからな。しっかり者の私と白雪がいないとダメだね。うん、ダメダメだ」
「あらあら、誰がしっかり者ですの?デスワー。私はしっかり者としての自覚がありますが、箱娘はただのワガママっ娘デスワー」
「む――、誰がワガママっ娘だあああ!私は日本の美の頂点に立つ可愛い少女だぞ」
「ぷ!冗談きついデスワー。箱娘が日本の美の頂点に立つんだったら私はこの世界の頂点に立てますデスワー」
その言葉に箱娘はキィーキィーと何か文句を言っているが白雪は耳を貸さず口笛を吹いていた。
その姿を見た箱娘は川の水をバシャバシャと白雪にかけはじめた。
「キャー!冷たいデスワー。とても冷たいデスワー。こうなったら私も反撃デスワー!」
白雪も川の中に入り箱娘に向かって水をかけて反撃する。お互いにキャーキャーと言いながら遊ぶ姿はとても健気で、とても幸せそうであった。
その光景は普通の姉妹であり、普通の少女。
だけど、なぜかその姿はとても切なく、とても悲しい。
「ははは!ねぇ白雪」
「どうしました?デスワー」
箱娘は笑いながら、しかしなぜか唇を噛み締めて白雪に囁く。
「私、幸せだよ」
その一言に、白雪は一瞬泣きそうな顔になるが頑張ってこらえる。
そして、満面の笑みで……こう言った。
「はい!デスワー」
目に少し涙を滲ませながら笑顔で向かい合った。
だって、それは私が一番聞きたかった言葉だから。
だって、それは私が一番望んでいた言葉だったから。
だって、それは私が一番愛していた言葉だったから。
ああ、私はこの笑顔が見たくてあなたに会いに来たんですね。
それでいいんです。
あなたは、いっぱいいっぱい辛い思いをした。
あなたは、いっぱいいっぱい悲しい思いをした。
あなたは、いっぱいいっぱい理不尽な思いをしたんですから。
白雪は、過去の出来事を思い出しながら箱娘を見つめた。
箱娘の笑顔に、白雪の笑顔。
それはやっと掴んだ笑顔だった。
「ねえ、箱娘。デスワー」
「うん?」
「私も……『幸せ』デスワー」
前があるなら歩いていこう。
途中で立ち止まってもいいのだから。
壁があるなら乗り越えていこう。
その先はきっと明るい笑顔が待っているから。
「おーい、箱娘!白雪ちゃん!遅くなってごめん!弁当持ってきたぞ!」
そう、あなたの横にはすでに……大切な人がいるのだから。
「む―――、遅いぞ中原!!」
「ごめんごめん。そのかわりにほら!唐揚げ弁当だぞ!」
「うむ!許すぞ中原」
「なんで偉そうなんだお前は?」
その光景を見て白雪は静かに微笑んだ。
―――
――
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俺は見ていた。
実は遠くから少し見ていたんだ。
箱娘と白雪が笑顔で遊ぶ姿を。
青い空に、緑の山。透き通る水に、はしゃぐ少女達。
とても楽しそうだ。
とても嬉しそうだ。
だが、たまに彼女達から言葉では言い表せない何かを感じてしまう。
それが何かは俺には分からない。
ただ、どこか……切ない表情をする時がある。
俺には分かるんだ。いや、分かってしまうんだ。
特に白雪ちゃんが箱娘を見る時は明らかに違う。
さっきもそうだ。遠くから見ているので会話は聞こえないけど、白雪ちゃんの箱娘を見る目が辛そうな感じに見える。
いやいや、俺が明るくしなきゃダメだろ!
せっかく唐揚げ弁当を作って来たんだから!
そうだ!明るく楽しく行こうぜ俺!
ふふふ、イタズラ心で一つ唐揚げにワサビを入れてやったぜ!誰が当たるかな!
「ひぎゃあああああ!鼻がツーンと!ふぎゃあああああ!」
お!箱娘に当たったな!
しかし、変な叫び声だな。
「オエ!中原!!唐揚げって……ガハ!殺人料理なんだな!全然美味じゃないぞ」
箱娘は白雪の水筒を取り上げて一気に麦茶を飲み干した。
「中原さん。さては中に何か入れましたわね?デスワー」
「おう!一個だけワサビを入れてみたんだ。まさか箱娘に当たるとはな……っておい!恐いぞ箱娘!凄い睨んでるんですけど!ああ、悪かった。ちょっとした遊び心だったんだよ……」
「なーかーはーらー!!おりゃあああああ!!」
箱娘の見事なハイキックが俺の頭に直撃した。
「ゲフッ!!」
その場に勢いよく倒れる俺。
「ふー、気分がスッキリした♪」
「中原さん、生きてますか?デスワー」
―――
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◆それは生まれてきてはいけない『物』
◆それは望まれてきてははいけない『物』
いくら祈っても変わらない。
いくら願っても変わらない。
いくら誓っても変わらない。
なぜ、私達は『人』ではないのか?
『人』として誕生したら私は幸せだったのか?
『心を持った』から絶望した。
『心を知った』から幻滅した。
だけど、今のこの時間だけは『心を持って』よかったと『心を知って』よかったと感謝しています。




