ミネルヴァ学院長の面接1.0 ―― 中途採用プロセス再開
───【本話のウォークスルー対象】───────
■ Section 01 ナナシノ視点:上屋敷・執務室
■ Section 02 ナナシノ視点:翰林学士院・学院長室
■ Section 03 ナナシノ視点:学院長室・大賢者的妹又娘?
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─── ■ Section 01──────────────
◆ ナナシノ視点:上屋敷・執務室
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賢者様とニコラウス様が執政府から上屋敷の方へお戻りになったのは、夜も更けて良い子はもうぐっすり夢の中にいてもおかしくない時間帯だった。
昼過ぎから執政府にお出掛けになって、今の今までずっと打ち合わせしていたのなら疲労の程度は相当ひどいことになっているんじゃないかと思った。だけどお二人の表情からはそんなに疲労の色は見えなかった。さすが上級貴族は鍛え方が違うと思った。
連日激務をこなしているであろう執政官との面談時間が深夜まで及ぶなんて。執政官は本来業務を放ってまで賢者様との面談をなぜ優先したのか疑問に思った。明日にでもこのことは賢者様にお尋ねしてみよう。
今晩は旅の疲れもあってお二人をお出迎えした後は、ドレインソン君に案内してもらった使用人専用の寝室(ここも個室で助かった!)に直行し、ベッドに倒れ込むや否や意識を失うように爆睡してしまった。
夜が明けて身支度を整えたら賢者様の執務室へ急いで向かった。とりあえず試用期間中はニコラウス様が直属の上司兼教育担当だから、すぐに作業指示を受けられるようにやや気張って執務室のドアをノックする。
誰何と入室許可の一連のやり取りを終え、ニコラウス様の左斜め後ろに立って賢者様が執務をされるお姿をただただ眺めていた。
そのうちに賢者様がふと目線を上げ自分の顔を見た。これから午後の面接の段取りの説明と昨日の執政官との打ち合わせ内容の共有をするとのこと。応接セットのソファーに腰掛けるよう指示された。
面接については、賢者様とニコラウス様の3人で学院長室まで向かい、賢者様と学院長が簡単な打ち合わせをした後、自分の面接が行われる段取りと聞いた。面接はそれほど時間がかかるとは思わないから、可能ならば学園内を少し見学させてもらおうということになった。
本音を言えば面接の傾向と対策を伺って入念な準備をしたかったが、面接の内容については賢者様にもニコラウス様にもどういうものになるか想像がつかないということだった。アドバイスらしいアドバイスも聞かせてもらえないまま次の話題に移った。
自分としては師匠から「ナナシノは何を言っても合格になる」とか、何でもいいから心強くさせてくれる一言が欲しかったのだが……
続いて昨日の執政官とのやり取りの共有を始めることになった。賢者様曰く、昨日面会したのは二人いるうちの正執政官の方だということだった。なんと執政官は二人もいるらしい。執政官職は月ごとにかわるがわる執務をとる輪番制を採用しており、正執政官は今月が非番だったのでちょうど打ち合わせ時間が比較的容易に確保できるタイミングだったらしい。
非番でも正執政官の業務は大変らしく、何度も使いの者が打ち合わせ中も伝言メモを入れてきて、その都度打ち合わせが中断したそうだ。正執政官の執務室で過ごした時間の内、半分ぐらいは待機時間だったそうだ。
正執政官との打ち合わせ内容はほとんど、女神様への対応の話だったらしい。これから頻繁にご降臨がありそうなこと、引き続き賢者様が取次役を務めること等が話し合われたらしい。たったそれだけ話し合うのに帰宅がこんなに遅くなるものだろうか? きっと自分には話せない何かがあったんだろうな。
話し合いの内容から自分の興味を逸らせようという意図もあったのだろうか。その後はひとしきり執政官の選出周りの政治プロセスについて解説してもらった。
異国人ならではの観点から客観的に自国の政治プロセスを見直したいから、これも報告書にまとめて後日提出してほしいと言われた。
ここからは報告書に整理したい共和国の政治過程のアウトライン(要推敲)になる。
共和国における行政府のTOPは執政官で、定員は2名である。
現任は、ロミュウリス・デュグドエルヴ(39歳)、またの呼び名をロミュウリス12世という。もう一人はリーマス・リークヴァサル(47歳)、彼もまたリーマス5世という呼び名を持つ。
法的にはその2人の地位は平等で、職務執行は月単位の輪番制である。これは権力の集中を防ぐための知恵からくるものだそうだ。執政官の任期は2年で以前は選出時期を1年ずらすことで、戦争や大規模災害対応などの国家の非常事態に政治空白が生じにくくしていた。
近年は世の中が比較的平和になってきたことと、共和国の政治文化が爛熟期を迎えた(と共和国の人たちは考えている)ようで人々の政治的緊張度が緩んだこと、行政コスト削減の必要性から執政官選出の手続きの簡便化を図るため、2名同時の選出になって久しいのだそうだ。
法的建前的(名目的)には同等の2人だが、実質的には序列が存在し、事実上は奇数月を担当する正執政官、偶数月の職務を担当する副執政官と世間では認識されている。
元老院から推薦を取り付けられた候補者だけが執政官選挙に立候補できる。中には本人が立候補を表明せずに元老院からの推薦だけで事実上の立候補が認められ、そのまま票を集めて当選する人がいる。まさに現在の正執政官はそのパターンで選出されている。
執政官選挙に投票できるのは民会を構成するメンバーだけである。民会の構成員を総称する政治用語は存在しない。自分の政治的感覚からすると民会は「身分制議会」のような印象を受けた。共和国の民会は地方議会、自治都市の評議会、職業別ギルドの幹事会、聖職者団体の幹部会、軍隊組織の総会など、地域別・職能別組織ごとに編成されたものだからだ。現世の知識からすれば「コーポラティズム」に近いのかもしれない。
投票制度は民会ごとにバラバラで、厳格に多数決による票決を取るところもあれば、幹部の話し合い(根回し)だけで決めるところもあるそうだ。話し合いにも濃淡があって、現世の教皇選挙のようなコンクラーベと同じようなものから民会幹部のトップダウンで確定するものまで千差万別らしい。
各民会の持ち票も規模や影響力によってウェイト付けがなされている。例えば、規模の大きい領地の民会は20票、小規模ギルドの民会は2票という具合だ。
ウェイト付けは元老院が草案を作り、現職の正副執政官の承認で決定する。もちろん、有権者一人一票という民主主義の原則は通用しない。それを直ちにおかしいと現世の常識から一刀両断してしまうのはやはり早計かもしれない。現世の民主的選挙だって、選挙区間の1票の格差問題が完全に解決されているわけでもないから。
更に興味深かったのは民会ごとの投票行為の違いだった。例えば定数2名の執政官選挙において、A氏、B氏、C氏の三人が立候補したとしよう。X民会は持ち票が20票、Y民会は持ち票が10票、Z民会は持ち票が5票だったとする。
ちなみに最も得票数を得た候補者が正執政官となり、2番目に得票数が多かった候補者が副執政官となる。
X民会の投票結果は、A氏9票、B氏7票、C氏4票
Y民会の投票結果は、A氏8票、B氏2票
Z民会の投票結果は、C氏5票
得票数は、
A氏17票…当選(正執政官)
B氏9票 …?(C氏と同数)
C氏9票 …?(B氏と同数)
まず興味深かったのが、X民会は、全立候補者の獲得投票をそのまま報告し、Y民会は投票数を上位2人に割り振って調整後得票数を報告し、Z民会は最大投票獲得候補者が総取りした結果を報告してくることもある。各民会(各選挙区)の歴史的事情・法慣習に対して共和国政府は最大限配慮を示した結果だそうだ。
さて、このままだと同数の票を集めたB氏とC氏のどちらが副執政官となるかは票数だけでは決まらない。現代の民主政治の常識からは程遠いかもだが、この場合はB氏が副執政官に当選するらしい。
理由はいくつかある。X民会が最も票の割り当てが多いということは、このケースでは共和国内で最も優遇された集団(政治的影響力も大きい集団)だと考えられる。優遇される社会集団からの得票数が相対的に大きいこと、X民会におけるB氏の得票数7票>Z民会におけるC氏の得票数5票で、B氏がより支持を集めていると推測されるからだそうだ。
その他、得票上位の民会の数とか、いろいろと謎ルールが長い歴史の上に積み重ねられているそうだ。
そうはいっても、投票行為自体は事前の候補者調整の結果に過ぎないという受け止めが主流で、大抵の場合当選者は投票前に予想がつくそうで、ふたを開けてビックリという結果が出ることは滅多にないそうだ。
その理由として、①元老院からの推薦取り付けという事前審査プロセスを通じて、投票前に当選可能性が高い候補者が明白になっていること、②通常は圧倒的大差でデュグドエルヴ家の候補者が正執政官に当選すること、③デュクドエルヴ家が支援する副執政官候補は予め明らかにされていること、④各民会からの集計結果は公にされる(公開投票)ため、各民会がどの候補者を支持したか白日の下にさらされること、から波乱が起きにくい選挙となっている。
特に④については、当選後の執政官による支持者地盤への利益誘導という名の恩返しは。倫理的に選挙買収だから悪いというより政治的利益の効率的配分のメカニズムとして肯定的に捉えられている点が興味深かった。
候補者についての豆知識は以下の通り。
共和国の建国神話には双子の狼が登場する。狼の兄の名がロミュウリス、弟の名がリーマス。それにちなんで、正執政官は就任後にロミュウリス、副執政官はリーマスに改名する。多選制限はない。ロミュウリス12世ということは、デュグドエルヴ家から選出された12人目の正執政官ということを意味する。リーマス5世ということは、リークヴァサル家から選出された5人目の副執政官ということになる。
デュグドエルヴ家はここ200年以上、正執政官の地位を独占し続けている。実質的な世襲君主といえなくもない。だから政治学者は実態がデュグドエルヴ王朝だと認定するかもしれない。
正執政官は立候補もしないで勝手に選出されてしまうので、元老院から推薦取り付け後、自分の意思で立候補して当選するのは副執政官のみということになる。現代の感覚で見れば実質的には副執政官だけの選挙を実施しているとの判定が妥当かもしれない。
ここまでの話をまとめ切ったところでそろそろ就寝時間と相成った。明日は大事なイベントが控えているので、大事をとってしっかりと睡眠を確保することにした。
─── ■ Section 02──────────────
◆ ナナシノ視点:翰林学士院・学院長室
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翌日、午前中は屋敷で賢者様の執務補助を務め、午後一で学院へ向かう。帯同するのは賢者様とニコラウス様、もちろんクーシュが操る馬車での移動だ。
昼下がりのポカポカした陽気の中、公園なのだろう広い芝生で見たことのある動物も見たこともない動物も含めて楽しく戯れていたり厳しく躾・訓練したりする光景に目が留まった。
本当にお貴族様が住まう高級住宅街は、縦に長いのではなく横に広い所だなと再認識した。そうした広々とした高級住宅街の一角に一際高い塀と鬱蒼とした屋敷林に囲まれた学院があった。その姿は一目で公的機関だと分かった。
(これアニメで見たやつまんまやん。)
馬車が通れるような大きさの門の傍に人間だけが通るような通用門が並んでいるいかにも正門らしきところで、クーシュが名人芸のようにピタリと馬車を止めた。門衛が駆け寄ってきてニコラウス様と2,3語やり取りをして受付が無事完了したのだろう、門衛がクーシュに合図をして馬車が車寄せのような所(馬車寄せ)で向きを変えて止まった。
そこから3人揃って下車、立派な正面玄関は通らずに脇の通用扉から賢者様、ニコラウス様そして自分の順に建物の中に入った。
いくつかの回廊を巡り何回も左右に曲がってそのうちに帰り道が怪しくなってきた頃、いかにも精密な鳥の彫刻がされた深い赤褐色を帯びた無垢材の扉が目に入った。その扉に取り付けられた彫金細工のドアハンドルを回すと中は意外にもセージグリーンで統一された落ち着いた部屋だった。
正面の執務机に学院長らしい大人の女性がこちらを射るような目線で座っているのが見えた。その表情は睨んでいるような厳しい感じで、自分の頭の先からつま先までじっくりと舐め回すように目線を送ってきた。うん、これは厳しい面接になりそうだ。
学院長の秘書だと思われる初老の男性が我々を席まで案内した。当然使用人の立場からすればご主人様たちと同席することはできない。賢者様の後ろにニコラウス様と二人並んで控える。
「本日は大変お忙しい中お時間を頂戴……」のような定型挨拶から入るのかと思いきや、
「学院長、さっそくこれに目を通してくれ」
と賢者様が懐から数枚の紙片を取り出して正面に座っている学院長に手渡す。ニコラウス様から渡さないことに何か意味があるのだなと直感でピンときた。だけどそのメモみたいな紙片に何が書かれているかまでは現時点では見当がつかない。
学院長がそのメモを一枚一枚信じられないスピードで読みながら、
「お兄様、こういう大事なことはもっと早くお知らせくださらないと困ります。お兄様ももう結構なお年なんですから。だから早く後継者をお育てになってと言っていたではありませんか。次代の女神様の取次役はどうなさるおつもりですか?」
と困り顔で賢者様に話しかけた。えっ、お兄様? 賢者様とこのお姉さま(女性を見た目だけで判断するはとても失礼だが30代後半ぐらいのエレガント美人)が兄妹だって。多分、賢者様は70代ぐらいのお爺さんだから結構年が離れているなとびっくりした。
東大陸の貴族は一夫一婦制かどうかまだ聞いていなかった。それとも、賢者様の御父君は後添えをもらわれたのかな。あまり個人情報を詮索するのはいけないことだけど気になるよね。
「ミネルヴァ、今日はそれよりこの子の聴講生の件が本題なのだよ」
はあ~。学院長の名前があまりにドストレートすぎる。学院長すなわち学府の最高責任者、学問と芸術と魔法の中心に居るに相応しい名前。これは多分だけど「ワールド・トーカー」がかなりいい仕事をしているんだろう。きっと言葉の意味の変換を固有名詞の音の響きにまで反映させているに違いない!
賢者様の顔から自分の姿に目線を移した学院長の目線がまた厳しいものに一瞬で変わった。この品定めするようなじっとりする視線で、それでいて冷たく突き放したようでまるで軽蔑するに相応しい下賤な者をみるような表情!
自分は全くその気が無いので好物でもありませんし、そういう視線に耐性もありません、もう許してください…… m(_ _)m
初老の秘書っぽい人の差配で、学院長室は学院長と自分の入学面接になるように座席ポジションが仕切り直された。学院長の正面に自分が座り、賢者様は二人から少々離れた席に座り直す。
その間も自分の一挙手一投足がつぶさに学院長に観察されている感じがしてとても居心地が悪くて仕方がなかった。この不快感・恐怖感から来る強い感情が引き金になったのだろうか。現世での入社面接の記憶が次々と蘇ってきた。大丈夫大丈夫、自分だって何十回と入社面接を経験してきたじゃないか。
定番の質問項目の流れを思い出せ。①自己紹介、②自己PR、③志望動機、④長所・短所、⑤職務経験・実績またはガクチカ、⑥入社後(入学後)に達成したい目標やキャリアプラン、⑦逆質問、という感じで問題ないかな。
「はじめてお目にかかります。名前は『七篠権兵衛』と申します。出身は南部地方です……賢者様によくお仕えできるように行政知識や自然工学を学び……聴講生という形式は、実は魔法が全く使えないので……以前の記憶が無いのでこちらの常識もよく分からず他生徒にご迷惑をおかけするかもしれないので……。」
時折学院長からの鋭いツッコミが何度か差し挟まれたものの、自分としてはうまくやり過ごせていたつもりだったのだが……
「フヴドスタードは初めてだとか。何か興味を引くようなことはございまして?」
ここぞとばかり、何十年もの間言いたくって温存し続けていた台詞を意気揚々と口にする。
「そうですね。裏町が清潔なのに感心しました。それとペットの数が多くてどれもよく太っていますね。」
それを聞いた学院長は最初はちょっと意外そうな顔をしたものの、すぐに顔を顰めて不快感を全開にした。
奇をてらいすぎて、あざとさの度が過ぎたのだろう。不愉快も隠さず矢継ぎ早に次の質問をぶつけてきた。
「率直に聞きますが、どうして口元を白い布で隠しているのでしょう。素顔を見せられない理由がございまして?」
その疑問も当然だろう。まだ飛沫感染防止とかの医療知識は一般的ではないのだから。それにあのペスト医師のくちばしマスクだって、悪霊を払って瘴気を吸い込まないようにするものだったしな。
「失礼しました。実はこれをとると大変お見苦しいものお見せしてしまうもので。ご不快にさせないために外せないのでございます。」
何も嘘は吐いていない。賢者様からあまり明白な嘘をつくと、魔力の流れの乱れから嘘をついていることや場合によってはその中身までばれてしまうと教えてもらった。だから嘘は決してつかないよう心掛ける。ただ余計なことを言わないだけだからね。
こういう風に説明してきて、これまでの経験では誰もマスクを外すように言ってきたことはなかった。あまり普通ではない格好を意識的にすることはそうしなければならない必要性があるから。
使用人同士なら、これまで誰もあまり踏み込んでこないのが普通だった。「相手に見苦しいものを見せてしまう」という言葉が持つ真意は、出来物、痣、傷、口唇裂などが理由で本人が他人に見せたくないと思う何かがある、ということである。
それでも敢えて見せろ、と強要する人にこれまで出会ったことは無かった。こちらの心情を察してこちらの気持ちを尊重してくれる人ばかりだった。察し・思いやり・共感・気配り。賢者様の関係者はそういう素養を備えた優しい人たちばかりだった。そんな優しい人たちに小さな嘘をついていることでこちらの胸をいつもチクチクさせていた。
現世でも「ユニークフェイス」として多くの人とは異なる容姿ゆえに生じる差別や生きづらさを解消し、個性を尊重する社会を目指す活動が行われている。見せない権利も見せて差別されない権利もどっちも尊重される世の中がいいと思う。
多分、賢者様の人徳が使用人にも浸透しているから皆が高い共感力を持ち合わせているんだと思う。だから賢者様の妹さんならもっと心根が優しい人にきっと違いない!
「私のことなら構わないから見せて頂戴!」
一瞬自分の耳を疑った。賢者様の妹君がそんな暴言を吐くなんて。
その後、しばらく言葉を選びながらやんわりお断りを続けていたのだが、学院長のボルテージがどんどん上がっていった。
「いいから見せなさい。学院長の私が見せなさいと言っているのに頑なに見せないなんて、なんて根性が曲がっている子供かしら。そんなんでこの学院に入学できるとでも思っているのかしら。それも特別扱いの聴講生にしてくれって。いったい何様のつもりかしら」
─── ■ Section 03──────────────
◆ ナナシノ視点:学院長室・大賢者的妹又娘?
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できるだけ表情は冷静を装うように努力していたが、彼女の言葉が徐々に乱暴になっていくにつれて、当惑や困惑の感情が狼狽・恐慌に変わり、最後は怒りや憎しみが沸いてくるまでになった。
経験上、入社面接でいわゆる「圧迫面接」を受けたことが何度かあったので、頭の中でいくつかの対処法を列挙していく。こうすることで少しでも冷静さを取り戻すことも知っていたから。
1.「クッション言葉」を挟んで一呼吸置く
2.笑顔と堂々とした態度をキープする
3.回答に詰まっても一拍置いて考える時間をもらう
4.面接官の意図を把握するよう努力する
5.「なぜ?」「ほかにないの?」と、畳み掛ける質問には端的な結論を
6.この場を離席する
最終手段の6.は賢者様の手前どうしても使いたくない。まあ、こういう「伝家の宝刀」は備えておくことに意味があって使ってはならない、という経験則も知ってはいるけど……
助け舟を請うように賢者様に目線を寄せると、
「ミネルヴァ、その辺で勘弁してやってくれ。ナナシノの顔が引きつってきたぞ」
「お父様は口を挟まないで。今私が面接しているの」
えっ!? その言葉に脳天を打ち抜かれた。一瞬茫然自失となり、次に脳内が思考で混乱してきた。学院長が賢者様の妹君で同時に娘さんで……インセスト・タブー的な何かがあったのか? それなら父方の事案ならまだ母方の場合より多少ましだけど。確かに昔は異母姉妹との婚姻が認められていた時代もあったけど……
思考の混乱が内心はともかく冷静をどうにか装えていた表情まで侵食し始めたのが自分でもわかった。
学院長の「この学院で学んでどうするの?」「ご両親のことで他に覚えていることはないの?」「この学院じゃないといけない理由は?」辺りの攻めの質問に答えている間はまだ良かった。
その後の罵詈雑言フェーズは、もうすっかりヒステリー婆だったよ。侮蔑や嘲りの言葉も相当だったけど、もう今はそんな事どうでもいい。「お父様」ってどういうこと???
頼むから誰かこの問に答えをくれ。
賢者様の一言が効いたのか、突然学院長の罵詈雑言と威圧的態度が収まり、執務机に向き直って用紙に何やらすらすらと書き綴り始めた。難しい面持ちのまま、書き終わった用紙を賢者様に手渡す。
賢者様はその用紙を受け取り、その走り書きにざっと目を通す。そして学院長の顔を見やり軽く頷く。
それを見た学院長が今度は自分の方に向き直り、きっぱりとこう言い放った。
「あなたの当学院への入学はどんな形であっても一切認められません。万全の準備が整わない限り」




