ええっと、きたのくに3.0 ―― side[ルナリア]
─【きょうのうぉーくするーたいしょ】──
■ Section 01 あらし視点:きたのくに・おいちいおみず
■ Section 02 あらし視点:きたのくに・おじさんがいっぱい
■ Section 03 ルナリア視点:きたのくに・るなりあ
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── ■ Section 01 ───────────
◆ あらし視点:きたのくに・おいちいおみず
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暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂暗闇静寂人生初甘味想天国
……おそらが、どろどろに、とけている
おかあも、おとうも、うごかなくなって、おいていかれた
あらしのからだも、かわいたつちみたいに、からからで、もう、うごかない
つめたい、なにかが、くちびるに、あたる
「……飲め。そう、ゆっくりとだ、……飲むんだ。」
おおきな、くろい「かげ」が、あらしをだきあげている
くちのなかに、へんな、おみずが、はいってきた
しょっぱくて、にがくて、……でも、からだのなかの「からから」が、
ごくごくと、それをものすごいいきおいで、たべはじめる
なに、これ
おなかが、あったかい。からだが、うれしいっていってる
「……お………い……………ち…………い…………………おいちい…………」
あらしのなかの、いちばんいいことばが、でた
くろい「かげ」が、ぴくりと、うごかなくなった
おおきなてが、あらしの、どろだらけのあたまを、やさしくつつむ
かげのくちから、きこえることば、とても、かなしそう
ナナシノ:「……憂鬱絶望悲惨不幸落差底……この子は、こんな手作りの経口補水液でも『おいちい』と表現してしまうのか……暗闇暗雲闇雲幽玄恐怖地獄墜落……。」
ナナシノ:「……不安不安不安不安……この子は本当に助かるだろうか……心配心配心配。」
ナナシノ:「……希望希望希望希望……もしかしてこのままいけば助かるかもしれない……安堵安堵安堵安堵……歓喜歓喜歓喜歓喜……トレディンさん、この子を見てください、目を開けましたよ……神感謝神感謝神感謝……。」
おとこのこの、くろくて、おもたかったこえが
いま、きらきらした、ひかりみたいになって、あらしの「みみ」に、ふってきた
おおきなかげから、あたたかいしずくが、わたしのほっぺたに、ぽつり、とおちる
なみだ
おかあが、いなくなるまえに、ながしていたのとおなじ
でも、おとこのこのなみだは、おかあのときみたいに、つめたくなかった
「……か、み……さ……ま………………」
あらしの、からからののどから、あたらしいことばが、ぽつり、とこぼれおちた
おとこのこのいった、きらきらしたことばの、まねっこ
「……か、み……さ……ま………………」
あらしの、からからののどから、あたらしいことばが、ぽつり、とこぼれおちた
おとこのこのいった、きらきらしたことばの、まねっこ
「……かん……しゃ………………」
おとこのこの、おおきなてが、びくりとふるえて。それから、あらしを、こわれるみたいに、ぎゅっと、だきしめた
神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝神感謝
まわりが、まっくろなもようのひかりで、いっぱいになった
いみは、やっぱり、ぜんぜんわからない
でも、とっても、あたたかかった
トレディン:「ナナシノ様、早くあっちの患者に毛布を配ってあげないと。10枚あれば足りますよね」
じーまい?なにそれ
じーまいがなにかわらないけど、たぶんあのおとこのひとがてにもっているあったかそうなぬののことだったらきっとたりない
あらしがおしえてあげないと
あらしがおしえてあげないと
あらしは、あのおとこのひとのまえにでて、しゃがみこんだ
ぼろぼろのおふくのすそを、おなかのうえまできゅっと、まくりあげる
あのあたたかそうなぬのをほしがっているひととおなじぶんを、てとあしのゆび、ぜんぶをつかって、あのおとこのひとにみせた
トレディン:「ナナシノ様、この子が通せんぼするんです。……って、うわあ!? ナナシノ様、目を塞いでください! 私は独身で小さい子の面倒を見るのは不慣れなんですよ。いつもの頓智でこの子をやさしく宥めてもらえませんか」
あらしは、ならしのさま?にもよくみえるように、しゃがみこんで、あしのゆびをかぞえようとした
でも、ぼろぼろの、あなのあいたおふくのすそが、つちについちゃう
だから、おなかのうえまで、きゅっと、まくりあげた
そうして、てとあしのゆびを、ならしのさま?によくみえるようにした
ならしのさま?は、なぜかおこったかおをしてあらしをみる
あらしはなにかならしのさま?をおこらせることをしちゃったのかな
ならしのさま?のおててが、あらしのめくれたおふくを、あわてて、やさしく、おろした
ナナシノ:「……義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤義憤……トレディンさん、この子たち、…貫頭衣だけじゃダメみたいです。下着すら、与えられていなかった……っ……憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒。」
ならしのさま?のおかおはおこっているんじゃなくて、ないているみたいだった
おなかがいたいのかな
ならしのさま?のおててが、あらしのめくれたおふくを、あわてて、やさしく、おろした
トレディン:「ナナシノ様、さっきからなんか変なんです。ナナシノ様が最初に助けたあの女の子、私が毛布や飲み薬の数を勘定していると、決まって手のひらを見せてくるんです。手のひらに何か書いてあるとでも思っているんでしょうかね」
ナナシノ:「まあ、小さい子はまだ言葉がよく分からないから、身振り手振りで意思を伝えようとするんですよ。中にはお菓子をねだってお店の床に寝転んで駄々をこねる子もいたんですよ。まあ、近頃はフィクションの中の記号に過ぎなくなってしまいましたけど」
トレディン:「すみません、いつも通り、ナナシノ様が何言っているか分からないんで、もうその話は結構ですから、あの子の様子を見にいってくれませんか」
なんか、とおくから、みんなからならしのさまとよばれているこどもがこっちにきた
おくちのまわりにぬのをまいているから、おかおがあまりよくみえないけど、なんかやさしいそうなめをしている
ナナシノ:「やあ、やっと元気になったんだね。よかったよ。それでどうしたのかな。」
ならしのさまは、しゃがんであらしとおなじくらいのめのたかさでしゃべってくれるから、とてもはなしやすい
あらしは、やさしかったおにいに、にているならしのさまのそばにいるとなんだかあんしんする
あらしは、おとこのひとと、くちにぬのをまいているおとこのこがおはなしをしているのをじっとみていた
だって、なんかおかしいもの
どうしておとながこどものいうことをきいているんだろ
あらしはいつもおとうとおかあにしかられてばかりだったのに
あのおとこのこ、ほんとはずっとおとななのかな
だからおくちにぬのをまいているのかな
ナナシノ:「やあ、少しは元気になったかい。ちょっと教えてくれるかな。どうしてあのおじちゃんにおててをみせるの。」
トレディン:「こっちに聞こえていますよ。ひどいじゃありませんか、ナナシノ様。人のことをおじさん扱いして」
ナナシノ:「トレディンさん、すみませんでした。でも今はこの子とお話しているんで、先にこっちの用事を片付けちゃいますね。」
やっぱり、このおとこのこ、なんかへんだ
ナナシノ:「お話を戻そうね。どうしておててをあのおじちゃんに見せるの。」
あらしは、なんていっていいかわからなかったので、だまってうつむいてしまった
ナナシノ:「ごめん、ごめん、こわがらせちゃったかな。あのね、てのひらをみせるのは、あれかな、魔法が使えるの? だったら見せてほしいんだけどな」
まほー?
おとうがいっていた
まほーはえらいひとしかつかっちゃいけないんだって
……たぶん、あらしがまほーつかえないから、いいたいことがつたわらないんだ
どうしたらいいんだろう
……そうだ、あたたかいぬのとおくすりのところをゆびさしてから、てのひらをみせればいいんだ
あらしは、あたたかいぬのがあるところにいって、ぬのをゆびさした
それから、あいているほうのおててを、ちいさなゆびをおやゆびできゅっとおさえて、なんかへんてこりんなならしのさまにみせた
ナナシノ:「……ん──、もしかしてだけど、おてての指の『数』と同じ『数』の毛布が必要ってことかな。」
『かず』?
『かず』がなにかわからないけど、このへんてこりんなならしのさまがいうんだからきっとそうなんだろう
『もーふ』?
『もーふ』がなにかわからないけど、このへんてこりんなならしのさまがいうんだからきっとそうなんだろう
あらしは「うん」とうなづいた としうえのこのいうこと、ちゃんとききなさいって、いつもおかあにいわれてたから
ナナシノ:「『3』か。それじゃ、あそこで寝ている人は『何人』いるかな? 教えて」
『なーにん』のいみはわからなかったけど、さっきとおなじのをきかれているとおもった
あらしは、りょうてのおやゆびをまげたまま、てのひらをへんてこりんなならしのさまにみせた
ナナシノ:「そう『8』か……ん──もしかして、あっちで列に並んでいる人と、こっちで寝ている人は全部で『何人』いるか分かったりするかな」
あっちで『れつ』?
『ぜーぶ』?
あらしは、あっちにならんでいるひととこっちでねているひとを、へんてこりんなならしのさまにおしえてあげればいい、ということはわかった
そしたらあれをやるしかないけど、このまえ、あれをやったら、ならしのさまがないちゃったしな
またこのならしのさまをなかせちゃったらどうしよう
ナナシノ:「ごめん、ごめん、困らせるつもりはなかったんだ。ただもしかしたらと思って」
あらしは、きゅうにならしのさまがなきそうなめをしたので、やっぱりあれをやることにした
しゃがんであしのゆびをみせてから、みぎてのおててをいつもゆびさしするようにしてみせた
ナナシノ:「そうか! やっぱりそうだったんだ。この前、いきなりしゃがんだ時も必要な毛布や経口補水液の『数』を教えてくれていたんだね。ありがとうね」
ならしのさまがわらったので、あらしもおもわずわらってしまった
あらしは、「うん」とうなづいてから、もっかいしゃがんであしのゆびえをみせて、みぎてはいつものゆびさしのかたちにしてならしのさまにみせた
ナナシノ:「『11』か。」
── ■ Section 02 ───────────
◆ あらし視点:きたのくに・おじさんがいっぱい
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不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安不安こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいいいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやおかあもおとうもおにいもだれもここにはいないだけどこのおへやにはしらないおじさんがいっぱい
どれーしょ?のおじさんがおへやにはいってきた
あ、そのうしろにならしのさまがいた
ならしのさまはこのおへやのすぐおそとにいたんだ
でもあれー、なんかへん
ならしのさまは、あらしのかおをみたら、またおかおがあかくなって、なきはじめちゃった
またおなかいたくなったのかな
どれーしょ?のおじさんがおへやのいりぐちをぱたんってしめたから、ならしのさまのおかおがみれなくなっちゃった
どれーしょ?のおじさんがちかづいてくる
あらしは、どれーしょ?のおじさんすき
だっていつもごはんくれるから
ここにくるまえはいつもはらぺこだったけど、ここにいるとおなかはあまりすかない
このおへやにいるほかのおじさんたちは、どれーしょ?のおじさんのことがだいきらいみたい
どうしてだろ、いつもごはんくれるのに
どれーしょ?のおじさんがまたおそとへいっちゃった
どれーしょ?のおじさんがおそとへいっちゃったら、またおおかみのおじさんがどれーしょ?のおじさんのわるぐりをいいはじめた
だめなんだよ、よそのひとのわるぐりいったら
となりのみどりのとかげのおじさんはからだがかちかち
うごかないのにおみずがぱしゃってかかるときゅうにぎょろって
おおきなおめめをぱかってあけて、しゅうしゅういってへんなおと
あたしはちいさくなっておふくのすきまからそれをみているだけ
おへやのまんなかでおっきなおつめをがりがりしてこすりつけている
おかおがわんわんのちっちゃなおじさん
くらいあなのなかでもおめめがぴかっておおしさまみたいにひかる
あらしがあっちをむいてもずーっとこっちをみてるみたい
とってもこわい
おへやのすみのくらいかげ
なかからあかいひありがふたつ
こっちをじーってみつめてくる
あしがなくてながいへびのおじさん
あらしのからだがたがたふるえちゃう
あ、またどれーしょ?のおじさんがはいっていた
え、あらしをこのへやからおいだすの、いやだ、どこにもいきたくない、ずっとこのおへやにいたい
だって、このおへやにいたらおなかあんまりすかないんだよ
あらしはいやがったけど、どれーしょ?のおじさんがあたしのかみをひっぱった
だめなんだよ、ひとのかみひっぱったら、そのひとがいたいでしょ、おとうがそういってた
あらしはいやがったけど、どれーしょ?のおじさんはかみをひっぱるのをやめなかった
ちょーがないからどれーしょ?のおじさんについていくことにした
ほんとはいやだったけど、もうおなかがすくのがいやだったから
どれーしょ?のおじさんがこのおへやにはいれって、またあらしのかみをひっぱった
あらしはいたいのはもういやだから、どれーしょ?のおじさんのいうことをきくことにした
いいこにしてれば、またごはんくれるかもしれないから
あたまがぐいってひっぱられて、なみだがにじむ
ぎいいって、なっておへやのなかにはいった
あ、ならしのさまととれんでんさんとしらないおじさんがいる
ニコラウス:「すみません、スラヴハンセンさん、その子はもううちの子なんで、そう雑に扱わないで頂けますかな」
スラヴハンセン:「いやいや旦那、まだ商取引の方は終わっていませんぜ。肝心の金額の方が決まっておりやせん」
ニコラウス:「そちらは、商品をきちんと見定めてからというお話だったでしょう。こちらが言い値で買うと言っているのだから、二度は言わせないでください。今すぐその子の髪を離してくださいませんか」
スラヴハンセン:「分かりましたから旦那、今すぐ手を離しますんで、そちらの口に奇妙な布を巻いている小僧を抑えてくれませんかね。今にもとびかかられそうで冷や冷やしているんですよ」
ニコラウス:「それは大丈夫です。元々こういう顔なんです。きちんと躾てあるからご心配には及びません」
スラヴハンセン:「だったらいいんですけど。それじゃ旦那、そろそろ品定めは終わりやしたかい」
ニコラウス:「そうですね。それくらいの子なら、相場通り『銀貨30枚』といったところですかな」
ぎーかさんじゅーまい?ぶたさんいっとー?なにそれ
スラヴハンセン:「ばかいっちゃいけませんぜ旦那。それはおっしゃる通り、相場ではそうに違いありやせん。ですがね旦那、あっしはこれを買い取ってからちゃんと毎日食わせてやってるんですよ。必要経費っていうもんがあるんで。そういたしますとね、ざっと見積もって『銀貨40枚』ってところでやすかね」
こんどはぎーかよーじゅーまい?うしさんいっとー?なにそれ
ニコラウス:「そうですか。この子を買い取ってから、『銀貨10枚』分の食事を与えたと。このほんの数日の間に。ほほう。あなたは、この子に『羊: 2頭 〜 3頭』か『一般的な職人の1ヶ月分の月給』、それとも『鉄製の頑強な農具一式』分の食事を与えたと。そうおっしゃりたいのですな」
ぎーかじゅーまい?ひつじさん、にとーからさんとー?いってきなしょーにんのいっかーぶんのげー?てっせーがん、きょーなの、いっし?なにそれ
スラヴハンセン:「いえいえ、そういい意味では……、やっぱりそっちの小僧、何とかしてくれませんか。さっきより目が怖いったらありゃしません」
トレディン:「(小声で)ニコラウス様、ここは抑えてください。(でもナナシノ様のことは俺は知らない。こんな目をしている時に話しかけるなんて、バカのやることだ。俺には絶対できっこない)」
スラヴハンセン:「えっ、ニ、ニコラウス、あの金剛ニコラウス様? も、もしかして大賢者のところの……」
トレディン:「奴隷商の旦那、ここは悪いこと言いません。あんまり怒らせることはもう言わない方が……」
スラヴハンセン:「いやいや、ニコラウス様ですか。それならそうと先に言ってくれないと。そうですか、そうですか、だったらお目が高いニコラウス様には、もうお分かりですよね。そうですか、それでこの子にご執心なんですか。そうですね、この子はきっと磨けばいい玉になりやすぜ。ちょっと髪色が変ですがね。なあに、大きくなれば元通りになりますぜきっと。いっひっひっ。だったらやっぱり『銀貨40枚』は譲れませんな」
ぎーかよーじゅーまい?うしさんいっとー?
ニコラウス:「ナナシノ、そこを動くな」
スラヴハンセン:「ひっー、やっぱり小僧の躾はきちんとしておいてくれないと」
ニコラウス:「ナナシノ、漏れています」
なんかならしの、すごいおこっているけどこわくない
ニコラウス:「ここに『銀貨5枚』あります。悪いことは言わない。これで手を打った方があなたの身のためです」
ぎーかごまい?へーしいーかげきゅー?なにそれ
スラヴハンセン:「じょ、冗談じゃありやせん、こんなんじゃ儲けどころか大赤字ですよ」
ニコラウス:「何か勘違いなされているようですが、それは必要経費分です。至急、この子の身なりを整えさせなさい。特にその素足は見るに堪えません。ここは首都から遠く離れたへき地ですから贅沢は言いませんが、これから侯爵家に仕えるという身であることを前提にお願いします。それだけの金額をこちらは十分に提示していると思います」
スラヴハンセン:「ふー、なんだ、驚かせないでくださいよ旦那、じゃなかったニコラウス様。それじゃ代金の方は相場通り『銀貨30枚』ってことで」
ぎーかさんじゅーまい、ぶたさんいっとー
ニコラウス:「はい、分かって頂けて何よりです。それでは契約書の『ドラフト』はこちらになります。ご確認をお願いします」
スラヴハンセン:「さすが、手回しがよろしいですな。えーなになに、貯ちょっと待ってくださいよ旦那、じゃなかったニコラウス様、支払いは現金じゃないんですかい。さっきはあれ程勢いよく……」
ニコラウス:「はい、アレが手持ちのすべてです。私は誠意をもって手持ちのすべてをあなたに差し出させて頂いたのですが、何かご不満でも?」
スラヴハンセン:「不満も何も、普通は初めてのお取引先とは現金での支払いと相場が決まっておりまして。そんなだまし討ちみたいな真似、いくらニコラウス様だといっても……」
ニコラウス:「ええ、ですからきちんと申し上げましたよね。こちらが『ドラフト』だと。お手数ですが、もう一度ご確認をお願いします」
スラヴハンセン:「……確かにそれはそうですが、普通は……」
なんか、どれーしょ?のおじさんこまっている
なんかあらしのことでこなっているかんじがする
どーしよー、こんどのごはん、もらえなくなったらやだな
ニコラウス:「あの何か勘違いされているようですので、きちんとご説明いたします。先ほど、あなたは初めてのお取り先とは必ず現金でとおっしゃいましたよね」
スラヴハンセン:「ええ、確かにそういいました」
ニコラウス:「そうであれば、わたくし共としても、あなた様とのお取引はこれが最初となります。これは間違いありませんか?」
スラヴハンセン:「なにを子供に言い聞かせるみたいな、いええ、失礼しました。確かに先ほど、ニコラウス様はそういいました」
ニコラウス:「では失礼して。トレディン、カルトング商会は当家に出入できるようになってもう何年経ちますか?」
トレディン:「先代からですから、ざっと30年近くになります」
さんじーねん?なにそれ
ニコラウス:「それで先代は、当家との直接取引ができるまでに何年かかりましたか」
トレディン:「あれは忘れもしません。親父、いや先代はそれはもう大喜びで。ちょうど節目の10年目でございました」
じーねん?なにそれ
ニコラウス:「そういうことです。あなたは、ニーブルン侯爵家と、初取引から直接契約できるのです。これはあなたにとっても僥倖だと思いますが如何ですか。特別にこのことを触れ回って宣伝に使っていただいても当家は一向に構いませんよ。どうでしょう」
スラヴハンセン:「……う、ううう……」
ニコラウス:「ああ、それと分かっていると思いますが、わたくしはあるお方の筆頭執事です。それがどういう意味か分かりますか。つまり、あなたは大賢者ガイウス・ニーブルン・サピエンスと直接取引ができる身分に昇格なされたわけです。共和国の自治都市商人としてこれ以上の栄誉があるなら是非教えて頂きたいものです」
スラヴハンセン:「す、済みませんでした……私が思い違いをしていました、お許しください。是非こちらからお取引をお願いします」
……ん──
ぎーかさんじゅーまい、ぶたさんいっとー
ぎーかよーじゅーまい、うしさんいっとー
ぎーかじゅーまい、ひつじさん、にとーからさんとー、いってきなしょーにんのいっかーぶんのげー、てっせーがん、きょーなの、いっし
ぎーかごまい、へーしいーかげきゅー
さんじーねん
じーねん
── ■ Section 03 ───────────
◆ ルナリア視点:きたのくに・るなりあ
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________光
______階段光階段
____階段階段光階段階段
__階段階段階段光階段階段階段
階段階段階段階段光階段階段階段階段
あ、なにこれ、おうちのなかにだんだんがある
え、ここをのぼるの、こんなのはじめて、ちょっとこわい
うまれてはじめてあったかいおゆでからだあらってもらって
うまれてはじめてちがうおふくをきて
いつもよりおなかがいっぱいになって
ちがうおふくをよごさないように
あらしはがんばってだんだんをのぼった
え、なにこれ、だんだんのうえにまたおへやがある
いやだ、こわい
どれーしょ?のおじさんが、こんどはてをつないでくれている
さいしょからそーしてくれればこのまえもいたくなかったのに
おへやにはいったら、ならしのととれんでんのおじさんとにこらすさんのおじさんがいた
どれーしょ?のおじさんはおへやにはいらないですぐいなくなった
トレディン:「ナナシノ様、昨日は本当にびっくりしましたよ。真っ赤な顔でこっちに走ってくるから一体何事かと思いましたよ。それで今すぐこっちの書式で奴隷売買の契約書、しかも信用取引の契約書を書いてくれだなんて。そのうえ羊皮紙でだなんて」
ナナシノ:「トレディンさんがいて助かりました。その節は大変お世話になりました。おかげでうまく事を運ぶことができました。それもこれもトレディンさんとニコラウス様の御蔭です。でも多分ここの商人は羊皮紙でないと信用しませんからね。事前に気付けることがあったら少しでもリスクを減らしておかないとですから。」
トレディン:「それにしても、ニコラウス様も即断即決でナナシノ様のお願いを了承されるんだからもうビックリしましたよ」
ニコラウス様:「私はもう慣れたというか、諦めております」
トレディン:「はっはっは、ニコラウス様でもそういう心境になられるんですね。ええ、そのお気持ち、よーく分かりますとも。いやでも、これが見たくって今回、北領地までついてきたんです。馬車3台分の荷物を短時間でかき集めるのはとても苦労しました。でもこんないいものを見せてもらえたわけですから、本当についてきた甲斐がありました」
ニコラウス様:「ナナシノ、もう着いたようだ」
ナナシノ:「ありがとうございます、ニコラウス様。やあ、こんにちは、昨晩はちゃんと熟睡できたかい。」
んー?、ならしの、なにいってるかわからない
あらしが、んー?をやっていると、
ナナシノ:「ああ、ごめん、ごめん、きのうはちゃんと眠れたかい。」
うん、とあらしはうなづいた
ナナシノ:「結局こっちで用意する羽目になってね。この『木靴』履いてごらん。」
んー?
ナナシノ:「ああ、また、ごめん、ごめん、ちょっとここに座ってくれるかな。うん、中に柔らかい布を敷くからね。はい、こっちの足出して……。うんそうそう、こんどは反対の足ね。これで足冷たくならないからね。」
ならしのはあらしのおあしのさきを『きぐつ?』にいれた
つめたくて、かたくて、なんだかへんなかんじ
ごつごつしてて、ちょっとおもたい
でも、なかがふかふか ならしののおててもあったかい
ならしのとおじちゃんたちもおあしにちやぃろの『きぐつ?』をつけてるから
あらしもおなじにしたほうがいいみたい
ナナシノ:「ちょっと歩いてみようか、そうそう、上手上手。あっ、大丈夫? 慌てなくていいからね、ゆっくり練習していこうね。」
あらしは、ならしのがそうしたらよろこぶとおもって『きぐつ?』におあしをいれたままあるいてみた
かこん、こつん
おあしから、へんなおとがする
ナナシノ:「そういえば、まだお名前きいていなかったね。お名前は。」
「あらしのなまえ?あらし」
ナナシノ:「ああ、そういうことか。……ん──、そうだ『ルナリア』はどうかな。きれいな紅紫色と白色の髪だもんね。花言葉は「魅惑」「正直」「幻想」「はかない美しさ」そして「収穫」。別名は「Silver Dollar Plant」だね。」
トレディン:「まったく、ナナシノ様は。いつもの早口でそんなにまくし立てて。こんないといけな幼女にも本当に容赦ない」
ナナシノ:「さあ、言ってごらん、君のお名前は『ルナリア』。今日から君のお名前は『ルナリア』だ。」
……きみのおらまえはるなりあ
きみのおなまれはるなりあ
あらしのおなまれはるなりあ
おなまれはるなりあ、おなまえはるなりあ、おなまえはるなりあ、るなりあ
あらしはならしのまねっこをした
るなりあ、るなりあ、るなりあ
……ん──
ならしのがうれしそうにおうたをうたっている
おろなのかいらんのーぼるー、きにはいまー、しんれれらさー
ららすのらいだんおーりるー、ららすのくつ、しんれれらさー
[EOF]
(原題)「北領地からのエクソダス3.0 ―― 芸は身を助く side[ルナリア]」より




