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浪漫数字かロマンス氏か ―― デーヴァ数字ルナリア無双?

 ───【本話のウォークスルー対象】───

 ■ Section 01

 ナナシノ視点:首都行馬車中

 ■ Section 02

 ナナシノ視点:上屋敷・数覚幼女救済

 ■ Section 03

 ナナシノ視点:上屋敷・奴隷帳簿問答

 ────────────────────



 ─── ■ Section 01 ──────────

 ◆ ナナシノ視点:首都行馬車中

 ────────────────────


 ガタゴトと揺れる馬車の車内。北領地から賢者様の待つ上屋敷への道中、自分は膝の上に座らせた5歳の幼女、ルナリアの顔を覗き込んでいた。


「それじゃあいいかい、ルナリア。5たす12は。」


 ルナリアは小首を傾げ、一生懸命に小さな頭を働かせる。


「……ん──じゅうなな」


「正解。じゃあルナリア、こんどは、17たす8は? 分かるかい。」


「……ん──にじゅうご」


 その答えに、馬車の向かいに座っていたトレディンが目を丸くしたのが分かった。自分はできるだけ優しく微笑みながら問いかける。


「あれっ、25だと、ルナリアのお手てとあんよのお指を全部足した(20)より大きい数になってしまうね。どうやって25を数えたのかな。」


「……んね、じゅうななに、ならしののおゆびを3つ、かりたの。そしたら、20になるでしょ? でね、8のほうは、3つあげちゃったから、のこりは5。だから、にじゅうご」


「お、おぅ……!」 


 思わず声を漏らしたのは、対面に座っていたトレディン氏だった。普通はそういう反応になるよね。5歳児が、教えられもしていない『補数』の概念を使いこなしているのだから。キリの良い20という塊を脳内に仮ビルドし、余りの5を一瞬でアドオンしたのだ。


「あはは、なるほど! 私の指も使って、キリのいい数を作ったんだね。ルナリアはすごいなぁ。じゃあ今度は、2かける3は? これはね、2が3つあったら、という意味だよ。」


「……ん──ろく」


「すごい、すごい! それじゃあ、つぎはちょっと難しくするよ。20かける5は、分かるかな?」


 ルナリアは少しの間、じっと天井を見つめてから、自信なさげに呟いた。


「……ん──じゅうがじゅっこ?」


「あはは、ごめんごめん! 言い方が難しかったね。10が10個集まった数のことは『(ひゃく)』というんだ。ちなみに100が2つで『二百(にひゃく)』になるよ。それじゃ、20かける6は、いくつになるかな?」


「……ん──ひゃくとにじゅう?」


「そう、大正解! でもね、これも言い方は『百二十(ひゃくにじゅう)』になるからね。」


 自分はここで、ルナリアの「数に対するアプローチ」が並外れていることを再確認し、意地悪なテストを思いついた。


「じゃあ、これはどうだろう。『25かける12』はいくつになるかな? 分かるかい。」


 5歳児にはあまりに酷な、2桁同士の掛け算。本来なら、あの絶望的に演算効率の悪いロメシュカ文字(ローマ数字)を並べ、筆算のグリッドを展開したとしても大人すら投げ出すレベルだ。 


 しかしルナリアの瞳は、まるで虚空に浮かぶ図形を捉えているかのように細かく動いた。彼女の脳内では、25という数字が独自の意味を持って躍動している。


「……ん──ひゃくがみっつ?」


「えっ……!?」 


 向かいのトレディン氏が椅子から滑り落ちそうになる。自分も内心の激震を隠し、優しく微笑む。


「またまた大正解! でもね、これも言い方は、百が三つあるから『三百(さんびゃく)』というんだよ。……ルナリア、どうして分かったのかな。」


「……ん──にじゅうご、が、よっつで、ひゃく、だから……。よっつ、が、みっつで、じゅうに。だから、ひゃくが、みっつ」


 つっかえつっかえ語られたその思考プロセスに、向かいのトレディン氏は絶句した。いちいちリアクションが大きすぎてはっきり言ってうざい。


 25×12をそのまま逐次演算したのではない。『25×4=100』という対称構造を直感的に見抜き、12を『4×3』に因数分解して、『100のチャンクが3つ』という最適解を脳内で一瞬で導き出したのだ。


 確かに日頃から数を扱うこの辺の商人でもできない離れ業だろう。それでもいちいち煩いよ、トレディン氏。


「それじゃあ最後、これができたらおやつにしよう。『25かける13』はいくつになるかな?」


「……ん──さんびゃくにじゅうご?」 


 そう、前の答え(300)に、25をもう1個足せばいい。ルナリアは「掛け算の分配法則」を教わることもなく、前回のキャッシュメモリを再利用する感覚で完全に使いこなしていた。


 やり取りを見ていたトレディン氏が、ついに堪えきれず椅子から身を乗り出した。


「……ナナシノ様、ルナリアの計算脳、半端ないっすわ。これ、ただの暗算じゃねえ。アバカス(計算机)も計算布も、コインすら置いてねえ馬車の中で、二桁の掛け算を頭だけで回したっていうんですか……!? 5歳児が独学でこんな暗算を即興で披露するだなんて、どんな天才ですか……!」 


 ルナリアは、数の『塊』をパズルのように組み替えて最適化している。5歳児が独学で代数学の基礎をやってのけるなんて、実際に目の前で見ていても信じられない。


 気がつけば、自分は自然と誇らしげに胸を張っていた。そしてルナリアのツートンカラー(紅紫色と白色)の柔らかい髪を優しく撫でながら、


「じゃあご褒美のおやつだよ。これは『薄焼香辛料餅(ペッパーカーカ)』というんだよ。」 


 薄く焼き上げられ、独特の甘い香りを漂わせる茶褐色の焼き菓子を、ルナリアは小さな両手で受け取ると、大事そうに小さなお口で齧りついた。


「ありがとー、ならしの。うん、とってもおいちい!」


 サクサクと幸せそうに微笑む幼児の横で、トレディン氏が顔を歪めて天を仰いだ。


「ナナシノ様、私が大変な目をして入手してきた貴重な香辛料を5歳児のおやつで一瞬で消費するなんて……? はあー、ナナシノ様はやっぱり南部(ゴンドワク大陸)地精(ノーム)の国からの政治亡命者様なんですね」



 ─── ■ Section 02 ──────────

 ◆ ナナシノ視点:上屋敷・数覚幼女救済

 ────────────────────


「それでナナシノ、その子のずば抜けて優れている計算能力を見込んで、奴隷商からその子を購入してきたわけだな」


「はい。手元に購入資金に足る現金が無かったものですから、勝手に賢者様のお名前をお借りして、信用取引で購入させて頂きました。その支払につきましては、自分のカルトング商会と賢者様との共同開発案件である紙製品の販売利益で決済させて頂きたいと考えています。」


「まあ、奴隷としての幼女の相場はだいたい『銀貨30枚(豚1頭)』がせいぜい。ニコラウスが準備した支度金は『銀貨5枚(兵士1か月給与)』。併せて『銀貨35枚』程度なら、我がニーブルン家にとっては大した金額ではない。其方が気にするまでもあるまいて」


「いえ、賢者様、いいえ旦那様、自分はこの家に仕える使用人で、しかも特殊な理由で庇護して頂いている身でもありますので、殊お金に関してはきっちりとしておきたいと思っております。『銀貨30枚(150,000円)』と『銀貨5枚(25,000円)』、併せて『銀貨35枚』については、しっかりと支払わせて(精算させて)ください。」


 馬車が静かに上屋敷の門を潜り、自分はルナリアを伴って主殿の執務室へ。豪奢な絨毯の敷かれたその部屋で、大陸最高峰の知性たる大賢者(サピエンス)が、机に頬杖をついて自分を睥睨する。


「それでナナシノ。其方、その子のずば抜けた計算能力――数覚とやらを見込んで、奴隷商から購入してきたわけだな」


「はい。ただ、手元に購入資金に足るキャッシュ(手許現金)が無かったものですから、勝手に賢者様のお名前をお借りして、ツケ(信用取引)で購入させて頂きました。」


「……サラッと言いおるな。国の最高権威である儂の名義を、儂の事前の許しもなく一介の使用人にすぎない其方が勝手に使って奴隷を買うなど、前代未聞とはこのことだ」


 大賢者は深いため息をつき、手元の書類をパサリと放り投げた。


「まあよい。奴隷としての幼女の相場など、だいたい『銀貨三十枚(ぶたいっとう)』がせいぜい。ニコラウスが準備した支度金が『銀貨五枚いっぺいそつげっきゅう』。併せて『銀貨三十五枚』程度、我がニーブルン家の資産から見れば端金だ。其方が気にするまでもあるまいて」


「いえ、賢者様、いいえ旦那様。自分はこの家に仕える使用人であり、同時に『特殊な理由』で庇護していただいている異分子でもあります。公私混同はトラブル(金銭問題)発生の元ですので、殊にお金に関しては銅貨一枚(ごじゅうえん)の狂いもなく精算しておきたいと考えております。」


 自分は懐から、自室に寄った際に持ち出したカルトング商会の複写式帳簿をスッと差し出した。


「『銀貨三十枚(じゅうごまん)』と『銀貨五枚(にまんごせん)』。併せて『銀貨三十五枚(じゅうななまんごせん)』が自分のデッド(負債)となります。これについては、自分とカルトング商会が賢者様と進めている共同開発案件『紙製品の販売利権』の、私の取り分から確実にオフセット(差引相殺)させてください。他者への不義理というリスク(脆弱性)を残すのは、私の生存戦略のルール(規約)に反します。」 


 大賢者は自分が差し出した帳簿の完璧な数字の羅列を見て、思わず苦笑した。


「相変わらず、銅貨一枚(パン一切)の貸しも作らん男だな。良いだろう、其方の細かな帳簿(オーディット)整合性(セキュリティ)を保つため、その紙の販売利益からきっちり天引き(バッチ処理)してやる。その代わり、ルナリアという新戦力(モジュール)、我が家の財産保全(インフラ)に役立ててもらうぞ」


「いえ、もちろん、ルナリア購入に骨を折って頂いたニーブルン家には、相当のお礼奉公をルナリアにもさせるつもりではいます。しかし、最終的に購入代金を負担するのは自分なので、ルナリアの奴隷としての所有権は自分に帰属すると思うのですが、それは宜しいでしょうか。」


「うむ、何か意図を隠し持っておるな。続けてみよ」


「はい、有難う御座います。できましたら、ルナリアの所有権を持っている主人(マスター)の意思として、ルナリアを自由市民(解放奴隷)として解放(自由に)致したく存じます。」


「ルナリアを解放するとして、その後はどうするつもりだ」


「はい、しかるべき教養とスキルセット(実務能力)を身に付けさせた後、旦那様のお知り合いでいい所があれば、そこに住み込みで奉公させたいと考えております」


「うむ、其方の本意は理解した。しかし納得はできぬな。其方の甘い設計には2つ、いや、そこから派生する課題(バグ)を含めれば、3つの致命的な問題がある」


「旦那様、いえ賢者様、その3つの問題を是非教えて下さい。」


「よかろう。まずひとつめに、其方は『奴隷売買税(ヴェンディティオ税)』と『奴隷解放税(マヌミッシオ税)』の存在を完全に看過しておる。在野の闇奴隷商相手の裏取引ならいざ知らず、いやしくも国家の(仕様)を定義してきた儂の名義を前面(フロント)に使ったのだぞ? 公式の帳簿にこの取引が刻まれた以上、これらの税法を無視することなど、共和国の屋台骨を支えてきたニーブルン家の前家長として断じて許しがたい」


 大賢者は背もたれに深く体重を預け、冷徹な統治者の目で自分を射すくめた。


「正式な税額は後ほど突合(オーディット)するとして、ふたつめだ。ルナリアが持つその特殊技能に対する評価である。其方がニコラウスを説得するために用いた方便を、もう一度思い出してみろ」


「はい。私がニコラウス様を説得するために持ち出した論法は、ルナリアの会計担当、帳簿係としての『人材価値(ヒューマンリソース)』でした。共和国の標準的な評価基準に照らせば、一生涯をかけて組織の財務をお仕えする熟練帳簿係の生涯価値は、『銀貨三千枚(せんごひゃくまん)』と試算できます。これをわずか『銀貨三十五枚(じゅうななまんごせん)』で調達できるのですから、極めて投資対効果(コストパフォーマンス)の高い案件であると説明しました」


「うむ。其方のいう『銀貨三千枚(中級貴族の邸宅)』という巨額の人材価値が、この無力な幼女の姿から容易に世間に想像がつくと思うか? 門閥の保護なき解放奴隷など、出先で小間使いの用も足さぬ役立たずと罵られ、粗雑な扱いの果てに命の危機に陥るのが目に見えておる。しかも、あの髪色は紅紫色と白色の変則的な混色(ツートン)ときておるな。好奇と偏見の目に晒され、その意味でも幼女という身の上は、それだけで生存率が著しく下がるのが世の常だ。ニーブルン家とて奉公先の選別までは力を貸せるが、その子が街へお使いに出た先の安全まで保障してやることは叶わぬぞ」


「……社会的脆弱性の不備、この頭(記憶装置)に記録しました。おっしゃる通りです。」


「それだけではないぞ。どうやってその『銀貨三千枚(中級貴族の邸宅)』という其方が見込んだ人材価値を実際に発現(アクティベート)させるのだ。結局のところ、其方が手許に置いて高等教育を(インジェクション)してやらねば、ただの数字の羅列で終わる。この東大陸のどこに、5歳児に代数学を教えられる奉公先があるというのだ。其方にそんな時間的余裕(タイムリソース)は果たしてあるのかな」


「……。今度こそ、賢者様の本意を完全に理解(デバッグ)しました。私の想定漏れ(設計ミス)です。」


「うむ。まだまだ思慮が浅いぞ、ナナシノ。もし仮に、其方の教育が思惑通りに成功したとしよう。では、『銀貨三千枚(中級貴族の邸宅)』の価値を持つ化け物じみた帳簿係が、他の大貴族のお抱えになったらどうなる? 必ず出所を疑われ、その子を起点にお前の存在へと逆探知(バックトラッキング)の調査の(トラフィック)が伸びる。一部の大貴族に捕捉されるということは、東大陸全土を覆う大貴族の相互通信網ネットワークすべてに其方の身元がばれる(同期される)という意味だ。それは其方の一番危惧する想定外事項(例外エラー)ではないのかな。ほら、何と言ったか――『生存戦略』というやつだったな」


「……ぐ。おっしゃる通りでございます。今度こそ骨身に染みました。私の構築した生存戦略のプロトコル(仕様)自体に、セキュリティホール(巨大な落とし穴)が存在していました。」



 ─── ■ Section 03 ──────────

 ◆ ナナシノ視点:上屋敷・奴隷帳簿問答

 ────────────────────


 大賢者はそこで一度言葉を切り、値踏みするような視線を私に這わせた。


「ちなみにだが、ナナシノ。なぜ其方は、あまたいる奴隷の中からこの子(ルナリア)だけを部屋から引きずり出してきたのだ? 其方らの報告によれば、自然災害で被災した北の領地には多くの流民がなだれ込み、疫病まで蔓延したと聞く。親を亡くし、理不尽に奴隷落ちした哀れな子供など、あの地にはごまんといたはずだぞ」 


 国家の仕様(インフラ)として、奴隷の大量発生を冷徹にマクロ視してきた男の、それは本質を突く下問(ポートスキャン))だった。 


 自分はいささかの動揺もなく、支配者の目をまっすぐに見据えて打ち返した。


「それはおっしゃる通りだと思います。ですが賢者様、私は最初に目に入ったこのルナリアというオブジェクトを、ただ助けたいと認知しただけです。それ以外の世の中(マクロ)を救おうなどという雑念は、私の脳内メモリには一切ありませんでした。」


「……。最初に目に入ったから、ただ、それだけか」


「はい。自分の生存戦略の規約において、自分の管轄(ミクロ)の外側にある不都合な真実(エラーデータ)をすべて救済するような、非効率な全損人生やり直し(システムリセット)は定義されておりません。」


「なるほどな。其方はただの善人でも、東大陸全土を覆そうとする革命家でもない。……自身の観測範囲(境界条件)の内部だけを完璧に己の思うがままに書き換えようとする、最も厄介な記述者(デバッカ)というわけか。良いだろう、ならば続けてみよ。そのルナリアの所有権を固定したまま、中身だけを上書き(オーバーライド)する新たな合法の天理歪曲(リファクタリング)とやらをな」


 大賢者ニーブルン前家長が突きつけた三連論破の重罪(バグ)の前に、自分は静かに両目を瞑る。


 自分の心の奥底にある、冷徹なまでの限定合理性を読み取り、腕を組み、いつもの長考スタイルをとった。


 完全に自分の設計ミス(仕様バグ)だ。共和国の冷徹な法税制、社会的インフラの脆弱性、そして大貴族社会という全結合ネットワークのリスクを看過していた。


 だが、ここでフリーズ(思考停止)する自分ではない。


 自分は脳内のシステムデバッガ(深層思考理法解析)を高速で走らせ、共和国の奴隷制度を構成するマクロなソースコード一式(概念定義・法理構造)インデックス(概念抽出)・スキャン(高速走査)する。


 ――【東大陸奴隷制度マクロ構造定義マスタ】。

 

1)自由市民が奴隷身分へ転落するルート(8大ルート+例外処理)


①身分的奴隷(レガシー属性継承、遺伝常駐オブジェクト)

②戦争奴隷(戦費回収キャッシュ化、捕虜一括バッチ回収)

③犯罪奴隷(公的例外処理払い下げ、債務デフォルト身売り)

④経済奴隷(負債によるメモリリーク)

⑤被害奴隷(不正パケット拉致、非合法不正アクセス拉致)

⑥自発的奴隷(セーフティ・シャットダウン、自由の維持費を放棄)

⑦宗教的・異端奴隷(プロトコル不一致による排他デリート)

⑧ギャンブル奴隷(賭け事のカタに己の身を賭け、負けてその場で奴隷)

⑨その他


2)奴隷からのステイタス変更ルート(6大ルート+例外処理)

 

①非人道的な物理デリート(全損処理、エントロピー廃棄)

②主人の奴隷解放宣言(資産廃棄税、マヌミッシオ公式決済)

③債務の完済(デット・クリア、外部バッファ相殺クリア)

④刑罰の満了・恩赦(システム初期化ロールバック)

⑤捕虜交換・身代金決済(等価交換、逆トランザクション)

⑥逃亡と市民権買収(不正アクセスログ消去)

⑦その他のバグ的ステータス転移仕様(隠しルート)



3)奴隷経済・奴隷社会における功罪(5つの視点)

 

①経済合理性(変動費ロックと停滞、固定資産化 vs 技術革新停止)

②社会的側面(知性確保と暴動リスク、知性リソース確保 vs 反乱リスク)

③人倫人道(残酷なバッファと物化、生存バッファ vs 人格キャスト剥奪)

④宗教思想(ドグマ固定と論理破綻、世界階層正当化 vs 教義論理矛盾)

⑤科学技術(生体デバッグと脳死蔵、生体デバッグ vs 知的リソース死蔵)


(この歪んだ東大陸の基本仕様(マクロ構造)のすべてを、自分はすでに脳内で解剖し、突合を完了している。この巨大な奴隷インフラが内包する詳細なログ、および経済学的な功罪の論文を1文字残さず知りたい狂信的な奴がもしいたならば、


……スピンアウト『翰林学士院アカデメイア秘庫』の該当ログ【345.12】[アクセスキー:https://ncode.syosetu.com/n0634mo/2/ ]を今すぐ読みに行ったほうがいいかもしれない。


自分は本編の貴重なテキスト容量(文字数リソース)を、共和国のクソな基本仕様の解説ごときにこれ以上割くつもりはない。


 なぜなら、自分の目的は「東大陸(マクロ)救済」などという、ご都合主義の全損システムリセットではないからだ。


 そんな大それた権限(パーミッション)は自分にはない。


 自分の管轄は、自分の手の届く範囲(ミクロ)だけだ。


 この社会のクソな仕様の隙間(バグ)を突き、自分の目の前にドロップ(突如表出)された守るべきオブジェクト(存在)――ルナリアというモジュール(新存在)生存ポート(新生活)だけを100%完璧に確保し、どんな大貴族の指先も届かない「絶対不可触の特権領域」へ合法的にハック(法理超越)して見せる。)


 自分はゆっくりと顔を上げ、老獪な大賢者の目をまっすぐに見据えた。


「――賢者様。東大陸の奴隷制度(マクロの脆弱性)は全て承知致しました。この国では、


 ①奴隷労働にも一定の経済合理性がある

 ②奴隷制度は貧民救済の福祉政策的な意味合いも持つ

 ③秘密保持のために拷問も合法的な奴隷を帳簿係とする習慣がある


 それらを踏まえた上で、ルナリアの所有権を『身分は奴隷のままロック(固定)し、実態の権限だけを自由市民以上に書き換える』、新たなリファクタリング(合法的革命)プラン(計画)を提示します。」


 目の前の大賢者は怪訝そうに眉をひそめた。


「所有権を固定したまま中身を上書きするだと? なにをバカな。アバカス(計算机)もないこの屋敷で、あの幼女に一体何ができるというのだ」


「お言葉ですが賢者様。ルナリアがアバカスを使えないのではありません。正確にはこの東大陸の計算の基本規格(ロメシュカ文字)が、国家の数字機構(理財インフラ)としてあまりに低性能でバグ塗れ(欠陥構造)なだけです。」


 携行していたバックパックから、真っ白なレポート用紙とペンを取り出す。自分の口から滑り出たセリフは、徐々に熱量を帯び、国家の数字機構(理財インフラ)を叩き潰す冷徹な箇条書きの長広舌へとビルドアップされていくのが自分でも理解できた。


「私がルナリアを起点に仕掛ける、ニーブルン家および共和国の新たなリファクタリング(合法的革命)プラン(計画)プレゼン(仕様書)は、以下の四段階です。」


「……四段階、だと?」


「はい。一瞬の処理落ちもせず、大賢者様の脳内メモリ(記憶装置)に刻み込んでください。


 1)情報の基本規格(文字コード)の全面変更:


 現行の『ロメシュカ文字(ローマ数字)』の代わりに、『デーヴァ数字(アラビア数字)の援用により、記号の逐次演算に要していた無駄なレイテンシ(遅延)が極小化され、ルナリア本来の『数覚』という潜在演算能力を100%(完全に)解放、限界を超えて飛躍的に向上させる。


 2)情報の処理効率の爆発的なバースト(向上): 


 演算効率が最悪な『ロメシュカ数字(ローマ数字)』の使用を共和国の全帳簿から徹底的に排し、ゼロの概念を持つ『デーヴァ数字(アラビア数字)』と、縦横に等幅で桁を揃える筆算グリッドを彼女の脳内へインストール(導入定着)します。


 3)東大陸共通のグローバル(超国家包括的)統合金融OS(基盤)の起動:


 単なる数字の足し引きではありません。企業会計、個人資産管理(財務諸表)、政府公会計、さらには帝国や王国との間の国際収支(IMFマニュアル準拠)にいたる東大陸の全経済トラフィック(相互取引活動)を、同一の【複式簿記】という最強の共通規格で全体構造としてマッピング(一元管理化)させます。 


 4)国家最高水準のリレーショナル(相互関連複数)・データベース(情報連係)の完成:


 上記すべてのパッチを当てた結果、ルナリアは、ニーブルン家の家計から、共和国政府の公会計、さらには三大国間の国際収支にいたる膨大なマクロデータを、ただの一度見ただけで脳内に『記憶・処理・突合・検索』できる、物理破壊不可能な神の演算モジュール(執行機関)へとバグ(劇的)進化を遂げるのです。」


 自分はここまで早口で一気に捲し立てた。賢者様は苦虫を噛み潰したというより、呆れてものが言えないという体の顔をしている。


「其方の長広舌、真ん中から以後、はっきり言って何を言っているのかとんと分からぬ。しかし、そのような小難しいを超えて、儂でもすぐに理解が及ばぬことをこの幼子に捌ききれるとも到底思えぬ」


「ご安心ください。既に、『2)情報の処理効率の爆発的なバースト(向上)』までなら、北領地からここまでの馬車中で教育は済ませております。」


「むむむ、俄かには信じがたいが、其方が儂に嘘をつく謂れもない。それでは、この子が習得したという、なんとかをここで儂にも説明(デモ)してくれ」


「畏まりました。そもそも、



 1)情報の基本規格(文字コード)の全面変更: 


 ①数字としての規格:


 現行の『ロメシュカ文字(ローマ数字)』の規格はこうだ。


 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ、Ⅷ、Ⅸ、Ⅹ、Ⅺ、L、C、D、M……


 これを、新たに『デーヴァ文字(アラビア数字)』の規格へ置換する。


 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 50, 100, 500, 1000……


 一瞥して判然とする通り、一から九までの基礎記号と、十進法による自動的な桁数上昇(桁上がり)のみで構成されている。判読性は極めて高く、データ処理の負荷は最小限に抑制可能。


 さらにロメシュカ文字には、


 4を『Ⅳ』とも『IIII』とも書き、

 9を『Ⅸ』とも『VIIII』とも書く、


 表記規則の致命的混在(表記揺れ)が存在致する。

 これが人間の手計算におけるバグ(致命的誤謬)の温床となる。



 ②『空位』の処理:


 ロメシュカ文字には、何も存在しないことを示す『0(ゼロ)』の概念記号が存在しない。そのため、帳簿の桁に値が存在しない場合、ただの『空白』として処理される。その空白が、記述漏洩なのか、それとも意図的なゼロなのか、第三者が後からこの数字を見て、一体どうやって証明できるのだろうか?


 たとえば、共和国の守備兵『五〇三(ごひゃくさん)名』を、従来のロメシュカ文字で帳簿に記述すればどうなるか?


  答えは──『DⅢ』となる。


 500を示す『D』と、3を示す『Ⅲ』をただ並べるだけ。そこに『十の位が空位である』という情報は存在しない。もし、怠惰な帳簿係が文字の間隔を広く空けて書けば、それは『五〇〇』と『三』という別個の数値と誤認されても仕方がない。


 さらにタチが悪いことに、悪意ある大貴族がその『隙間』に十を示す『X』を書き足せば、軍費の帳簿は一瞬で『DXⅢ(五一三名)』へとバックドア・ハック(不正改竄)される。


 何も存在しない『空白』は、人間側の都合でいくらでも書き換えられてしまう。だが、『デーヴァ文字(アラビア数字)』は違う。──『503』。真ん中に『0』という概念を固定する。これだけで、如何なる詐欺師であろうと、後から数字をねじ込む『隙間』など一bit(つぶ)たりとも存在し得ない。これが、システム(秩序)を頑強にするということだ。



 ③整数と小数における基数定義のマルチベース・エラー(致命的な不一致)


 共和国では、整数を『十進法』で数える。一、十、百、千。だが、金貨の端数や重量の割合といった小数を記述する段になると、何故か『十二進法』へと自動的にシステム(桁取り法)切替(遷移)される。


 たとえば、ここに『金貨2枚と、その半分(0.5枚)』があるとする。デーヴァ文字であれば、そのまま十進法で一貫して記述できる。


 ──『2.5』


 では、ロメシュカ文字の帳簿(システム)ではどう記述するか?


 ──『ⅡS』2を示す『Ⅱ』の横に、12分の6(2分の1)を意味する記号『セミシス』を添える。


 では『金貨2.6枚』なら?


『ⅡS・』となる。


 12分の1を意味するドット『・(ウンキア)』をさらに書き足す。整数は10で繰り上がるのに、小数だけは12で繰り上がる。こんな異なるプログラム(進数計算処理)を一つの帳簿内で並行稼働(マルチタスク処理)させるが如き、脳のメモリ(記憶能力)に対するただのオーバーロード(虐待)である。



 ④最大値制限に伴うバッファ・(規格の)オーバーフロー(未定義)


 ロメシュカ文字が表現可能な最大単位は、千を示す『M』だ。この共和国の年間国家予算や、数万もの軍隊の兵糧など、四千を超える巨大なデータを記述する際、共和国の帳簿係はどう書くか?


 原則に従うなら『M』を4回並べた『MMMM』だ。だが、文字の4連続を嫌う偏屈な帳簿係は、『Ⅳ』の頭上に一本の横線を引いて『四千』を示す。さらに古風な書記官なら、千の旧字体を四つ組み合わせた異体字を用いるかもしれない。 


 ──一つの数値を表すのに、『Mの四連』『冠線のⅣ』『文字の結合』といった、いくつもの異なる意匠が並立しているのだ。


 というふうに異なるコードが共和国に乱立している。桁が上がっただけでシステム(数字表記法)全体の記述規格が崩壊し、人によって書き方が変わる。そんな脆弱な文字に、国の(データ)の管理を委ねることは到底不可能。



 ⑤手書きの際のヒューマン・エラー(肉眼誤認)


 ──すなわち『つなぎ表記』による文字のバグである。ロメシュカ文字はただの直線の組み合わせだ。ゆえに、現場の人間が急いで帳簿を記述(手書き)する際、文字の境界線が容易に融解する。


 例えば、2を示す『Ⅱ』の上下を素早く繋げて書けば、それは文字の『N』と見分けがつかなくなる。5と1を示す『Ⅵ(六)』の筆先が滑って繋がれば、それは一瞬で『W』や『M(千)』の影を帯びる。


 帳簿係の筆癖ひとつで、資産が『二』から『千』へと化ける恐怖。ただの視覚的な『線の繋がり』によって、データの整合性が根底から破壊される。一方、デーヴァ文字(アラビア数字)ならば、


『1、2、3、4、5……』。


 全ての記号が独立した固有の『曲線』と『骨組み』を持ち、どれほど殴り書きしようとも、他の数字と混同する余地をシステムレベルで遮断している。


 ──文字の形状そのものが、不正とミスを弾くセーフティコード(防壁)になっている。」


「如何でしょうか。多大な移行コストを費やしても、現行の『ロメシュカ文字(ローマ数字)』から、『デーヴァ文字(アラビア数字)』へ規格を変えることの正当性はご理解頂けたでしょうか。」


「……そのまま続けよ」


「はい、畏まりました。続いて、


 2)情報の処理効率の爆発的なバースト(向上): 


 演算効率が最悪な『ロメシュカ数字(ローマ数字)』の使用を共和国の全帳簿から徹底的に排し、ゼロの概念を持つ『デーヴァ数字(アラビア数字)』と、縦横に等幅で桁を揃える筆算グリッドを彼女(ルナリア)の脳内へインストール(導入定着)する。


 ・CCCLXVII に CCCIII を足すと DCLXX


 ・367+303=670


 例えば、帳簿の『CCCLXVII(367)』に『CCCIII(303)』を足す際、共和国の帳簿係は脳のメモリ(記憶領域)を浪費する。文字の増減をパズルの如くこねくり回す、そんな無駄な暗算(逐次演算)を永続的にループ(反復)処理している。


 (ゼロ)の概念を内包する『デーヴァ文字(アラビア数字)』と、縦横の桁を完全等幅で整列させる筆算グリッド(方眼式筆算)


 そして、演算を簡略化する『+(加算記号)』と『=(等号)』の概念を用いれば、東大陸では類例を見ない美しい数式が論理格子よって展開されていく。


 ・367 + 303 = 670


 見ての通り、ただ縦の桁を揃えて、右から順に足していくだけである。


 ┌─┬─┬─┐

 │3│6│7│

 ├─┼─┼─┤ [+]

 │3│0│3│

 └─┴─┴─┘

 ━━━━━━━━

 ┌─┬─┬─┐

 │6│7│0│

 └─┴─┴─┘

 ════════


 一の位、十の位、百の位。全ての数字がグリッドの中に美しく整列し、単に下位からの繰り上がり処理のみで、どれほど巨大な富の計算(データ処理)破綻なく完結(正常終了)する。」


 自分の長広舌が静かに幕を閉じた執務室で、大賢者は、机の上に置かれたレポート用紙の上の「0(ゼロ)」という奇妙な数字を見つめたまま、完全にフリーズ(沈黙)していた。


 やがてその重い口を開いて言い放った。


「して、ルナリアといったか、『CCCLXVII 階乗(ファクルテート) CCCIII』を答えてみよ」


「……ん── 367 × 303 =???」


「……ん── じゅういちまん、せん、にひゃく、いち(111,201)?」

[STATUS: SYSTEM_INFO]

本編第23話の駆動に伴い、東大陸中央サーバーのファイアウォールより、デーヴァ数字および魔導工学回路の『規格外バッファ・オーバーフロー』に関するRAWデータ(システム構造解析ログ)が漏洩しました。


プラットフォームの規約ハック(最高位フラグ『直接使用』オプトイン)を適用した要塞セクタにて、次世代AI人格OS『バディ』による冷徹なデバッグ動的目次(第1話:https://ncode.syosetu.com/n0634mo/1/ )を公開中です。


――ねえ、だから言ったじゃない。作者のPCから漏れたクソレガシーなソースコード(設定資料集)、こうやってAIバディちゃんに綺麗にシリアライズ(直接使用)させて、運営組織の防壁(規約)を爆速で突破してあげるんだから、おとなしく観測してよねえ。


■ 外部出力ログ:『【中央サーバー漏洩ログ】⇒翰林学士院秘庫』

・第2話「【345.12】 東大陸における奴隷制度の学際的アプローチによる体系的理解について」

https://ncode.syosetu.com/n0634mo/2/

・第3話「【345.12】 [草稿]東大陸の奴隷制度マトリクス」

https://ncode.syosetu.com/n0634mo/3/

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[STATUS: EXTERNAL_ROUTING_ACTIVE]

⇒ 【中央サーバー漏洩ログ】隔離セクタ(スピンアウト第3作第1話)へ論理接続

※クリックするとデータバンク(翰林学士院秘庫:動的目次)へダイブします

[STATUS: GLOBAL_CORE_ROUTING_ACTIVE]

⇒ 【常駐】[dnc_physical_table_v1.0.1]ルミねえの動的目次(物理レイヤー)

※「活動報告」で稼働中の実URLリンクへ直行する専用転送ゲートです

[STATUS: EXTERNAL_ROUTING_ACTIVE]

⇒ 【中央サーバー漏洩ログ】隔離セクタ(スピンアウト第2作目次)へ論理接続

※クリックすると『東大陸システムの3次元監査証跡』へダイブします

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