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顔見世興行 後編

 今日は土の日(土曜日)。学院で読書が楽しめる日だ。今日は『地理誌』を読もうと前々から決めていた。特に政治概論の章を楽しみにしていた。この図書閲覧室に来る前に、また表の道であのピンク髪少女に出くわしてしまった。登校時間を次からは少しずらした方がいいかもしれない。


 でも龍神様でなくてこの娘に召喚されていたら、自分も手で触れる武器は何でも使いこなせたりしたのだろうか。本当に今の自分にチート能力が備わっていなくて残念だ。龍神様もケチである。


 気を取り直して読書に勤しもう。


 東大陸には三つの大きな政治勢力が存在する。大陸の北に位置する「共和国」と南西に位置する「帝国」、そして南東に位置する「王国」である。「共和国」に固有名詞が冠されないように、「帝国」はただの「帝国」で「王国」もただの「王国」と呼ばれている。


 でもややこしいのは「帝国」の中にはいくつかの「王国」が存在することだ。「帝国」の中に含まれる「王国」には固有名が被せられるのが通例だから、単に「王国」と言ったら、この大陸南東部の「王国」を指すことになる。


 三大国以外の政治勢力は、大陸東部に浮かぶ二つの島を本拠地とする「海の民」、大陸中央の砂漠地帯で主にキャラバンによって通商に勤しんでいる「砂漠の民」、共和国と王国の国境付近の草原で主に遊牧を営んでいる「遊牧の民」辺りが有名だ。「遊牧の民」は「草原の民」とも呼ばれていたりする。


 いずれも三大国の国境付近の緩衝地帯として役割を果たしていること、支配のための努力・犠牲のわりに税収などの見返りが小さいことから、守備隊の維持費程度でもペイしないと考えられる。そのため、三大国が積極的にこれを支配・併呑をしようというインセンティブがあまり働かず、現状維持の状態がここしばらく続いている。


 特に「砂漠の民」の活動領域は三大国の中央に位置し、絶妙な緩衝地帯・中立地帯として、三大国の外交交渉のための代表的な会議場所として利用されることも多い。


 東大陸の北のてっぺんには大きな半島がくっついている。まるで先に東大陸本土があって、そこに後から真ん丸な島を東大陸に投げつけて本土と島をくっつけたしまった感じ。その島のほとんどは正執政官領というか自治都市フヴドスタードの直轄領みたいな感じになっている。


 共和国は自治都市の連合体だけど、フヴドスタードの経済と政治面での影響力が最大で領域の広さも共和国随一を誇る。国の成り立ちとして、都市国家だったフヴドスタードが周辺の都市国家を吸収して今の共和国が形成された感じ。吸収された側の各都市はそのまま共和国内の自治都市としてある程度の自治が許されている。


 各自治都市は濃淡こそあれ、評議会のような意思決定機関によって比較的民主的に運営されている。各自治都市の住民はフヴドスタードの住民と同様の市民権が与えられ、共和国内ではフヴドスタード市民との間に法的平等が保証されている。


 ただし、都市住民全員に須くこの共和国市民権が与えられているわけではない。被征服住民の中には共和国市民権を与えられていない層がいくつか存在しているし、奴隷身分も存在する。法の下の平等はあくまで共和国市民の中だけでしか通用しない原則という訳だ。


 しかし、共和国市民だけが一方的に権利をむさぼれるということでもない。共和国市民は市民としてのあらゆる権利を行使するのと引き換えに、軍役と納税の義務を共和国政府に対して負う。各都市に住む市民は、共和国政府に対して各種民会を通じて執政官を投票で選出する権利も有している。その選出制度について以前見た通りだ(※筆者注:「学院長の面接」で解説済み)。


 帝国は東大陸最大の政治勢力である。その版図は南半球にまで及ぶ。東大陸は北半球に広がる陸塊と南半球に広がる陸塊が赤道付近の地峡でつながった形をしている。元の世界の地質年代で言えば、1億8000万年前頃に超大陸が南北大陸に分裂したイメージとほぼ同じ形状をしている。


 南半球に広がる陸塊は「南部」「南部地方」と呼ばれ、著しく人口密度が低く、ヒト族の住民は少ない。エルフやドワーフ、獣人などがそれぞれの種族を中心とした小規模国家をいくつか形成しているが、形式上、帝国がその宗主国の地位にある。自分ことナナシノは、そうした異種族間の村々を行商して歩いていた旅商人の忘れ形見という触れ込みにしてある。


 帝国はある一部の人達から「神聖帝国」の名で呼ばれることもある。帝国の皇帝の地位は、七大選帝侯による選定によって決まる。七大選帝侯による皇帝選出方法は、時の七大選帝侯によって都度決められる。一般的には公開投票の後、話し合いを経て一人に候補が絞られる。七大選帝侯が推挙した候補に教皇が戴冠式で皇帝として承認・任命し、皇帝権を授与する。


 彼らが信仰する宗教は一神教で、この帝国国境を超えて東大陸中に信徒は広がっており、この大陸最大の信徒数を誇る。教義によって旧教派と新教派とに大別される。教皇の権威、教会組織、伝統的な儀式を重視する旧教と、信仰主義を採って信徒個人の信仰を重視する新教である。


 七大選帝侯は、3人の聖職諸侯、4人の世俗諸侯からなる。宗派で分けると、3人の聖職諸侯の内、旧教側が2人、新教側が1人、4人の世俗諸侯の内、2人が旧教側、2人が新教側となり、全体では旧教が4人、新教が3人という内訳になる。そして現在の皇帝は旧教徒である。だからといって帝室の全員が旧教徒というわけではない。両派の融和のため新旧両派から皇妃を迎え、自然に皇子皇女は母親と同じ宗派に属することが多いためである。


 選挙制をとるものの、皇統の安定性はある程度担保されている。原則として先帝の血統の中から優先して新帝が選出されるからだ。時には、先帝が崩御する前、生前の内に後継指名を七大選帝侯に依頼することもある。もちろんその場合は現帝の影響力が大きくなり、現帝の意思を反映しやすくなる。


 七大選帝侯は自家の者を皇帝に推挙することができない(自薦不可)。もし仮に皇帝候補が自家から立つ場合、候補者を別家として分家・独立させなければならない。あるいは七大選帝侯の地位を辞さなければならない。ちなみに、現帝室の初代が皇帝に就いた際、初代が出た家は七大選帝侯の座を降りた経緯がある。


 王国では絶対王政が敷しかれており王権が非常に強い。王権の正当性は長らく国土と人民を上手に統治できる手腕にのみ依存した。つまり、民を飢えさせず、富を生み出し、外敵から民と富を守ることに尽きた。それゆえ、いったん統治能力に陰りを見せれば、国内の対抗勢力が途端に牙をむいて王権を奪いに来た。


 平和より戦乱の時期が長く、あまり他人を信用しない、一度争いになったら苛烈極まりなく、残忍な行為に至るも躊躇いはない国民性を持つようになった。王朝交代が頻繁に起こり、前王朝の生き残りは幼児に至るまで一族郎党全員を虐殺したり、皇女を全員公娼に落としたりした事件もあったという。


 これらの記述がすべて事実で一切の誇張や虚偽が無いと断定するのには無理があるかもしれない。しかし、こうした残忍な所業が記録として残され後世に伝えられた意味を考えると、それ自体が苛烈な国民性の表れと考えることもまた可能ではないかと感想を持った。歴史書の記述はそれを表した人の(政治的な)意図を反映したものである。真実(truth)事実(fact)は似て非なるものだ。


 王国国内で用いられる君主号は「(こう)(おう)」である。その昔は帝国と同様「皇帝」だった。帝国では神の名の下、東大陸全土を旧教で染める世界宣教を目指した。当然、東大陸は寸土を違わず「帝国」領とするべきだった(あくまで旧教視点で)。


 しかし、実際の軍事力の都合で現「王国」の併呑はできなかった。そこで、名目上、東の大国に対して宗主権を認めさせ、形式的な朝貢・臣従に成功した。その際に改めて「帝国」からこの東の大国の君主に王号を授けることになった。以後、東の大国は対外的には「王国」を名乗り、対内的に自国では新たに皇王号を立て、自国の支配者を「皇王」、自国を「皇王国」と呼ぶことにしたのである。


 ちなみに、「共和国」は「帝国」から見れば自国の領土という認識が持たれている。歴史的には、フヴドスタード周辺を除き、それ以外の自治都市は現在の「帝国」を構成する諸侯が所有する土地であった。帝国法によれば、共和国を構成する各自治都市は、帝国内で自治を許された自由都市という位置づけであった。


 但し、自治都市の連合体であるフヴドスタードを中心とした「共和国」の存在だけは認め難かった。そこで、「帝国」は「共和国」を政治的主体ではなく、帝国内における商工業者による大掛かりな「ギルド」のひとつであるという法的建前を適用することにした。


 かくして、「帝国」の統治者も聖職者も東大陸はその全土が「帝国」のものであると自認していた。


 ここまで『地理誌』政治概論の冒頭を読み進めて、忘れぬよう頭の中を整理しながらノートにまとめていく。このペースでいくと早晩異世界に持ち込めた大学ノートを全部使い切るのも時間の問題だ。トレディンさんのところの新製品開発が一日でも早く成功することを願わずにはいられなかった。


 ◆


「姫、お尋ねの件でございますが、手の者に再度精査させましたが間違いございません。天主様が顕現(けんげん)なされた折、天主様のお側に天主様以外の大きな魔力反応が確かにあったそうでございます」


(じい)、その後その魔力反応はいかがした?」


「はっ、しばらく天主様と共にあったそうですが、天主様が帰天されたのとほぼ同時に、これもまた消滅したそうです」


「では共和国経由でもたらされた大賢者からの報告にはすべてが含まれていないということか」


「左様になりますな。それから姫、「共和国」という国はございません。あそこは「帝国」の北部地方でございますゆえ」


名分(めいぶん)などどうでもよい。我は実態の方を重んじている。それだけだ」


 となると、問題は2つになる。ひとつは「共和国は何を隠しているのか」、そしてもうひとつは「なぜ隠そうとするのか」だ。


「執政官府の方はどうだった? これまで大枚をはたいて築き上げてきたという自慢の情報網を大いに使い倒すときじゃないか」


「それがふたつめのそれ(魔力反応)に関しては我々と全く同じ状況でして。本当に何も知らされていないようです」


 ふむ、それだと大司教辺りがまた騒ぎ始めるか。『帝国にまともに情報が入らないのは聖地を直接我が帝国の手に収めていないからだ。今こそ帝国が聖地を奪還するときだ』と声高に主張し始めるのは火を見るより明らかだ。


 あ奴らはまだ懲りていないのか。学習能力があるのか小一時間ほど問い詰めてみたい。聖地奪還を試みて何度も遠征してその都度手痛い一撃を食らって敗走せざるを得なかった歴史を忘れてしまったのだろうか。


 神の御名も勝てなければただの詭弁だ。敵を討ち破れぬ聖戦など、無能な戯言に等しい。戦場に在るのはただ無慈悲な現実のみ。そんなことも分からないのだろうか。


 聖職者共が聖戦を唱えると、兄様たちも黙ってはおるまい。聖俗間の主導権争いが今以上に苛烈になる未来しか見えてこない。お互いに引くことを全く知らぬ慮外者ばかりだからな。


「爺、だとすると情報を握っているのは大賢者ということになるが、それで間違いないだろうか」


「恐らくは。大賢者にいかなる思惑があるのは存じませんが」


 天主様が65年ぶりに顕現あそばされた、天主様と共に現れ共に消えた謎の異常な魔力反応、そのことを知らされていない執政官府、そしてすべてのカギを握る……


 異常な魔力反応、間者が用を足さない、情報を引き出す先……


 うちは正直いって政治的暗躍から距離を置きたい。父帝と兄の確執が深まるをこのまま座視もできない。でもうちが自分でできることはたかが知れている。今も政略結婚を前提とした婚約話が引きも切らない。誰かに利用される人生は嫌だ。魑魅魍魎が住むこんなところは嫌だ。もううんざりだ。どこかにいきたい。


 でも(かあ)(さま)のことも心配だ。母様は新教派の家から旧教派の父帝の元へ嫁がされてきた。旧教派の皇后からさんざん嫌がらせを受けて心は傷ついているのに、そんなそぶりも見せない。気丈に振舞う母様は本当に誇らしい。でもこのままじゃいけない。うちが何とかしなきゃ。


 気合を入れて、緩みかかった表情を引き締める。


「爺、大賢者からは天主様がこれからは頻繁に顕現されると連絡があったのだったな」


「左様でございます。これからますます大賢者の影響力が増しますな」


 ガイウス・ニーブルン・サピエンス(賢者)。うちも大賢者の教えに触れてみたい。きっと今見ている景色も全然違って見えてきそう。


 爺の隣にある姿見に映る自分の姿を何気に眺める。鏡の向こうで、サイドを編み込んだアッシュブロンドの少女が、不敵な瞳に決意を宿していた。


 うん、叔父上に相談してみよう。叔父上なら旧教同士の争いのことも、共和国のことも、大賢者のことも何でも話せるから。


 ◆


「アカンシア姫殿下におかれましては、本日もご機嫌麗しゅうお過ごしのことと恐悦至極に存じます」


 ヴェルヴェーヌ后妃殿下の私室を訪れたアカンシア姫へ、私は恭しくお声がけをした。


「まあ、そんなに畏まらなくってよろしくてよ、グラディス。楽になさって」


 本日、私はヴェルヴェーヌ后妃の招きにより、后妃の私室でお茶を頂きながら軽く談笑させて頂いている。私は根っからの商人だから誰と何処で何を話そうと、全て大切な商談のつもりで全力で対応することを常に心がけている。相手がどんな親密な友人であろうとだ。ましてや、一国の后妃とその娘の姫ならばなおのことだ。


「お心遣いありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます。ときにアカンシア姫、お(ぐし)に飾られているそのレースは、もしやお手製でいらっしゃるのでしょうか?」


「えっ、分かりましたか、きっと出来が悪かったらお気づきになられたのですね。わたしったら、もう、お恥ずかしい限りです」


 などといって、はにかみながらそう語るアカンシア姫の、なんと微笑ましく可憐なことか。しかも、彼女は心から芸術を崇拝している。まさに「芸術姫」の称号にふさわしいお方だ。


 皇王陛下にはたくさんの子がいらっしゃるが、ヴェルヴェーヌ后妃との間の子は姫おひとりだけだ。最近、陛下のヴェルヴェーヌ后妃へのお渡りがめっきり無いともっぱらの噂だけど、陛下の娘への可愛がり方は尋常ではない。その甘やかしの極致が「芸術姫」誕生の最大の理由だといっても過言ではないだろう。


「いえいえ、とんでもない、とてもお上手です。素晴らしい出来栄えだと思いますわ。叶うことならば、当商会で喜んでお取り扱いさせていただきたいくらい魅力的です」


「グラディス、そんなにこの()を煽てないでくださるかしら。ただでさえ絵画や音楽にかまけてばかりで、肝心なお勉強の方がちっとも進まず疎かになっているんですから」


 我が子への愛おしさを募らせるヴェルヴェーヌ后妃は、扇子で上品に口元を覆いつつ、少し意地悪な言葉で娘をからかった。


「そのうえ、今度は陶芸に興味を持ってしまって。せっかくの美しいお庭に今度は陶芸窯を作らせるそうよ。陛下を父に持つ姫が、わざわざ手を汚すような趣味に興じるなんて理解できません」


 本当にダメだと思ったらやめさせることもできるだろうに。両陛下ともほんとに愛娘が可愛くって仕方がないんだろう。


「まあ、お母様ったら。いつも表面的なことにとらわれず、奥にある真実を見極めなさい、とおっしゃっているではありませんか」


 高貴な女性たちのじゃれあいを鑑賞するのも目の保養になるが、話を本題に戻したい。


「先程お話した通り、次こちらに伺えるのは夏の盛りをやや過ぎた頃になりますでしょうか」


「あら、グラディス。今度はどちらへお出かけになられるの? しばらくの間会えなくなるなんてとても寂しいわ」


「まあ、シアったらはしたない。もう少し感情を抑えることを覚えてね。グラディスは今度、西域(さいいき)経由で共和国まで商談で出かけるそうよ。戻ってきたら共和国がどんな国だったか、面白い話をたくさん聞かせてくれるのを楽しみにしていましょうね」


「えっー、西域にお越しになられるの? でしたら買ってきてほしいものがあるの。西域の絵具。あれとても綺麗なの、青とか赤とか緑とか。それからあの白色!」


「はい、畏まりました。西域特産の顔料のことですね。西域の顔料もよいのですが、今回は共和国まで足を延ばします。確か共和国にはもっと良い顔料があると聞いたことがあります。もちろん絵具に仕立てたものも多くは共和国産ですから、きっとアカンシア姫が気に入られるような色味のものを見つけることができるでしょう」


「きっとですよ、絶対買ってきてくださいまし」


 隣の席でヴェルヴェーヌ后妃が「まるで処置無し」という風に眉を下げて呆れているのが分かった。


 私は上得意からまた大量注文が入ったことにとても満足した。共和国で商談予定があるいくつかの商会の中に手広く文房具とか画材とかを扱っている所があったはずだ。ええと、文人や絵師だけでなく貴族御用達の老舗があったはずだ。


 表情は営業スマイルを絶やさぬまま、記憶の糸を手繰(たぐ)って必死に思い出そうとする。


 あっ、思い出した、確か「カルトング商会」だった。確か先代が紙業で大きく業績を戻したんだったな。共和国は山野に針葉樹林が広がっていると聞いた。森林資源が豊富で良質な水資源も多いに違いない。今は息子が後を継いだとかなんとか聞いたことがある。王家へ納品するんだからカルトング商会にとっても朗報だろう。


 ◆


 ナナシノが賢者様と一緒にフヴドスタードに行ってしまった。ナナシノは学院に「チョーコーセ(聴講生)?」として通うらしい。ナナシノがいなくなるとあたしは美味しいものが食べられなくなるから悲しい。でも、賢者様のお務めの関係でまたすぐこの庵に戻ってくるらしい。当分はフヴドスタードとここを行ったり来たりするって言ってた。


 あたしはナナシノがここに戻ってきたら、新しいレシピをまた教えてもらおうと思っている。だって「コーハイ(後輩)」は「セーパイ(先輩)」のいうことを聞かなきゃいけないんだから。ナナシノがそう言ってた。


 ナナシノがフヴドスタードに行ってから、シズお嬢様の元気がない。どこか病気なのかなと思っていろいろ聞いてみたけどどこも悪くないそうだ。シズお嬢様がちょっと引くくらい詮索してみたけどダメだった。これ以上やったらシズお嬢様に嫌われるからほどほどにしておいた。


 ナナシノがいなくなって2,3日たった頃、シズお嬢様が勉強にやる気が急に出て頑張るようになった。それはそれで、あたしとしてはシズお嬢様のお体がとても心配になった。だから、シズお嬢様にどうして急に勉強がしたくなったのか聞いてみた。


 シズお嬢様は自分では口に出しておっしゃらないから、あたしが急に勉強を頑張りたくなった理由を当てるまで、あたしからの質問タイムがなかなか終わらなかった。やっとあたしが言い当てたのは、もう就寝時間になる頃だった。


 シズお嬢様のお気持ちは、これまで絶対に行こうとしなかった学院に通い始めたいということだった。シズお嬢様はああいうことがあったので人前に出るのが得意ではない。だから人がうんといっぱいいる学院には行きたくないってずっと言っていたのに。


 あたしは、シズお嬢様が賢者様のお務めを少しでもお手伝いしたいから勉強を頑張るようになったのだと理解した。だって学院に行かないと立派な魔法師になれないって聞いていたから。


 シズお嬢様がお勉強を頑張り始めて一週間ぐらいたったある日、その日もシズお嬢様が午前のいつもの勉強時間の間、とってもお勉強を頑張っている横でいつものようにシズお嬢様にお仕えしていた。


 もうすぐ勉強時間が終わるなと思った時、あたしのお腹がグーとなってしまった。思わずシズお嬢様と目が合ってお互いの顔を見合った時、あまりにシズお嬢様のきょとん顔がかわいかったので思わず笑いだしてしまった。それを見ていたシズお嬢様もおかしくなったのか、しばらくて二人で笑い続けていた。


 ようやく笑いが収まってきたとき、あたしつい言っちゃったんだよね。


「あーあ、ナナシノが作ったお菓子が食べたくなりましたね。早くナナシノに会いたいな」


 あたしがそういうと、シズお嬢様はあたしの方を振り返ってあたしの顔をしばらく見つめた後、急に顔を赤らめて下を向いてしまった。あたしはどうしてシズお嬢様が顔を赤くしてうつ向いたのか分からなかったので、


「シズお嬢様、どうかされましたか」


 と一生懸命にシズお嬢様の様子が変わった理由を探ろうとした。いろいろ予測を立てて理由を聞いたけど正解を当てることはできなかった。それでも一生懸命に理由を考えた。そして閃いた。


「あの、もしかしてですが、シズお嬢様も(ナナシノが作ったお菓子が食べたいから)ナナシノに会いたくなったのですか?」


 と聞いてみた。


 すると、シズお嬢様はますます赤くなってさらに背を屈めるようにして、これ以上は無理ではないかというくらい下を向いた。


 あっ、あたし分かっちゃった。

 いくら”にぶちん”のあたしでも分かっちゃったよ。


 シズお嬢様もナナシノが作ったお菓子が食べたかったんだ。貴族のお嬢様がまるで食い意地が張っているようなこと考えているってとても恥ずかしいことだよね。


 大丈夫です、あたし誰にも言いません。これはシズお嬢様とこのあたし(イーダ)だけの秘密です。

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