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第七章 最後のレビュー

王都に戻った瞬間。


空気が変わっていた。


市場の人たちが、俺を見る。


パン屋の親父。


ガロン。


前に宝石商を追い払ったときの野次馬までいる。


そして。




「レオン!」




誰かが叫んだ。


次の瞬間、人の波がこっちに向かってくる。




「無事だったのか!」


「宰相の部下に狙われたって聞いたぞ!」


「お前がいないと、また偽物だらけになる!」




何だこれ。


急に人気者すぎて怖い。




「やめろ、押すな。俺はそんな立派なもんじゃ――」


「立派です」




隣で、エリシアが即答した。


ちょっとくらい否定してくれ。


ガロンが人混みをかき分けてやってくる。




「無事か、この馬鹿野郎!」




丸太みたいな腕で、俺の頭をぐしゃぐしゃにする。


痛い。


でも、ちょっと嬉しい。




「店はどうした」


「今日は休みだ」


「いいのかよ」


「弟子どもに任せてきた。それより、お前がいねえと始まらねえだろ」




周りを見る。


市場の人たち。


俺を笑っていた奴らじゃない。


俺を見て、本当に期待してる顔だ。


胸の奥が、少し熱くなる。


そのとき。


人混みの向こうから、重い足音が聞こえた。


ざわ、と空気が割れる。


父だった。


グラナード・アルヴェイン。


その隣には、ディルクもいる。


兄はまだ顔色が悪い。でも、前みたいなぎらぎらした目じゃない。


静かだった。


父が、俺の前で止まる。


しばらく何も言わない。


市場の人間も、みんな黙る。


そして。




「……すまなかった」




父が、頭を下げた。


周りがどよめく。


あの父が。


誰にも頭なんか下げたことがない人が。


俺に。




「お前を、見ていなかった」




父の声は低い。


苦しそうだった。




「家を守ることばかり考えて、お前の価値を、私が勝手に決めつけていた」




胸が、ぐらりと揺れる。


許したい。


たぶん、本当は。


でも。




「……遅い」




自分でも驚くくらい、冷たい声が出た。


父が顔を上げる。




「俺、何回も言われたんだ。無能だ、必要ないって」




喉が痛い。


でも止まらない。




「家から追い出されて、殴られて、最後まで信じてもらえなかった」




父は何も言えない。


兄も、黙っている。




「だから、今すぐ許せない」




市場の風が吹く。


俺は息を吸う。




「でも」




父を見る。


兄を見る。




「ベルゼインを止めるなら、一緒に来てほしいんです」




父の目が、少しだけ揺れた。


その隣で、ディルクが小さく笑う。




「……相変わらず、生意気な口を叩く」


「兄上ほどじゃない」




少しだけ。


本当に少しだけ。


前より、ちゃんと兄弟みたいに話せた気がした。


その日の夜。


俺たちは市場の仲間を集めた。


ガロン。


パン屋の親父。


武器屋の常連たち。


そして、アルヴェイン家の使用人の中でも、父に黙って俺に食べ物をくれてたおばちゃんまでいる。


王国を救う作戦会議にしては、だいぶメンバーが変だ。




「で、どうする」




ガロンが腕を組む。


俺は、短剣を握る。




「王城に行く。そこで全部暴く」


「雑!」




全員に突っ込まれた。


いや、でも事実だ。


ベルゼインは王城にいる。


そして明日、王城では大きな式典がある。


王国中の貴族を集めて、『聖遺物の力で王国は繁栄する』って演説するらしい。


笑える。


偽物のくせに。








俺は言う。




「偽物の聖遺物も、ベルゼインの嘘も」




翌日。


王城。


高い天井。赤い絨毯。無駄に豪華な柱。


俺は、こういう場所が昔から嫌いだ。


偉そうな奴ほど、よく喋る。


大広間には、貴族たちが集まっていた。


その前に立つのは、ベルゼイン。


黒い服。


蛇みたいな笑顔。


そして、その後ろには。


大量の聖遺物。


剣。杖。首飾り。


全部、きらきらしている。


全部、嫌な感じがする。


ベルゼインが手を広げる。




「諸君。これこそが、王国の未来だ」




貴族たちが拍手する。




「聖遺物の力によって、我々はさらなる繁栄を手にする。さらなる力を得るのだ」




違う。


それは全部、偽物だ。


俺は前に出る。




「嘘だ」




大広間が静まる。


貴族たちが、一斉に振り向く。


ベルゼインだけが、静かに笑った。




「やはり来たか。レオン・アルヴェイン」




「その聖遺物、全部偽物だ」




どよめき。


父が前に出る。


兄も、その隣に立つ。




「何を馬鹿な――」




貴族のひとりが怒鳴る。


俺は、短剣を抜く。


真識の短剣。


そして、新しい力を使う。




「真実を、開示する」




光。


短剣から青い光が広がる。


次の瞬間。


壇上の聖遺物が、一斉に姿を変えた。


豪華だった剣は、錆びた鉄になる。


宝石だらけの杖は、ひび割れた木の棒になる。


首飾りは、黒く濁った石に変わる。


大広間に、悲鳴みたいなどよめきが広がった。




「なっ……!」


「そんな……!」


「偽物だと!?」




ベルゼインの笑みが、初めて消える。


俺は、一歩前に出る。




「こいつらは、人を壊す」




声が、大広間に響く。




「家柄や地位、そんなもので価値を決めるから、あんたたちは騙されるんだ」




誰も何も言わない。


みんな、目の前の偽物を見ている。


でも。


ベルゼインは、ゆっくり笑った。


怖いくらい静かな笑い方だった。




「なるほど」




彼は、俺を指差す。




「では諸君。どちらを信じる?」




空気が変わる。


ベルゼインの声は、不思議と耳に残る。




「私は王国を支えてきた宰相だ」




一歩。




「だが、この少年は何だ?」




また一歩。




「家を追い出された、無能な次男」




貴族たちの顔が揺れる。


嫌な感じだ。


ベルゼインは続ける。




「都合のいいことを言い、人を惑わしているだけではないのか?」


「違う!」




叫びそうになる。


でも、その前に。


胸の奥で、何かが止まった。


もう、違う。


前の俺なら、あの言葉で終わってた。


無能。


ハズレ。


そう言われたら、自分でもそうだと思ってた。


でも、今は。


俺は笑う。




「そうだよ」




ベルゼインが眉をひそめる。




「俺は家を追い出された」




父が目を見開く。


兄も、驚いている。




「無能だって言われた。ハズレだって笑われた」




大広間は静まり返っている。


俺は、一人一人を見る。


貴族。


平民。


父。


兄。


エリシア。




「でも、それを決めたのは、お前たちだ」




声が震える。


でも、止めない。




「俺は、俺の価値を自分で決める。もう誰にも、偽物の評価なんか押しつけさせない」




短剣を握る。








その瞬間。


誰かが、俺の前に立った。


ディルクだった。


兄が、剣を抜く。




「弟に、これ以上好き勝手言わせるわけにはいかないな」




ベルゼインの部下たちが、一斉に動く。


でも、その前に。


兄が立ちふさがる。




「……レオンは、本物だ。私が保証する」




父も前に出る。


ゆっくりと、剣を抜く。




「私も、そう思う」




父の声は、震えていた。


でも、確かだった。


ベルゼインの顔から、笑みが消える。




「くだらん」




低い声。


次の瞬間。

彼の背後にあった無数の「偽物」たちが、意志を持っているかのようにベルゼインに吸い寄せられた。

錆びた鉄、腐った木、濁った石。それらが彼の肉体と混ざり合い、醜く肥大していく。

「価値……力……。私が、私がこの国の正解なのだあぁぁ!」

悲鳴。

煙の中から現れたのは、虚飾を鎧のように纏った、異形の怪物だった。


人じゃない。


腕が四本。


顔が歪んでいる。


全身を黒い鎧みたいなものが覆っている。


でも、その目だけは。


ベルゼインのままだった。




「価値は、私が決める」




怪物の声が、王城を揺らす。


床が砕ける。


貴族たちが逃げる。


父が叫ぶ。




「レオン!」




俺は、短剣を握る。


怖い。


でも。


今の俺には、逃げる理由がない。




「終わらせる」




青い光が、短剣に集まる。




「真実を……開示しろ!」




俺は、怪物に向かって走った。

背中には父と兄の、そして市場の仲間たちの視線を感じる。

もう、ハズレなんて言わせない。

これが、俺の――鑑定士レオンの、本当の価値だ!

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




もし少しでも


「続きが気になる」


「この作品、好きかも」


「主人公を応援したい」


と思っていただけたら、ぜひブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。




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