第57話 二日目終了
剣術大会、第二学年の決勝戦はあっという間に幕を閉じた。
決勝戦でヴィクトルの相手をした生徒はラガルドよりも未熟な生徒だったのだ。
目にも留まらぬ速さで迫る刃を目で追いきれなかった生徒は自分の剣を強く弾かれて丸腰になり、たった一撃で勝敗は決した。
「そこまで!」
審判の声を合図に優勝者が決まり、観客中が歓声を上げる。
ヴィクトルは相手と握手を交わすと颯爽と試合場を後にした。
(ラガルド殿下が例の魔法陣を仕組んだ本人なら、俺が目を離さざるを得ない時こそ危うい)
闘技場内部を足速に歩くヴィクトルが探すのはラガルドの姿。
彼が視線を素早く彷徨わせていた、その時。
前方の曲がり角から人の気配がした。
ヴィクトルはそれが何者であるのかを悟ると、あえて気付かないふりをして直進する。
そして曲がり角に差し掛かった時。
「探し物か?」
声がした。
「のわっ!」
ヴィクトルは驚いたフリをしながらそちらを見る。
隣にはラガルドが立っていた。
「び、びっくりしたぁっ」
ヴィクトルが大袈裟に胸を撫で下ろすと、ラガルドは怪訝そうな顔のまま片眉を持ち上げた。
「ほう、僕を見て驚くという事は、何かやましい事でもあるのか?」
ラガルドはヴィクトルがグザヴィエと非常に近しい相手である事を忘れたわけではない。
だからこそ探りを入れるように投げられた問いであったが、勿論そんなものはヴィクトルの想定内のものだった。
「何ですか? やましい事って」
目を丸くしてきょとんとする。
ラガルドはヴィクトルの腹の底を窺うように暫し押し黙っていたが、やがて深い溜息を吐いた。
「……いや。まあどちらでも構わないが」
「ちょっと! だから何ですか、やましい事って……」
「煩い煩い、直近にいる人間にそんな声で話し掛けるな!」
ヴィクトルがラガルドの耳元で喚き立てると、ラガルドはたまらず顔を歪めた。
「それより、何か用があったから急いでいたんじゃないのか?」
「あ、そーだ! ラガルド殿下を探してたんですよ」
そう言いながらヴィクトルはラガルドに詰め寄る。
その距離の近さに、ラガルドが思わず後ずさるも、距離を取られた本人は特に気にしていない様子のままであった。
「俺、優勝しましたよ!」
「…………だろうな」
「えっ」
ラガルドはヴィクトルの言葉を軽く聞き流す。
驚きや賞賛も湧かない。
それ程までにヴィクトルの実力は圧倒的だったのだ。
「どこに驚く必要がある? どう考えたところでお前が優勝するのは目に見えていただろう」
「うっそだぁ! 俺は最後まで俺より強ぇ生徒が来たらどうしようかと思ってたのに」
「なるほど、鈍感もここまでくると新手の煽りだな」
「え、ちょっと、何で怒ってるんですか」
(俺の性格とラガルド殿下を探し回っていた言い訳として相性が良いとはいえ、流石にこれは申し訳がない)
勿論、本気を出した自分に勝てる者が学園にはいない事をヴィクトルは自覚している。
『剣術バカ』として振る舞いながらも今回ばかりは流石に罪悪感を覚えた彼だったが、そんな後ろめたさを振り払うように別の話題を切り出す。
「と、そーだ。ラガルド殿下に報告したかったのと、この後表彰式があるので、控室まで一緒にどうかなって思って!」
剣術大会の二日目。
各学年の上位は一度表彰される。
その上で最終日である三日目に、学園全体の上位者は改めて表彰台へ立つことになる。
そして二日目の表彰者は各学年の準決勝以上に進出した生徒。
つまり二日目である今日、ヴィクトルとラガルドは互いに表彰される予定なのだ。
(これを理由にラガルド殿下を闘技場に縛り付ける事が出来れば、俺も監視が出来るし、研究棟へ向かわせることも防げる)
「どうして僕がお前なんかと。そもそも僕はお前に負けたんだが?」
「勝ち負けと友達かどうかは別じゃないですか! そんなこと言わず、これからも仲良くしてくださいよ! ほらほら、行きますよ~!」
「あ、おい!」
ヴィクトルは他者から見た自分の姿をよく知っている。
本来ならば浅慮だと叱責されるような事や無礼だとされる事も、無知を演じ、敵意を消す事で許される。
『剣術バカの彼だから仕方がない』と思わせる事が出来る立場にあると、ヴィクトルは自覚していた、
故にヴィクトルはラガルドの腕を掴むとぐいぐいと半ば乱暴に引いていく。
それに対し、ラガルドが手を振り払ったり、怒りのままに怒鳴る事はなかった。
ヴィクトルは自分のこの『仮面』が、ラガルドにも充分機能していることを悟りながら、彼と共に控室へと向かうのだった。
***
日が傾き始めたい頃合い。
剣術大会の終了予定時刻を少しだけ回った時間。
私は研究室の脇へ歩み寄り、ある窓を見上げる。
そこにはシャルル様が立っていた。
二時間に一度、情報共有をする。
そう決めた私達の合流場所だった。
「こちらは変化ありませんでした」
「こちらもさ。……そろそろ、大会が終わった頃だろう。大会の観戦もせずここに居座り続けた君の姿を部外者に見られれば、不審がられるかもしれない。今日はここまでにしよう」
「そうさせていただきます。では、明日もよろしくお願いします」
「助かったよ、ありがとう。明日もよろしくね」
私は一礼をするとその場から離れる。
移動する最中、私は懐から一枚の封筒を取り出す。
シャルル様から預かったものだ。
(帰宅の前に、これをグザヴィエ殿下にお渡ししないと)
私は足早に闘技場方面へと進むのだった




