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【連載版】王太子でも聖女でも悪女でもなく、一番の策士が『剣術バカ(嘘)』の私の婚約者の件  作者: 千秋 颯@3/6「選ばれなかった令嬢~」アンソロ発売!
第三章 さよならに嘘の嘘を添えて

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第51話 研究員の秘め事

 シャルル様の後に続いて入室した研究室。

 その先では小柄な高齢の男性がいた。

 温厚そうな顔に、ひげを蓄えた彼は眼鏡の奥の細い瞳で私達を見やる。


「失礼します、フランソワ教授」

「おぉ、シャルル君か。それとそちらは……」


 フランソワ教授はシャルル様、私と順に視線を移した後、ヴィーを見て何度かゆっくりと瞬きをした。

 ヴィーはその視線に応えるように明るく笑い掛ける。


「お邪魔します、先生!」

「おお、ヴィクトル君か。ふむ」


 フランソワ教授は顎を撫でてから優しく笑う。


「ほっほ、そうだ。ワシが呼んだのだったね」

「そうですよー」


 二人の様子を静かに窺っていたシャルル様は納得したように頷き、小さく息を吐いた。

 僅かに残っていたらしい彼の疑念はこの瞬間に完全に払拭されたようだった。


「オレは彼らが迷っていたので案内したまでですよ。……教授。教授の研究室は彼らでは通れないのですから、きちんと訪問の日時は覚えておいてあげないと」

「ほっほっほ、ごもっともだねぇ。今回は助かったよ、シャルル君」

「いいえ。オレもついでにフランソワ教授にお伝えしておきたい事があったので、丁度よかったです」

「おや。伝えておきたい事、とな」


 シャルル様は頷くと先程私達に話したような事をフランソワ教授に告げた。


「もしかしたら研究を盗もうとする何者かの企てかもしれません。フランソワ教授は手伝いの際にのみ足を運ぶオレよりも、この区域にいる事が多いですし、周囲の研究員にも伝えておいていただけませんか」

「ふむ……うんうん。わかったよ」

「ありがとうございます」

「因みにこの件、学園の上層部には伝えたのかな?」

「当然です。とはいえ、魔法陣というのはそう簡単に消せるものではありませんし、万が一にもどなたかの研究が絡んだ重要な仕掛けだった場合、大きな損害が出る可能性も否めませんから、充分な調査や聞き込みを行った結果如何で魔法陣を消すかは考えるそうです」

「なるほど。それなら、研究棟全体に通達するのは学園の行事が終わった頃になるだろうね。だからこそ少しでも早い周知をと君が来てくれたわけだね」

「その通りです」


 フランソワ教授はどこまでも穏やかな様子でシャルル様の話に相槌を打っていた。

 シャルル様はというと、フランソワ教授に伝えたい事を全て話し終えたらしく、すぐに私達から離れて退室しようとする。


「それではオレの用は済みましたので、この辺りで」

「おや、もう行ってしまうのかい。折角ならお茶でも飲んでいけばいいのに」

「今の研究棟は人が少なく、潜り込むには絶好の機会ですからね。念の為見回りでもしておきます」

「真面目だなぁ。誰かが研究を盗もうとしている事が確定している訳でもねーのに」


 呑気な呟き。

 傍から聞いていればなんてことのない、独り言だった。

 しかしそんなヴィーの独り言を聞いたシャルル様は何かに反応するように鋭い視線を彼に向ける。


「何かあってからでは遅いからね」


 その声はあくまで優しいが、彼の瞳は何かを警戒するように鋭く光っていた。


「っつっても、研究棟ってめちゃくちゃでかいじゃないですか。それに、シャルルさんだって研究で忙しいだろうし……フツーに警備とか雇った方がいいっすよね。どこに潜り込まれるかわかってる訳じゃないなら」


 何も知らないふりをしたヴィーの言葉を聞き、私は漸く彼が何を考えているのかに気付いた。

 シャルル様とて研究員としての仕事を抱えたお忙しい立場。加えて彼は別に不審人物等を相手にするような立場でもない。

 であるならば、各区域の境界にいる警備のように不審人物を取り締まる事に特化した人員を用意した方がいい。


 それこそ、魔法陣を用意した者の目的が明らかな場合を除けば。


 つまりヴィーはこう考えているのだ。


 ――シャルル様は研究棟への侵入を目論む人物に心当たりがあるのでは、と。


 その者の素性を知っているからこそ、魔法陣の存在に気付いた時に真っ先に研究結果の盗難を懸念したし、どんな研究が狙われるかをある程度把握しているからこそ自分一人で見回っても効果があると考えているのでは。

 恐らくヴィーはそう考えているのだろう。


 あくまで、一生徒が深く考えずに純粋な疑問を呟いただけ。

 そんな体のヴィーの発言に、シャルル様は一瞬だけ真剣な面持ちを見せた後に大きく肩を竦めて苦笑した。


「それが出来るならオレだってそうしているさ。だが生憎と、こういう要請は即日で通るようなものではない。それに経費の問題だってあるしね」

「あー、だからせめて自分が出来る範囲で対策しようって事ですか?」

「そんな所だよ。……さて、では今度こそ失礼しますね」

「ああ、うん。くれぐれも無茶はしないようにね」

「勿論ですよ。オレは新米研究員。身の程は弁えています」


 フランソワ教授の忠告に笑顔を返したシャルル様は、そのまま一礼して退室した。

 その足音が遠ざかり、聞こえなくなった頃。

 フランソワ教授はにこにこという笑みを浮かべてヴィーへと問い掛ける。


「それで、君達はどうしてここに来たのかな。ヴィクトル君、ニコレット君」



***



 人気のない道をシャルルは足早に歩いていく。

 彼は先程までの穏やかな空気の一切を消し、険しく顔を顰めていた。


(……あれを外部へ流す訳には行かない。あくまであの研究は未来で人を救う為のものだ。それを、あのような……)


 脳裏を過るのは彼へ届いた一通の手紙と、歪な笑みを浮かべる身内らの顔だった。


「――クソ親父」


 舌打ちと共に苦々しく吐き出されたその声が誰かの耳に届く事はなかった。

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