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【コミカライズ決定】【連載版】王太子でも聖女でも悪女でもなく、一番の策士が『剣術バカ(嘘)』の私の婚約者の件  作者: 千秋 颯@6/18「一途に溺愛されて~」アンソロ発売!
第四章 日常を崩す影

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第50話 敵対派閥の家の令息

 気まずい沈黙が訪れる。

 どうすべきかと私が静かにヴィーを見れば、彼は困ったように苦笑していた。


「君達、学園の生徒?」


 制服を着ている私達の正体をすぐに言い当てた研究員は速足で私たちまで距離を詰める。

 相手から怒りのような厳しい表情は見られないものの、純粋な疑問と困惑が見え隠れしていた。


「今日は剣術大会じゃ……いや、そもそもどうしてここに?」

「い、いやぁ、ははは」


 薄紫の髪の研究員の問いに、ヴィーは困ったように頭を掻いた。


「実は、フランソワ教授におつかいを頼まれてたんですけど、すっかり迷っちまって」


 フランソワ教授。

 学園で稀に教鞭を執る講師であり、有名な研究者。

 ご高齢の為、固定の講義を担当する事はなく、学園で姿を見かける事はあまりないが、フランソワ教授の生家はグザヴィエ殿下の派閥でも影響力のある伯爵家だ。


(もしかして、こうなった時の為に予め話を通していたとか……?)


 私が知らないところでグザヴィエ殿下とフランソワ教授が何かやり取りをしていたとしてもおかしくはない。

 そう考えた私はヴィーの顔色を窺うが、剣術バカとして振る舞う彼の心の内までは汲むことが出来なかった。


「フランソワ教授? そうか。なら案内しようか?」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「いいえ。オレはシャルル・フォンタニエ。君達は?」


 その名を聞いた時、私は思わず思考が止まる。

 ――フォンタニエ。それは第二王子派の貴族の名であり……先の港町でのグザヴィエ殿下襲撃の主導者、ベクレル男爵を操っていたと考えられる家名だった。


 そう思い至った時、私は思い出す。

 確か、フォンタニエ伯爵家の三男は魔法の研究の為に家を出て、貴族として社交界に顔を出す事すらしなくなったとか。


(就職先は学園の研究棟だったのね)


 私が驚いている反面、ヴィーはというと不自然な驚きは見せていない。

 恐らく、彼にとってこれは想定内……というか、もしかしたらフォンタニエ伯爵の縁者に接触する事が目的だったのかもしれないとすら思う。


「俺はヴィクトル・アルナルディ。こっちはニコレット・ド・リヴァロルです」

「アルナルディ……あ、もしかして、王太子従きの騎士は君の事かな? 最近の研究棟で何名かの教授から君の名を聞く事があったよ」

「え、マジですか!? めっちゃ嬉しいです! 余計頑張んねーと……っ!」

「はは、元気だな」


 シャルル様は私達をフランソワ教授の研究室まで案内する。

 彼は自分の研究の他、研究棟内の上位権限を持つ教授の研究を手伝っているらしく、いくつかの区域を横断できるそう。

 本来であれば警備を配置され、用がある者であっても権限を持っている者の迎えなしでは通り抜けられないようになっている廊下も、彼のお陰で通ることが出来た。


「すみません、わざわざ」

「いーえ。ついでに済ませられそうな用もあったし」

「用、ですか?」

「ああ。……あー、そうだな」


 私の問いにシャルル様は頷きを返す。

 それから考え込むように視線を左右に彷徨わせてから続けた。


「まあダメ元で聞くけれど、君達、最近研究棟や校舎周辺で不審な人物とか見たりしてないかな」

「不審な……? いいえ」


 寧ろ不審な人物を探しに来た身として、彼の問いは聞き捨てならなかった。


「あの、何かあったのですか?」


 私はシャルル様に問い返す。

 彼は肩を竦めて首を横に振った。


「ああ、いや。大したことではないさ。ただ最近、研究等周辺の見回りをしていた時にある場所に記された魔法陣を見つけてね」

「魔法陣……」


 複雑な形の模様を描き、それに魔力を送り込む事で特定の魔法を発動させることが出来るもの……それが魔法陣だ。


「そう。この研究棟には忙しい方々が多い上に、学園内の敷地は広大だからね。多忙な研究員が移動時間を削減させる為に転移魔法の陣が至る所に隠されているんだ」

「転移魔法……異なる場所に同じ模様の陣を描く事でその間を瞬時に移動できる高度な術式の魔法ですよね」

「ああ。おまけに、学園にあるものは個々の魔力の質を見極め、特定の人物しか使用できない仕組みになっている。だが……オレが見つけたのはそれとは異なるものだ」

「つまり、誰が施したか分からない魔法陣が突如、研究棟周辺に仕込まれたと」

「そうだ。オレはこれが人目を避けて研究棟へ近づきたい部外者によるものではないかと考えている。例えば……研究の情報の盗難や不都合な研究をしている人物へ危害を加える為、等」


 赤みを帯びた紫の瞳が私達を映す。

 その眼光が鋭く光っていた事に気付いた私は、先程鉢合わせた際の彼が私達を咎めようとするような振る舞いを見せなかったのは、その『部外者』である可能性を念頭に置いていたからこそ――敢えて刺激させずに探りを入れるためだった事を悟った。


(彼の言動が全て芝居でないのだとすれば、シャルル様がラガルド殿下の企てに絡んでいる可能性は低い。それどころか……もしかしたら、対立する側に立っているのかも)


 突然見つかった転移魔法の陣。

 ヴィーがここを警戒していた事、そして今のラガルド殿下が大会のせいで動きに制限が掛かっている事。

 これらを考えればラガルド殿下が魔法陣に無関係だとは思えなかった。


「……と、ここだ」


 シャルル様の話を聞きながら思考を巡らせていた時。

 彼は足を止めた。


「フランソワ教授の研究室だよ」

「お、ありがとうございます!」


 ヴィーの礼にシャルル様は笑い掛けてからノックをした。


「どうぞ」


 年配の男性の声が返され、シャルル様は扉に手を掛けるのだった。

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