第41話 別行動の計画
剣術大会の時期が近付きつつあり、生徒達の中でも行事に胸を躍らせる者が増えつつある中。
生徒会室でグザヴィエ殿下は首を横に振った。
「私は参加しないよ」
「ですよね。残念ですわ」
ジュリエンヌ様が肩を落としながら息を吐く。
「剣術大会は生徒の親族や大会運営の為に呼ばれた関係者など、限られた条件とはいえ、学園関係者以外の方々も出入りしますし、怪我に細心の注意を払っているとは言えども戦う以上どさくさに紛れて殿下の安全が脅かされる可能性もありますから」
「うん。ラガルドには都合がいいだろうね」
「いっそ休んだらいいんじゃないですかねぇ」
「そうしたいのは山々なんだけれどね」
ヴィーの提案にグザヴィエ殿下苦く笑った。
「王族の体調不良はそれだけで騒ぎになる。学園で生徒会長をやっている間は王太子としての執務も最低限にさせてもらっているから、執務を理由に休めばそれこそラガルドが変な噂を流すかもしれない。執務を理由に学業をサボっている、とかね」
「そもそも、生徒会は行事運営など率先して進めるべき仕事もある。もう少し考えてから話せ」
「ハイハイ、バカですみませーん」
アンセルム様からの厳しい言葉に、不貞腐れたと言わんばかりに唇を尖らせるヴィー。
恐らくは私やジュリエンヌ様に現状を伝える為にわざと惚けたのだろう。
「私の場合は、去年大会に参加した時に生徒会の業務との兼ね合いが大変だった為今年からは運営に徹する、とか、前回実は怪我をしそうになったとか、試合に参加をしない言い訳なら用意できそうだね。ただ、問題なのは」
「んぁ?」
「お前だ馬鹿」
「ってぇ」
一斉に視線が集まり、ヴィーが目を瞬かせる。
それからゆっくり首を傾げた彼の頭をアンセルム様が叩く。
「去年の優勝者が出場しない大会なんて燃え下がるだろう?」
「え、普通に不参加でいいでしょ。寧ろライバルが一人減ってラッキーってなるんじゃないですか」
「折角優勝してもお前がいなかったから優勝した、だなんて言われるかもしれない生徒の身になれ」
「あー、なるほどね」
「王太子従きの騎士である以上、実績や箔はあればある程私の威厳にも繋がるしね。君が結果を出す事自体は本来ならば都合がいいはずなんだけれども」
グザヴィエ殿下の護衛として優秀なヴィーを、出来る事ならば剣術大会中も傍に置ておきたい。
しかしイベントを運営する側の立場である事、また前大会優勝者を生徒会の仕事で拘束する事で反発する者も現れるだろう。
何より、ヴィーは実際には生徒会の生徒ではない。
生徒会室に出入りしているのはグザヴィエ殿下の護衛であるが為だ。
生徒会ではない者を生徒会長であるグザヴィエ殿下の都合で振り回す事には、事情を知らない者からすれば少々不自然に感じるだろうし、ヴィーに同情するような意見も現れるだろう。
「まあそういう事だから、君は今年も参加だよ、ヴィー」
「マジ?」
「まじまじ。まあ、護衛は他にもいるし、下手に警戒しすぎて他から不審に思われても困る。私が命を狙われているという事はまだ一部の人間しか知らないのだからね。それに」
グザヴィエ殿下はアンセルム様を手で示した。
「彼もいる」
「ぎ、ぐぅ……っ」
「何の呻きだそれは」
「いや、セルが強ぇーのは知ってるけど、お前側近だろ! 参謀だろ! 護衛も出来るってなったら俺の立場ねーだろ!」
眼鏡の奥の瞳が物言いたげに細められている。
私だって思う。『それは貴方でしょう』と。
「でも、大会自体は好きでしょ?」
「う……まあ。学園にもそこそこ強い人いますし、学園入ってからはあんま人と剣を交える事もなかったですし」
「丁度いい機会だ。楽しんでおいでよ。勿論、参加するには結果は持って帰って来てもらうけれど」
「あーもう、わかりましたよぉ!」
「それにね、ヴィー。私は剣の才はそこまでないけれど」
グザヴィエ殿下は机の上で手を組む。
彼は視線だけを傍らに立つヴィーへ向けて不敵に笑った。
「ラガルドはそうではないよ」
その言葉の意図を私は理解した。
ラガルド殿下が試合に出るならば、試合内部から探りを入れられる者もいた方が都合がいい。
おまけにヴィーはラガルド殿下からも気に入られている。
グザヴィエ殿下はヴィーにラガルド殿下の監視も頼むつもりなのだろう。
「お、ほんとですか!」
何も知らず喜ぶふりをするヴィー。
けれど彼の瞳が何かを悟ったように細められているのを私は見逃さなかった。
***
昼休憩後の講義が生徒会室から離れた場所であるというニコレットとジュリエンヌをグザヴィエ達三人は見送る。
「話しておかなくていいのですか」
「うん、まだね」
アンセルムの問いの真意を汲んだ返答が返される。
「貧困層の女性や子供の誘拐の頻発、捕らえた人攫いの聴取で聞いた『被検体』、第二王子派絡みで新しく浮上した――きな臭い噂」
深い溜息が吐かれる。
その隣に立つヴィクトルもまた、先程までの明るさを表情から消していた。
「何より、『夢の香霞』が厄介過ぎる。お陰で無暗に人を近くに配置出来ない」
「事態はややこしくなる一方ですね」
「……全くだよ」
アンセルムの相槌を聞きつつ、グザヴィエは苦々しく吐き捨てるのだった。




