第40話 女子会
王立魔法学園ではいくつかの催しがある。
その中の一つが剣術大会だ。
剣の腕を磨き、その成果を示す日。
学園中の男子生徒を集め、何日も日を跨いで行われる大規模なイベントであり、毎年とても盛り上がる。
何故魔法学園なのに……というのは、学生の中には戦が起きれば戦場で武勲を立てなければならない者が存在するという理由が大きい。
魔導具などではない、純粋な魔法を扱える者が減少傾向にある今、武具の扱いが重要視されてきている。
だからこそ学園に属する男子生徒は魔法を学びつつも武具に触れる授業も必修で受けているのだ。
性別の違いや専攻科目等によってカリキュラムが異なる学園では、体を動かす科目を男性しか受けない。
故に剣術大会は男子生徒のみが参加する催しではあるが、運動神経に優れた勇ましい異性というのものに憧れを抱く女性も少なからずいる……いや、非常に多いために、多くの女性にとっても無視できない催しだ。
因みに女性向けの催しとしては別の時期にマナーレッスンの延長として大規模なお茶会とパーティーが開催される。
お茶会は男子禁制、夜のパーティーについても女性を立たせる事が良しとされる。
男尊女卑的な価値観が残る現代においては珍しく公平性を考慮しているのが我が校であった。
「とはいえ、今年もヴィクトルの一人勝ちな気がするわ」
ヴィーの誕生日の次の休校日。
私とジュリアンヌ様はクロエ様にお会いするべく、ラファルグ侯爵家のタウンハウスを訪れていた。
談話室に用意されたお茶やお菓子を楽しみながら、私達三人は最近の近況や世間話などに耽っていた。
そんな中でジュリアンヌ様はやれやれと溜息を吐いたのだ。
「彼から剣術を取ったら何も残らないですから」
「限度というものがあるでしょう。あれだけ優れているのであれば寧ろ剣術しか能がないというのも称賛に値する個性に成り得るわ」
思ってもいない事ではあるが、一応『剣術バカ』設定があるので、私は素知らぬ顔で彼に対する辛辣な評価を告げておく。
しかし何も知らないジュリアンヌ様にとっても、ヴィーの剣の腕は他の欠点を見逃せる程のものに映っているようだ。
私達は学園生活二年目。
既に一度、剣術大会を経験している。
剣術大会には学年別の個人戦と、個人戦で上位の成績を収めた一部生徒による学年の垣根を越えて順位をつける本選がある。
本選前に一度学年別で順位を決めているのは、熟練度や経験の差から高学年の生徒達の方が圧倒的に有利だからという事情がある。
一年生が最終学年の先輩にぼこぼこにされ続ける姿を見ても誰も楽しくはないだろう、という考えだろう。
しかしそんな学園側の配慮を無視して剣術大会で優勝を飾ったのこそが私の婚約者のヴィーであった。
「ヴィーさまは、剣がお強いのですね」
「強いなんてものではないのよ。本人も婚約者であるニコレットも驕らず涼しい顔をしているけれど」
「勿論剣術に関しては認めてはおりますが、私が喜んだり褒めたりするとすぐに調子に乗るんですよ」
「ああ……目に浮かぶわ」
ジュリアンヌ様がくすくすと笑いながら紅茶を一口飲む。
「けれど、王太子従きの騎士として、彼以上に安心できる存在もそういないわ。たまには褒めてあげてもいいのではなくって?」
「甘やかすという事でしたら、最近すでにしてきたので」
「ああ、お誕生日だったものね。家に帰してやる時間が遅くなってしまったと殿下が申し訳なさそうにしていたわ」
「え、ヴィーさまもお誕生日だったのですか?」
「ええ。まぁ」
「……いけない。今はヴィクトルの事よりもクロエの事よ」
目を丸くするクロエ様の反応に私とジュリアンヌ様は顔を見合わせ、それから近くにいた侍女をそれぞれ呼びつける。
そして互いに用意していたプレゼントを侍女から受け取ると、それをクロエ様へ差し出す。
「クロエ。お誕生日おめでとう」
「おめでとうございます」
「え、え……っ」
クロエ様の誕生日はヴィーの誕生日の二日後。
しかしその日は学校があり、ジュリアンヌ様もクロエ様もご用事があったために時間が合わず、その後一番近くの休校日を選んでクロエ様とお会いする時間を作ったのだった。
「い、いいんですか……?」
「勿論よ! 本当はドレスを十着くらい送りたかったのだけれど、殿下とアンセルムに止められてしまったの。だから私からはアクセサリーを」
ドレスを十着も送り付ければ婚約者であるアンセルム様の立つ瀬がないというものである。
ジュリアンヌ様の選択を未然に防げたらしい事に私も安堵した。
「私からはペンを。最近お勉強を頑張っているとおっしゃっておりましたから」
ジュリアンヌ様のプレゼントに比べれば控えめな金額のものにはなるけれど、ジュリアンヌ様がアクセサリーを選ぶだろう事は何となく想像が出来たし、元平民のクロエ様はアクセサリーが増えすぎても扱いが困ってしまうかもしれないと考えたのだ。
「あ、ありがとう、ございます。ジュリおねえさま、ニコルおねえさま」
プレゼントを受け取り、喜びからふわりとはにかむクロエ様の愛おしさに、私達もまたつられて笑みがこぼれる。
「だ、だいじに、します」
「ええ。そうしてくれると嬉しいわ」
「はい。沢山使ってあげてください」
「は、はい……。うれしいです」
箱の中を開け、眺めては笑みを湛えるクロエ様の姿を、私とジュリアンヌ様は暫く微笑ましく見守っている。
それからふと疑問を抱いた私はクロエ様に問い掛ける。
「そういえば、アンセルム様からは何をいただいたのですか?」
「あ、えっと……」
アンセルム様の名を聞いたクロエ様が少し頬を赤らめて恥ずかしがる。
もじもじとしながらも嬉しそうに彼女は言った。
「バレッタと、パーティー用のドレスを一着」
なるほどどうやら、ジュリアンヌ様を止めたグザヴィエ殿下とアンセルム様の判断は英断だったと言えるようであった。




