第135話
「事件直後、一応セリア嬢にも事情は聞いたし、バリエ伯爵邸並びにタウンハウスなどの所有地には大掛かりな調査を入れさせていただいたのだけれどね。改めて件の事件に関する話をしたいと彼女の方から申し出があってね」
セリア様はバリエ伯爵家のタウンハウスを経由し、王宮へ向かう予定だとグザヴィエ殿下は話す。
どうやらセリア様は既に王宮から派遣した護衛をつけて王都へ向かっているらしい。
「そこでなのだけれど、セリア嬢をタウンハウスまで迎えに行く役目をニコレット嬢に頼みたいんだ」
「私に?」
「ああ。様々な事が起きた後であるし、あの事件はセリア嬢に非がある訳ではないが、それでも身内のした事となれば後ろめたさもあるだろう。そのような精神状態で王太子である私と面会しても、変に緊張させてしまうと思ってね」
「なるほど」
「グザヴィエ様。その役目、私も同行してはいけないのですか?」
グザヴィエ殿下のセリア様に対する気遣いに私は納得し、頷く。
私個人としてもセリア様の心身の状態は案じていたし、手紙の返事が来なかった事などを踏まえれば、彼女が私をパーティーに誘った事に対して罪悪感を抱えている可能性もある。
彼女の中にあるだろう蟠りを解く機会という意味合いでも少しでも早く共としてセリア様にお会いできる事は私にとって望ましかった。
一方で、同じくセリア様の友である立場にありながら同様の役目を与えられなかったジュリエンヌ様は些か腑に落ちないご様子だった。
しかし彼女の問いにグザヴィエ殿下は申し訳なさそうに微笑む。
「ただでさえ私の周囲が物騒になっている中、王宮の外や学園以外で無闇に高い身分の者や政界の影響力がある家の者を固め過ぎるのは避けたいんだ。ジュリエンヌの気持ちも分かるけれど、分かってくれると嬉しいかな」
王宮のような警備が行き届いている場所や学園のような馴染みのある場所に比べ、慣れない場所は監視や警備の穴に気付きにくい。
そして護衛の対象が増えれば増える程、護衛対象一人ひとりに割ける人の目も必然的に減る。
グザヴィエ殿下のお考えは尤もであると言えた。
「……畏まりました」
ジュリエンヌ様も当然、それを理解したのだろう。
渋々ながら、頷きを返した。
「代わりにカミーユを借りるよ。セリア嬢の証言が何かの足掛かりになるかもしれない……という事は、それを恐れた者が彼女へ口封じをしようと考えるかもしれないからね。ニコレット嬢の安全への配慮も含め、手練をつけておきたい」
「はいはいはい! 俺も俺も! 行きたい!!」
突然、グザヴィエ殿下の耳元でヴィーが叫ぶ。
大声を受けたグザヴィエ殿下は笑顔のまま顔をヴィーとは反対側に傾けた。
「うーん、煩い」
「お前が行ったら過剰戦力だろう。おまけに殿下の周りが手薄になる」
「セリア様が王宮へ行くって事はその間殿下は王宮内にいるって事ですよね? なら、もっと危険が考えられるセリア様の方の警備を固めた方が良くないですか?」
「本音は?」
「ニコルが危ないかもしれないなら守りたい」
「私情だらけだな……」
グザヴィエ殿下の問いに堂々と答えるヴィー。
曇りなき眼の彼の様子に呆れたようにアンセルム様が溜息を吐いている。
そんな一連の流れを見守る中で、私はある違和感を覚えた。
(何だか……動きが少しわざとらしい?)
ヴィーの動きが普段よりやや大袈裟に感じられたのだ。
剣術バカとして、彼が大きな振る舞いをする事は然程珍しくはないが、そのような時は大体何かしらの意図がある。
今の彼からはその意図的な部分を感じたのだ。
ヴィーは一瞬、窓の外へ視線だけを向けてから、グザヴィエ殿下の背後に回り込む。
その間、さりげなく左手で剣の柄を撫でていた。
グザヴィエ殿下は普段の笑顔を崩す事ないままその様子を視線で追っている。
そしてヴィーは殿下が座る椅子の背もたれに両手をついて、もう一度声を張った。
「あと最近ニコルと全然いれないから一緒にいる口実をください!!」
「あ、本音の本音が出たね」
「殿下ッ!!」
「あまり近くで叫ばないでくれよ。私の耳の強度は一般的だと自覚しているんだ」
グザヴィエ殿下は両手で耳を覆いながら席を立つ。
そして逃げるように椅子から離れ、部屋の角へと逃げ仰る。
生徒会長の席――窓の前にはヴィーだけが残された。
その過程を見ていた私はヴィーとグザヴィエ殿下の行動の裏に隠された意図を察しつつあった。
恐らく――窓の外に刺客がいるのだろう。
剣に触れるのが敵の発見の合図。
しかし気取られた事を悟れば敵が無理矢理にでも行動に出る可能性がある。
だからこそあくまで偶然を装い、グザヴィエ殿下を窓から離す必要があった。
それをヴィーとグザヴィエ殿下は連携して行ったのだろう。
結果、味方のジュリエンヌ様すら疑問を抱く事がない程自然な流れで、グザヴィエ殿下は窓から離れる事ができた。
「わかった、わかったよ。なら君も行って来ればいいよ」
「えっ、いいんですか! やった!」
「殿下、こいつに甘すぎますよ……」
グザヴィエ殿下は合理的な理由以外で判断を曲げるような方ではない。
恐らくは事前にヴィーと話し合った上でセリア様のお迎えに同行する事は決まっていたのだろう。
(という事は、彼が同行しても過剰戦力にならないと判断するだけの正当な理由がグザヴィエ殿下の中にあるはずなのだけれど――)
私が疑問を抱いたその時だった。
パァンッ!
破裂音が離れた場所から響く。
(っ、リュカ……?)
室内にいた者達はそれぞれ驚きを見せるのだった。




