第133話
「じゃあ、お願いしますねぇ」
カミーユとリュカはそれぞれ捕らえた不審人物を学園側が用意していた警備隊へ引き渡す。
王族が通う学園でもあるが為、取り調べの結果は王宮へも報告するとの事であった。
離れていく不審人物や警備隊の姿が遠ざかっていくのを見送りながら、リュカは横目でカミーユの顔を盗み見る。
「よかったんですか」
「ん?」
カミーユが聞き返すも、リュカは何かを更に語るような様子はなく、ただ物言いたげに見つめるだけだ。
一方のカミーユも、リュカが何を問いたいのかは理解していた。
「確かに挙動不審だったけれど、明確な証拠があった訳ではない。そんな相手も先んじて捕らえてしまってもいいのか……という事であってますかね」
リュカが小さく頷くのを確認してから、カミーユはやや困ったように苦笑した。
彼は本当に口数が少ない。
自分の意図が相手に正しく伝わっていると判断すれば今のように自分から補足説明を加える事を控える事すらある。
それを少々やりにくく感じながらも、カミーユは首を縦に振った。
「そうですねぇ。結局証拠なんてのは、後からでもきちんと出て来てくれさえすればいいんです。確実性に重きを置くあまりに主人に危害が及べば本末転倒でしょう」
納得したようにリュカが頷く。
今回の場合、現時点では証拠不十分の刺客であっても、後から証拠を揃える事は難しくない。
学園内に潜伏している不審人物は学園の生徒との繋がりを利用して護衛に扮しているものか、そもそも学園内に何の繋がりも持たない人物かの二択。
生徒と繋がりがある者であればその主人の顔もすぐに割れる。
その周辺を重点的に、取り調べや調査を行えば怪しい点を洗い出す事は出来る。
おまけに主人である貴族がグザヴィエと敵対する勢力である事も浮き彫りとなる。
一方で、そもそも外部から侵入した者については、その裏取りが出来た時点で捕縛に値する人物として認められる。
「音というのは証拠としては弱いですが、聞いた当人だけは相手が黒か白か確信を得られる事も少なくない。今回もそのケースだったというだけです」
カミーユは自分の耳を指し示す。
今回、カミーユとリュカが捕らえた者達は共犯者だ。
カミーユはニコレットとジュリエンヌとともに歩いている最中、廊下のざわめきからやや遠ざかった場所――人気のない曲がり角で話す二人の声を聞いた。
その会話の内容から彼らが護衛ではない事を即座に悟ったカミーユはその容姿を目に焼き付けつつ、ニコレットとジュリエンヌを生徒会室へ送り届けてからすぐに彼らを追ったのだ。
カミーユが生徒会室に入らないままどこかへ向かう姿を確認したリュカは現状を分析し、今の自分が果たすべき役割はニコレットにつくことではなく、何かを察知したらしいカミーユを追いかける事だと判断した。
カミーユもまた、ニコレットが腕を認めている護衛のリュカならばそう判断するだろうと踏んだ上で指示を出した、というのが今回の不審人物を捕縛するに至った経緯だった。
「そちらは何か聞けましたか……ああ、そういえば伸びていましたね」
合流した際、リュカに追わせた不審人物がぐったりしていたのを思い出し、カミーユは苦笑する。
状況から判断するに、リュカが捕らえた相手に尋問出来る機会はなかった事だろう。
「ボクの方はすれ違った時の会話もありますし、改めて聞いた話もあるので戻って共有したいところではありますが」
建物と建物を繋ぐ外廊下の、人目を避けた部分で話していたカミーユはふと何かに気付いたように顔を上げる。
視線の先には数名の研究者を連れ添った高齢の男性――フランソワの姿があった。
彼は眼鏡の奥で目を細めながらカミーユをまじまじと観察している。
「リュカさん。先に戻っていて大丈夫ですよ」
カミーユの言葉にリュカは頷くと素早く近くの木に登り、そのまま隣の木へと次から次へ飛び移る。
(お猿さんか何かなのかな……?)
彼の神出鬼没の理由を一つ知ったカミーユはそれを見送りながら感心を上回った、呆れにも似た感情を抱く。
しかしすぐに少し引き攣った苦笑を普段通りの華やかなものに変え、カミーユはフランソワや他の研究員らへと近づいた。
「フランソワ先生」
「ふむ、やはりどこかで会った事があるかね。何だか誰かの面影を感じてのぉ」
礼儀正しく頭を下げるカミーユを、フランソワは未だ至近距離から目を細めて見つめている。
「カミーユ・ヴィレットです。ご無沙汰してます、先生」
「おお、カミーユ君だったか。久しぶりだねぇ」
カミーユの名を聞いた瞬間、フランソワは目を見開き、満面の笑みを浮かべた。
嬉しそうな様子のフランソワは興味深げにカミーユの顔を見つめながら話題を振る。
「ほっほっほ。随分と雰囲気が変わったものだから、初めはわからなかったよ」
「あっはは、よく言われますー。先生の方はお変わりなさそうで」
「お陰様でねぇ。研究所の方はまだまだバタついているけれど」
「ああ……。お察しします」
フランソワはふと、思い至ったように後ろを振り返る。
「ああ、そうだ。確か君達は同級生だったかな」
「あ、は、はい……」
そう言いながら彼が見たのは、後方に控え、どこか肩身が狭そうに顔を強張らせていた一人の研究生。
彼女はぎこちなく微笑みながらカミーユへ声を掛けるのだった。
「お久しぶりです、カミーユさん」




